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柳亭小痴楽・古今亭始 二人会 赤坂カルチャースペース嶋 3月7日

 落語芸術協会のホームページで、先週さがみはら若手落語選手権の最終予選で聴いた柳亭小痴楽と、古今亭始との二人会が赤坂であることを知った。赤坂寄席EX、という会でネタ出しに小痴楽が『大工調べ』、始『鮑のし』とあり、副題が「キレッキレ落語の二人会」とのこと。

 都内での手作り感のある会のようでもあり興味が沸き、浅草見番の雲助を諦め、初めて落語千代田線之会主催の会に行った。予約していたので木戸銭は千五百円、当日券なら二千円。

 地下鉄千代田線の赤坂駅から、いったん坂を上り、また下ってすぐに会場のカルチャースペース嶋があった。
 開場二時より前に着いたので、少し周辺を散策。二時を五分ほど過ぎてから再度訪れ、受付で木戸銭千五百円を払って靴を脱いで会場へ入るとパイプ椅子が並んでおり、やや高目の場所に、狭いながらも高座が作られている。
 最終的には常連さん中心だったのだろう、三十四、五名のお客さんだったように思う。

 次のような構成だった。
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柳亭小痴楽 『浮世根問』
古今亭始   『鮑のし』
(仲入り)
古今亭始   『棒だら』
柳亭小痴楽 『大工調べ』
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柳亭小痴楽 『浮世根問』 (27分 *14:34~)
 上野広小路のタリーズの自動トイレの話や、東京かわら版に掲載されたこと、そして楽屋にあった自動掃除機が喋ることなどのマクラが13分ほどあったが、二席目でも思ったのだが、この人はマクラが楽しい。
 定型化されたネタとしてのマクラもあるのだろうが、その時々のアドリブで語られる内容でも、笑いのツボをしっかり押さえ、語りのリズム、スピードが良いので聴いていてつい引き込まれる魅力がある。これは、天性のものもあるだろう。
 本編は二席目に大ネタが控えているので選んだ根問いものなのかと思うが、こういうネタこそ、実力が分かるものだ。
 結論から言うと、実に結構だった。八五郎が隠居に聞くネタは、ガンモドキの裏表の見分け方・“嫁入り”の言葉の由来・“奥さん”の言葉の由来、などから鶴、亀のネタ、そして大家から五千円をせしめた(?)宇宙の果てに関して長時間問答したことも挟み、実に小気味の良い高座。プロレスラーのお産なら力道山、というネタは、習った通りなのかもしれないが、客の年齢層に合わせたサービスかな^^
 根問いものは、登場人物が二人なので、ともすると途中で飽きるのだが、まったくそういうことはなかった。語りの調子、掛け合いのリズムなども良く、とても二十六歳とは思えない根問いの芸。この人の“地”の力を十分に感じさせた一席目。トリの大ネタが一層、楽しみになった。

古今亭始 『鮑のし』 (23分)
 マクラは、この会の副題の「きれる」について、前座修業時代の逸話。始が立て前座の時に、一度だけ実際にキレて怒った相手の名は・・・内緒にしておこう^^
 ネタ出しの本編は、志ん生の、陰の(?)十八番と言える噺。
 この噺の前半の重要な場面は、甚兵衛さんが、世帯主としてのプライドを貶された次の場面にあると思う。
 お腹が空いて仕事もせず帰ってきた甚兵衛さん。女房のお光っつぁんの知恵で、まずは山田さんに五拾銭借りに行くことになった。甚兵衛さんの頼みでは一銭も貸そうとしない山田さん。それが、お光っつぁんからの頼みとなれば、態度が変わる。志ん生の音源を元に、ご紹介。

  山田  「あ~、おまえさんじゃないの?お光っつぁんが・・・・・・。あー、そうかい。
      おい、婆さんや、五拾銭出してやんなよ。あー、五拾銭でいいのかい?
      一円貸そうか。それとも二円持ってくかい?」
  甚兵衛「うーん、おもしろくねえな」
 
 これが、甚兵衛さんの、この噺での数少ない(^^)、あるいは唯一とも言える、男のプライドを思わせる一言だ。
 しかし、その男気も、次の山田さんの言葉で崩れていく。

  山田 「おまえさんに貸したって、取るあてがねえもン。おまえさんに貸したら、
     公園の水道みたいに出しっぱなしになっちゃうからダメだい。」

 ちなみに、始は公園ではなく、“こわれた水道”と変えていた。それも、結構。

 そして、得心しないまま家に帰る甚兵衛さん。
 
  甚兵衛「馬鹿にしてやがんの」
  お光 「どうしたい?」
  甚兵衛「おれだと貸さねえンで、おめえだと、すぐに貸しゃがんの」
  お光 「そこが人間、信用というもんだよ」

