噺の話

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知らないネタが多い!-野村無名庵著『落語通談』「落語名題総覧」より。


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 野村無名庵の『落語通談』は昭和18年に高松書房より単行本が発行され、中公文庫で昭和57年に再刊された本。

 この本には「落語名題総覧」というネタの一覧が掲載されており、そのネタの数は496席におよぶ。

 五十音順ではなく、無作為とも思える順で並んでいるので、これまで暇をみつけてはエクセルで五十音順の一覧を作っていた。
 志ん朝の主要落語会のネタの一覧をつくって以来の‘力仕事’だった.

 最近、ようやく完成したのが次の表だが、これでは読めませんよね^^

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 一覧のご紹介は、もう少し待っていただき、著者野村無名庵について紹介したい。
 中公文庫BIBLIOで再刊された『本朝話人伝』のAmazonのブックレビューに私が書いた内容を引用する。
野村無名庵著『本朝話人伝』

無名庵を知るために、加太こうじさんの『落語-大衆芸術への招待-』から少し長くなるが引用する。「~私は顧問の正岡容にすすめられて落語研究家の野村無名庵について落語の勉強をすることになった。~野村無名庵は私に、落語を勉強するなら、落語を知らなくてはだめだから、まず、寄席できき、かつ、速記本を読めといって、騒人社刊の『落語全集』12巻を貸してくれた。~無名庵はさいそくしなかったが、昭和20年の春に、12冊を風呂敷に包んで小石川の格子造りの家へかえしにいった。~それから二、三日ののち、野村無名庵は空襲のために死んだ。~後年、講談の一竜斎貞丈と無名庵の思い出を語ることができたが、貞丈は『あんな、いい先生が爆撃で死んじまったときいたときは、この世には神も仏もないんだなあって思いましたよ』と、いっていた」私がこの本を読むきっかけは、まさにこの文にあった。そして、この珠玉の落語・演芸評論を読むうちに、空襲で亡くなった本人の無念と、日の目を見ることがなく焼失したであろう数多くの原稿があまりにも大きな文化的損害であったことに心を痛めるのだ。よくぞ改版発行となってくれた、その喜びももちろん大きい。


 実は、先日紹介した、加太こうじさんの『落語-大衆芸術への招待-』で知った人だった。

 明治21(1888)年8月月23日生まれで、 上記の通り、昭和20(1945)年5月25日の東京空襲で亡くなった。
 加太こうじさんの本から、レビューでは書かなかった野村無名庵に関する部分を紹介したい。

小説家谷崎潤一郎とおなじ中学校で、谷崎が一組の級長、無名庵は三組の級長だったと、長谷川伸が随筆に書いている。無名庵の著書には、落語家の名前を借りたものや演芸関係の新聞雑誌の記事を別にして『本朝話人伝』『落語通談』などがある。無名庵は一時、古今亭元輔といって百面相と落語で高座に出たこともあるそうだが、これは、糊口をしのぐために、やったことであろう。元輔という芸名は、その本名が野村元基であることによっている。

 

 あらためて、その代表的な著作『落語通談』の「落語名題総覧」のこと。
 著者野村無名庵は次のように記している。

これは落語家の携帯用として「昔噺百々」と題し、懐中持ちの小さな帳面に印刷、明治42年1月、柳連でこしらえた非売品であります。三十年も以前の事ですし、その後震災もあり、ほとんど見当たりませんので、探していましたところ、先頃幸いにも先輩鶯亭金升氏から、御所蔵品を御恵与下さいましたので、この喜びを御同好の各位にも分かちたくかくは全部を転載した次第であります。もちろんその以後に出来ました新作や、上方から移入された関西の話は入っておりませんが、これだけでも合計四百九十六種、思えば随分あるものと存じます。もっとも時代に合わなかったり、憚る筋があったりして、現在やれないのも夥しく含まれていますので、それ等は次第に忘れられ、今日ではその道の専門家でも、内容の分らぬ話が相当にありましょう。筆者も残念ながらこの中で、全然見当のつかないのが、八十幾つもあったには赤面しました。


 もし、昭和18年に本書を上梓できず、鶯亭金升-おうてい きんしょう、雑誌記者・新聞記者・作家で、『明治のおもかげ』(岩波文庫)などの著作がある-から譲り受けた「昔噺百々」を野村無名庵の家に置いていたなら、空襲で燃えて無くなっていたかもしれない。

