噺の話

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落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。

NHK新人落語大賞の放送を見て。

 昨日今日といろいろあって、ようやく録画を見た。

 NHKのサイトに出場者のプロフィールと演目が写真付きで記載されている。
NHKサイトの該当ページ

 冒頭、出場資格が東京は二ツ目、上方は二ツ目相当で入門から15年未満、と紹介された。持ち時間は11分。
 
 出演順に感想と私の10点満点の採点を記す。

笑福亭ベ瓶『太閤の白猿』
 昨年は『真田小僧』で出演。冒頭の紹介で台湾で落語会を開いたことが紹介されていた。
 「その壁を乗り越えろ」という題がつけられていた。
 果たして、このネタ選びが、「壁」を乗り越える噺と思えたのだろうか。やや、疑問だ。
 いわゆる地噺で、会話が少ない。登場人物も似ている同系統の噺に『荒茶』(上方の『荒大名の茶の湯』)がある。『お血脈』も代表的な地噺。
 落語は、登場人物をどう造形し演じ分けるか、ということも重要な要素。だから、こういう大会で地噺で挑戦ということが、すでに自分でハンデを負わせたような気がする。
 会場のある堺市にちなんだ曽呂利新左衛門が登場するから選んだのだろうか。しかし、残念ながら、ネタ選びの段階から問題があったように思う。私の採点は、7。

桂佐ん吉『愛宕山』
 初めて聴くので楽しみにしていた。もちろん、私が予想したように優勝したことはすでに記事で書いた通り。
 結論から書くと、なるほど優勝するだけの高座。
 多くの登場人物の見事な演じ分け、ハメ物もある師匠も十八番としていた上方落語の代表作のネタ選び、本来は30分は超える噺を11分にまとめた手腕、すべて実に結構だった。べ瓶の後なので、その違いがあまりにも明白になった。
 私の採点は、最上位者に「10」を付ける規則なら、10点とする。

瀧川鯉八『俺ほめ』
 題目は『子ほめ』から拝借したのだろう。
 まーちゃんと言われる男が、「俺を褒めてくれ。金平糖をあげるから」と仲間に要求して、繰り広げられる会話が中心のネタ。
 鯉八が、どんなことをきっかけにこのネタを思いついたのか。
 たとえば、同じ話題についていろんな人が思いを述べる、という観点からなら『饅頭こわい』や長屋ネタの店賃の話題なのだろう。褒める、縁起をかつぐ、ということなら『ざるや』などもある。
 自分を褒めさせる、というありそうでない設定の着眼点は悪くない。
 しかし、新作でこの大会に臨むのであれば、もう少し完成度が欲しかった。
 たとえば、桂かい枝が優勝した時の『ハル子とカズ子』は、今聴いてもネタ自体の完成度の高さを感じる。
 浅草演芸ホールの松倉会長や鶴太郎の評価は10点満点と高かったが、私には、この噺に最高点は付けられない。
 こういう味を、“シュール”と形容する人もいるのだろうが、私には彼の目指す新作の世界がこういった方向にあるのなら、あまり相性は良いとは言えない。採点は7点。

柳亭小痴楽『真田小僧』
 期待していた高座。実に良いテンポで噺が進む。
 この噺の重要な部分は父親と息子の金坊の会話にあるのだが、金坊の生意気さ、頭の回転の早さを描き出し、父親とのやりとりを楽しく、スピード豊かに演じた。
 途中の「ゆるいな!」などの科白は彼らしく現代的でありながらも噺の流れに相応しく、笑わせる。
 審査員の権太楼から「十銭“分”だけ話す、と言うと噺がふくらんでいかなくなる」という助言があった。それを聴いた時に私自身は、「へぇ~、そうかなぁ」と疑問に感じた。ほとんどの噺家は、「十銭分」として話しているように思ったからだ。
 権太楼は、「分」と言わず、噺の切れ場があることを提示しないで演っている、ということだろうか。
 後で考えると、権太楼の指摘、なるほどと思う。切れ場で父親をじらせる場面を効果的に演じるなら、たしかに最初から切れ場があることを明かさない方が良い。得難い助言だったと、納得。
 その権太楼は、小痴楽のみ10点だった。分かる人には、分かるということだし、より上を目指せ、という思いでの一言だったのだろう。
 佐ん吉とは甲乙つけがたく、10点。

春風亭昇々『湯屋番』
 ご本人は登場人物を演じわけているつもりなのだろうが、そのうわべの口調の違いだけではそれぞれの人物が活きてこない。特に女性の描き方に問題があるように思った。男と同じようにパァパァ言っている感じで、残念ながら色気がない。
 よく言われることだが、それぞれの人物の気持ちになりきれていない、ということではなかろうか。全体的に、同じような口調でまくし立てているような気がする。
 また、くすぐりの後で、笑いを一瞬待つ間をつくるのも、感心しない。
 彼独自のくすぐりも、私は笑えなかった。採点は7。


