噺の話

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「香具師」の由来-小沢昭一著「香具師の芸」より。

 三遊亭金馬の『浮世断語』から、テキヤの符牒のことを紹介した。

 なぜ「香具師」と書いて「やし」と読むか、など香具師のことをどこかで読んだなぁ・・・と思って本棚を探し、ようやく見つけた。


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 『話藝-その系譜と展開』(三一書房、昭和52年初版発行)の中にある、小沢昭一「香具師の芸」だった。
 この本は、伝統芸術の会の編集だが、同会の会長は、心理学者の南博である。

 それでは、「香具師の芸」からご紹介。
「香具師」とは何か

 「テキヤ」ってことばが非常に耳新しい方もお一人や二人いらっしゃるかもしれませんので、私もウケウリですが、ちょっと申し上げますと、普通は「野士」ともいいます。野の士という字を本人たちは書きたがります。在野のさむらいっていうムードが自分たちにぴったりなんでしょうかね。ヤシ、テキヤ、同じことでございます。テキヤっていうのは「香具師」と書きます。
 なぜ香具の師がテキヤなのかっていうお話はあとにしまして、「テキヤ」っていうのはひっくり返したことばなんです。あの人たちはことばをひっくり返すんです。いまジャズマンもひっくり返します。「昭ちゃん、ルートコ行った?」なんて言います。トルコへ行ったかっていう、これはジャズマンのことばです。途中ですけれども、テキヤさんには隠語がたくさんあるわけです。そういう、その仲間だけで隠語のある世界っていうのは、僕は本物の世界じゃないかっていう気がするんですよ。はなし家さんがそうでしょう。すし屋だって、床屋だってそうでしょう。伝統が深くて、その仲間だけで閉鎖社会を作って長いこと腕をみがき上げてきた世界には、隠語ができるんですね。新劇にはないんだ。

 隠語(符牒)のある世界は“本物”、という小沢さんの指摘、よく分かるなぁ。
 『浮世断語』には、床屋で落語家と共通の符牒が普及した背景を説明していたが、それは、後日あらためてご紹介しよう。

 引用を続ける。

 ああいう隠語のある世界っていうのは僕は尊敬したいと思うんですが、「テキヤ」っていうのは、ひっくり返したことば、おそらく「ヤーテキ」ですね、もとは。「何テキ」っていうことばが昔あったんです。「おい、金テキ」とか「おい、昭テキ」とかって、人の名前を言うときでも、「何テキ」っていう言い方をする。これは「具体的」って言う場合の「テキ」とは使い方が違って、つまり「ヤーちゃん」とか「ヤー君」とかって意味で、「ヤー公」というのと同じような使い方。だから「ヤーテキ」って言っていたんです。その「ヤーテキ」の「ヤー」は野士の「ヤー」だ。だから逆に言うと、野士を「ヤーテキ」と言って、「ヤーテキ」をひっくり返して「テキヤー」、「テキヤー」「テキヤ」と言うんだっていう説があるんだけれども、これもどうもこじつけのような気もするのでありまして、ほんとうはよくわからないんですが、問題は「香具師」という字ですね。
 「○○テキ」という接尾語のことは分かるが、やはり、「ヤーテキ」--->「テキヤ」は、たしかに無理があるような、ないような。

 引用を続ける。

 「香具」っていうのを売っていた人がいたわけ。香具っていうのは、白檀とか伽羅とかっていう匂いもの、またその道具だけれども、これはお化粧品の一種というふうな考えがあるんですね。いま薬局行くと、お化粧品と薬品と同時に売っているんですが、あれは非常に古式ゆかしいことなんで、つまり、薬草、そういう薬と匂い袋などの香具、そういうものは同じ商売なんです。
 で、テキヤさんのほうでは、信仰神は神農皇帝というシナの神さまということになっています。関西のほうでは、テキヤっていうことばを言っても、あんまり通じません。神農さんて言いますね。関西のほうが根源により近いのでしょうか、とにかくテキヤさんの信仰神は神農さま。で、大阪なんかに行きますと、薬種問屋とか、昔の漢方薬、ああいう人たちの信仰神が神農さん。ですから、もとを正せばテキヤさんと薬屋さんとは同じ神職をもつ仲間、テキヤさんが実は薬売りなんです。薬売りであり、香具売りであるわけなんです。
 薬屋さんとテキヤさんとがこんなに近い関係なんてねぇ。
 この後に、歴史上のテキヤさんの名前が登場する。「ヤシ」の新たな語源の説も説明されている。

 ついこの前まで、といっても明治のことですが浅草の奥山で、長井兵助という居合い抜きがありました。それから松井源水という人がコマ回しをやっておりましたけれども、居合い抜きもコマ回しも付属品でありまして、つまりは歯みがき粉を売るのが本旨でありました。いろんなことをやって、結局最後は歯みがき粉を売るわけであります。歯みがき粉も薬品関係の品目ですね。
 こうして考えますと、「ヤシ」は「薬師(ヤクシ)」のつまったものという郡司正勝説のほうがほんとうのように思われます。
 郡司正勝先生の最近お書きになったものを読みますと、歌舞伎の俳優さんは、昔々ですが、やはり香具店を持ってる方が多かったそうですが、かつて香具師は日本の芸能の多くを傘下におさめていました。歌舞伎も、お上が許可して常設をみとめたものの他は、すべてが香具を売るための「愛敬芸術」として、寺社の境内で小屋掛けしていたもののようです。
 なるほど、そう言えば私が子供の頃に縁日で楽しみだった「ハブ液売り」(本書では、この後に「ヘビ屋」としてしっかり説明されている)も、あくまで薬を売るための芸だったのだよなぁ。

 たしかに、 「ヤクシ(薬師)」→「ヤシ」の方が、「野士」→「ヤシ」よりは、説得力があるように思う。
 郡司正勝さんは早大教授だった方で、歌舞伎、日本舞踊、民俗芸能を専攻された方。『話藝』の巻頭の章で「話芸とは」という文章が掲載されている。

 この後に、「タンカの構造」や、「ヘビ屋」のこと、「職人ブチ」「行者ブチ」など、学校では教えない楽しいことがたくさん書かれている。

 あらためて、小沢昭一さんが遺してくれた文章や画像、映像の歴史的な重要性に思いがいたるとともに、子供の頃の縁日の楽しさを思い出す、“小沢節”ともいえる文章を楽しむことができた。


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Commented by at 2015-08-24 07:09 x
隠語のある世界は本物、納得してしまいます。
モノホン、クリソツなんていうのはいかにも業界っぽいですね。

小沢氏が電車内で、品の良いベージュのジャケットを召されて読書していた様子を今でも覚えております。
Commented by kogotokoubei at 2015-08-24 08:41
>福さんへ

隠語、符牒は、その世界の外の人には分からないよう、その内輪の人たちだけでコミュニケーションをつする必要性と、ある意味では遊び心から出来上がったものだと思います。
だから、伝統ある芸能や職人の世界だけに存在するのでしょうね。
それを“本物”と称する小沢さんのお気持ち、同感できます。
貴重な文章や映像を遺していただき、小沢さんに感謝!
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by kogotokoubei | 2015-08-23 09:14 | 伝統芸能 | Comments(2)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