 せっかく、無名庵が後世のために遺してくれたものである、落語愛好家の皆さんのためにも、全496席を並べてみたい。
  (字は同書の表記のまま。順番は同書並び順)
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あ行
あ  朝ばい 明石参り あわもち 明がらす 穴どろ 欠伸指南 麻のれん 
   朝友 あり(無筆の女房) 天に浮橋 有馬のお藤 あかん堂 阿波太郎
い  今戸やき 伊勢参り 勇の遊び 芋食うな 居残り左平治 磯のあわび 
   意地くらべ 芋俵 石がえし 一分茶番 田舎芝居 いいえ いはいや 
   今戸の狐 いつ売る いちこ いもり黒焼 いなり車 市助酒
う  厩火事 牛かけ うちわや 牛の嫁入 魚売人 うなぎや 梅ほめ 
   牛ほめ 浮世ぶろ 植木のお化 浮れ提灯 うかれ三番 魚づくし
   うそつき うらむき 鰻屋幇間 うきよ床 浦しま屋 うそとみ
   植木の気違い うば捨山 氏子中 馬の田楽 牛の丸薬
え  永代橋 えて吉 絵双紙屋
お  おふみ様 お七 おしくら およく おはらい お見立 大男の毛
   小原女 親子茶屋 おせつ 泳ぎの医者 音曲風呂 音曲質 おいだき
   おうむ徳利 おおかみ 王子の狐 おかふい 王子幇間 お釜様
   おすわどん お血脈 おのぼり 鬼娘 近江八景 おもと違い 
   お七の十 お若伊之助
か行
か  かつぎや 合羽 紙くづ屋 勘定板 鏡のない国 紙入 釜どろ 
   代り目 蚊いくさ 蛙茶番 かけまん かし本屋 かい小僧 活々坊
   かべ金 形見わけ 火焔太鼓 岸柳島 から茶屋 看板の一 
   からくりや 加賀の千代 雁風呂 かわ衣 風のかみ 開帳の雪隠
   雁つり 火事息子 鰍沢 がまの油 亀太夫 かたぼうかた袖 景清
き  狂歌家主 きつね きゝゝゝま 菊江仏壇 きめんざん 錦明竹 
   禁酒番屋 気養い帳 杵 胆つぶし ぎぼし 近日息子
く  首ったけ 廓大学 熊坂 熊の皮 くみたて 九だん目 九郎蔵狐 
   楠運平 首屋 黒は弱い 熊の浦 熊野ごふ 黒焼 首つぎ 首提灯
   くわ形
け  稽古所 けさ御前
こ  高野違い 権助提灯 乞食の夢 五人廻し 子わかれ 小いな 五百駕
   五郎えい 五もく こしょう 胡椒の悔み 木の葉狐 黄金餅 駒馬
   後生鰻 小言幸兵衛 甲府い こんにゃく問答 こいがめ 公冶長
   子がえり 御百人一首 子供洋行 こび茶いい 紺屋高尾 甲州茂兵衛
   後家馬士 五人政談
さ行
さ  盃の殿様 秋刀魚殿様 三人片輪 三助の遊 三枚起請 三人無筆 さめ 
   三両残し 真田小僧 さけ売 三人絵かき 三でさい 西行 三百植木
   三年目 三十石 さら屋
し  地口 蜀山人 将棋の殿様 三味線栗毛 しの字嫌い 芝浜 鹿政談
   白木屋 品川心中 素人車 松竹梅 七兵衛 仕かえし しめこみ
   宗かん 士族の車 しるこや 甚兵衛に五俵 神道茶碗 菖蒲かわ
   七だん目 芝居風呂 芝居長屋 尻ちがい 質屋が原 しし物語
   寺号山号 寿限無 心がん 写真の仇討 樟脳玉 十八壇林
   新聞記者 しゃっくり政談 品川 しに神 しぼり紺屋 甚五郎