 やはり、予想通り、そして期待通りで上方代表の佐ん吉と、江戸落語代表小痴楽の一騎打ちだ。この二人と他の三人の差は、大きかったと思う。

 どちらが勝ってもおかしくはないだろう、と思っていた。


 審査員は次の通り。

  桂文珍
  柳家権太楼
  恩田雅和(天満天神繁盛亭支配人)
  松倉久幸(浅草演芸ホール会長)
  片岡鶴太郎
  やまだりよこ(演芸ジャーナリスト)
  山元浩昭(NHK大阪放送局制作部部長)
 
 頭文字で、縦に審査員、横に出場者五人の採点を並べてみる。

    ベ   佐   鯉   小   昇
桂   9  10   9   10   9  
柳   8   8   8   10   7
恩   9  10   8    9   8
松   9   9  10    9   9
片   9   9  10    9   9
や   9  10   9   10   8
山   8  10   9    8  10

計  61  66   63   65   60  

 
 佐ん吉と小痴楽が最高点で同点、という採点で私と同じなのは文珍とやまだりよこ。
 結構、この二人とは近い落語観を持っているのかもしれない。

 権太楼の小痴楽が10点は同感だが、佐ん吉の8点は、ちときびしいなぁ。
 やはり、枝雀的な爆笑上方落語に思い入れが強いのだろうか。

 鯉八のみ10点の鶴太郎は、ピン芸人として新作派への評価が高くなる、ということだろうか。
 しかし、ギャグとはいえ、「師匠よりいい!」は、ちょっといただけない科白だ。

 NHKの山元という大阪の制作部長の小痴楽の「8」、鯉八「9」、昇々の「10」という評価は、何らかの“政治的”な判断が背景にあったのかもしれないが、制約のない評価結果なら、私はこの人に東京の落語を審査していただきたくない。

 さて、これで、落語と漫才を分けて審査するようになってから、次のような歴史になった。

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        西             東
1994年                桂平治(→桂文治)
1995年                柳家三太楼(→三遊亭遊雀)
1996年                古今亭志ん次(→志ん馬)
1997年  桂宗助
1998年                柳家喬太郎
1999年  桂都んぼ(→米紫)
2000年                林家彦いち
2001年  桂三若
2002年                古今亭菊之丞
2003年                古今亭菊朗(菊志ん)
2004年  桂かい枝
2005年                立川志ら乃
2006年  笑福亭風喬
2007年  桂よね吉
2008年                三遊亭王楽
2009年                古今亭菊六(→文菊)
2010年                春風亭一之輔
2011年  桂まん我
2012年                桂宮治
2013年                鈴々舎馬るこ
2014年                春風亭朝也
2015年  桂佐ん吉
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 さて、来年は、いったいどんな名前が刻まれるのか。
 落語協会は、巻き返すことができるか。

 また、一年、楽しみに待ちたいものだ。
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Commented by ほめ・く at 2015-11-02 08:49 x
20数年ぶりにこの番組を見て拙い感想を記事に書きましたが、どうも審査基準がよく分かりません。本選にどういう基準でこの5名が選らばれたのか、その経緯も理由も分からないというのが率直な感想です。本選の審査員の中に落語が良く分かってないのではという人もいて、予選でも同様の事情があるのではないでしょうか。5人の中では佐ん吉の授賞は順当な所だと思いました。
Commented by kogotokoubei at 2015-11-02 09:00
>ほめ・くさんへ

まったく同感です。
私が、予選を公開制にすべき、と何度か記事に書いているのは、その密室性を改めて欲しいからです。
特にNHK大阪の部長さんの評価には、首をかしげます。
予選には、いわゆるゲラ子のおばさん達を呼んで、NHkの関係者が評価するらしいとのコメント情報を得ていますが、それじゃダメですよね。
Commented by 幾代太夫 at 2015-11-02 12:06 x
幸兵衛さんのおっしゃる通り、「愛宕山」を11分にまとめた佐ん吉の技術に感服致しました。上方落語に疎い私も大変に魅かれた高座でございました。
江戸落語推しとしては小痴楽の惜敗は残念でなりません。タラレバになりますが、東京開催だったらなぁ…笑 と思うばかりです。
来年は小痴楽のリベンジと落協若手の躍進を期待したいです。
Commented by kogotokoubei at 2015-11-02 12:22
>幾代太夫さんへ

佐ん吉は、師匠吉朝譲りの上方落語正統派、という印象です。
もう少し、遊びの部分が膨らめばもっと大きな存在になるのではないかと期待します。
小痴楽には、まだチャンスがありますし、良い経験になったと思います。
私が直前に聴いた『祇園会』は、さすがに11分にはまとまらないこともあり選ばなかったのでしょうが、佐ん吉を見習って、『大工調べ』あたりで来年勝負して欲しい、なんて思っています。
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by kogotokoubei | 2015-11-01 19:41 | テレビの落語 | Comments(4)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