   品川の豆 質屋の庫 仕込みの箪笥 虱茶屋 
す  すきみ 酢豆腐 脛かじり 菅原 ずっこけ 水中の玉 脛きり奴 
   酢瓶 脛かじり 鈴ふり 住吉かご
せ  せき所 ぜんそく せった せんき 世辞屋 清正公酒屋 千両みかん 
   宗禅寺馬場
そ  蕎麦の殿様 外りょう それがら 蕎麦の羽織 ぞろぞろ
た行
た  大工調べ 高尾 立なみ 高さごや たらちめ 狸の嫁入 だくだく 
   玉きん 代みゃく 館林 団子兵衛 たこ芝居 狸のさい 狸の釜 
   狸の大根 狸の坊主 狸の面 大仏餅 太鼓ばら 竹の子 大王下し 
   魂違い たがや 太平楽 大黒の鼠 俵藤太 棚という字 巽の辻占 
   ためし斬 大福屋 立切
ち  茶釜の喧嘩 茶金 縮み上がり ちょう合 町内若者 張果郎 茶の湯 
   ちきり伊勢屋 茶碗屋敷
つ  佃まつり 搗屋無間 つき馬 つづら つるつる 佃じま
て  天災 てんしき てん宅 出来心 天とく 天人 てっかい
と  道灌 富の八五郎 富の久蔵 土蔵の夢 とろろん とんちき 
   とうなすや 同双紙 道具屋 年ほめ 隣のはな とよ竹屋 とけつ 
   土俵入 徳利亀屋 とう神 遠眼鏡
な行
な  成田小僧 泣き塩 夏どろ 夏の医者 中村仲蔵 鍋ぞうり なす化け 
   なめる 長さき屋 長刀きず
に  二十四考 錦のけさ 二階ぞめき 二分つり にわかどろ にう 
   尿どくり 二番目 人形買 にせきん 人参かたり
ぬ  布引
ね  葱鮪の殿様 ねこ久 ねどこ 猫の忠信 ねこ芝居 年中行事 猫定 
   猫たいじ
の  のめる 野ざらし
は行
は  初音の鼓 鼻利源八 鼻利源兵衛 鼻利長兵衛 羽織 早桶屋 
   花見の仇討 化物長屋 花見 囃子長屋 半分垢 化物使い 鼻がほしい 
   初天神 はんかい 羽うちわ 八門とん甲 八九升 派手彦 はんごん香 
   橋弁慶 灰屋騒動
ひ  ひと目上がり 一つ穴 百人坊主 ひねりや 火とう ひとびょう
   人まね 引越の夢 ひなつば ひや ぴんと落ち 姫かたり 一人酒盛
   百年目 不精代参 びん乏神
ふ  古喜 二ツ三ツ四ツ 富士参り 文違い 船とく 風呂しき 武助馬
   古寺古い 福のかみ 文七元結 不動坊 船べんけい
へ  屁ひねり べっかこう 竃ゆうれい 竃盗人
ほ  ぽんこん 星野屋 ぽかんぽかん 坊さんの遊 本膳 包丁 ぼうだら 
   法華長屋 本堂建立 法事の茶
ま行
ま  松引 三つ巴 万金丹 万ざい まくらや 松田加賀 饅頭嫌い 万病丹
み  水屋の富 みいらとり 宮戸川 目がね屋 味噌ぐら 茗荷屋
む  無筆の手紙 無筆の医者
め  妾馬 妾の手切 妾の角力 目ぐすり
も  元久かつら 百川 もぐら 元犬 もう半分 もうる
や行
や  宿屋 山崎屋 やかん 薬缶どろ 厄ばらい 宿屋の仇討 弥治郎 
   柳の馬場 やしま やっこ吉 弥吾平 薬缶なめ やげん 山岡角兵衛
ゆ  雪てん 夢合 夢の瀬川 夢金 湯屋番 ゆきとん 夢八
よ  夜かご 四人くせ よみうり 吉野 よいよい蕎麦 四段目 
   養老滝 よたかお松
ら行
ら  らくだ
り  悋気の独楽 理はつ床 両国八景 利休の茶

れ  れこさ
ろ  六歌仙 六尺棒 六段目
わ  和歌三神 笑い茸 わしがかか 我わすれ
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 知らないネタが、なんと多いことか。
 野村無名庵でさえ、八十いくつ知らない噺があったと知って、少し気が楽になる^^

 『楠運平』は『三軒長屋』、『百人坊主』は『大山まいり』であることは察しがつく。『万ざい』は、たぶん『掛取萬歳』だろう。
 『羽織』が『羽織の遊び』のことなのか、他のネタなのかは不明。
 『いいえ』なんてネタは、まったく内容の想像がつかない。「知ってますか?」「いいえ」というくらいのものだ^^
 『れこさ』って、いったい、なにさ?

 ここ数年で、聴くことのできた噺も、いくつかある。
 関内の小満んの会で『有馬のお藤』に出会った。小満んには『ゆきとん』も聴かせてもらっている。
 『おふみ様』は、NHKの「落語でブッダ」で塩鯛のこの噺を聴いた。
 『植木のお化』は人形町らくだ亭で一朝が楽しく演じてくれた。
 喬太郎が掘り起こしてくれた『ぎぼし』は、何度か聴いている。
 『よいよい蕎麦』は昨年三笑亭夢吉が聴かせてくれたなぁ。

 ちなみに、もっとも多かったのは「し」行のネタ。次のように42席ある。

-----------------------「し」行のネタ----------------------------------------
地口 蜀山人 将棋の殿様 三味線栗毛 しの字嫌い 芝浜 鹿政談 白木屋 
品川心中 素人車 松竹梅 七兵衛 仕かえししめこみ 宗かん 士族の車
しるこや 甚兵衛に五俵 神道茶碗 菖蒲かわ七だん目 芝居風呂 芝居長屋 
尻ちがい 質屋が原 しし物語 寺号山号 寿限無 心がん 写真の仇討 樟脳玉 
十八壇林 新聞記者 しゃっくり政談 品川 しに神 しぼり紺屋 甚五郎 
品川の豆 質屋の庫 仕込みの箪笥 虱茶屋
-------------------------------------------------------------------------
 『甚兵衛に五俵』なんて噺、いったいどんな内容なのだろう。

 「る」のネタは皆無。だから、新作で「る」のネタを作れば、結構目立つだろう^^

 興津要さんの『古典落語』全6巻に収録されているネタの数は、197席。
 三一書房『古典落語大系』全8冊が212席。
 麻生芳伸さんの『落語百選』と『落語特選』の6冊で合計140席。
 これらは、ネタそのものが紹介されている本。

 概要についてのガイド本では、矢野誠一さんの『落語手帖』の収録数は、274席。同じく矢野さんの『落語讀本』が303席。二村文人・ 中込重明著、 延広真治編集による『落語の鑑賞201 』は、その題の通り201席。

 だから、あらすじや解説はついてないものの、この496席一覧は、結構貴重だと思う。
 このリストを作りながら、まだまだ、落語のネタはあるのだ、ということを実感した次第。

 意欲のある噺家さんに、一つでも多く、埋もれかかったネタを掘り起こしてもらいたい。
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Commented by 雨休 at 2015-03-17 22:57 x
あの…『いいえ』で思い出した話なんですが。
ウチの大学の落研のとある新入部員、遊びに寄ったOBの
私に質問して曰く、
「あの、先輩…『三人いいえ』って噺、御存知ですか?」
…大学に入るまで落語の「ら」の字も知らなかった男が。
いるんです時々。いきなり珍品に興味を示す奴。
『いいえ』またの名を『多見江尻』ともいうバレ噺の存在は、
川戸貞吉さんが留さん文治師のことを書いた文章の中に
登場するので、知ってはいましたが。
「音源ありませんかねぇ?」って知りませんヨそんなこたぁ。

その男、その後も、まったく演じ手のないような噺をむりやり
覚えてはお客に多大なる労苦を強いるという、実に罪深い
学生生活を送り。
ついには、某協会の要職を勤める、ある師匠の門をたたき、
昨秋より、芸人生活をスタートさせてしまいました。

今回上がった「???」なネタの数々、そのいくつかは、
いつの日か、その彼が掘り起こすかも知れませんが…
幸兵衛様からキツー~イお小言をいただきそうで…。

Commented by 小言幸兵衛 at 2015-03-18 08:46 x
さすが雨休さんですね、『いいえ』をご存知とは!
川戸さんの本で確認します。

なかなか、頼もしい(?)後輩がいらっしゃるようで、この先、その方の高座を聴くのが楽しみです。

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by kogotokoubei | 2015-03-17 00:10 | 落語のネタ | Comments(2)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