 しみじみ、勉強になるねぇ^^

 魚屋で甚兵衛さんが五拾銭で鮑を買ってきて、この五拾銭を一円に増やそうというお光っつぁんの台本の仕上げは、大家さんに息子の婚礼のお祝いとして鮑を持って行かせること。さて、後半のヤマ場は、甚兵衛さんの口上だ。
 始の工夫なのだろうか、お光さんに口うつしで教えてもらっても覚えることのできなかった「承りますれば」の科白を、「う・け・た・ま・わ・り・ま・す・れ」まで、切れ切れで言って、あわや成功するかと思わせて、最後に「ぼ」と言わせる。大家さんがすかさず、「惜しい!」と受けるあたりは、なかなか可笑しかった。
 一度は大家に縁起の悪い鮑を持って来たと追い返されるが、棟梁からの入れ知恵で甚兵衛さん、再戦。
 棟梁譲りの啖呵、これも志ん生の音源を元に再現。

  大家  「また、縁起の悪いものを持って来やがったな」
  甚兵衛「どういうわけで、そのアワビが縁起がわるいンだ。えー。おめえンとこは、
      アワビのアレを知るまい」
  大家 「なにをッ」
  甚兵衛「えー、なんだっけ・・・・・・」
  大家 「よくわからねえな」
  甚兵衛「アワビのポンポコポンだ」
  大家 「そんなこと知らねえ・・・・・・」
  甚兵衛「アワビてえもんはな、紀州の鳥羽浦で海女が獲るんだ。海女ったって
      色が白くねえ。色が黒いンだぞ。潮風に吹かれてお色が真っ黒け、
      こちゃかまやせぬ・・・・・・」
  大家 「なにォ言ってやがる・・・・・・」
  甚兵衛「獲ったアワビを、のしにするのはな、後家でいけず、やもめでいけず、
      仲のいい夫婦がこしらえるんだ。なー、それでも受け取れねえってのは
      あるかい。え、畜生め、一円じゃ安いや。五円寄越せ」

 始は、さすがに“こちゃかまやせぬ”は挟まなかったが、なかなか切れの良い啖呵を聴かせてくれた。
 前座時代の半輔の頃からよく聴いているが、師匠の指導よろしく、しっかり成長していることを感じさせる高座だった。ぜひ、古今亭の伝統を、今後も継承して欲しい。この噺が好きなので、つい長くなってしまった^^

古今亭始 『棒だら』 (26分)
 仲入り後、始が再び登場。5分ほどのマクラでは酒でのしくじり話を披露。詳細は割愛^^
 師匠も得意としているらしいが、まだ聴いたことがないなぁ。さん喬の傑作を末広亭で聴いたことはある。
 江戸っ子二人のうちの酔っ払って最後には田舎侍の部屋に入ってしまう方の描き方に、努力が必要か。酒でのしくじりが、まだ足らないのかもしれない^^

柳亭小痴楽 『大工調べ』 (30分 *~16:46)
 始のマクラを引き取って、前座時代のしくじりを語る。当時はまだ酒に弱く、寝坊での失敗が多かったらしい。また、副題の「きれる」にちなんで、父親(五代目痴楽)や家族のバイオレンス度(?)の強さを披露。こういった個人的なマクラは、人によっては聴いていて興ざめの場合が多いのだが、なかなか楽しいし、聴かせる。詳しいことは、個人情報でもあり、内緒^^
 本編に入り、聴きながら、電車の中で予習(?)していた志ん朝の音源を思い出していた。それほど、語り口、リズム、スピード感が、実に志ん朝を彷彿とさせたのである。
 与太郎が棟梁政五郎から借りた一両二分を持って、溜めた店賃のカタに取られた道具箱を取り戻しに大家のところに行く。足らない八百はどうした、と大家に言われ、棟梁との内輪話の「あたぼう」などの科白をそのまま使って大家を怒らせ、道具箱は取り戻せず、一両二分は前金とされて、与太郎は手ぶらで帰ってくる。
 そして、政五郎が与太郎と一緒に大家の家へ。志ん生に談志が聴いた言葉として残っているが、とにかくこの噺は、政五郎の「啖呵」が勝負の噺。
 この場面では、その啖呵を切るまでの前段も大事だ。政五郎が啖呵を切るまで、静から動への転換が不自然ではないように演じる必要がある。
 小痴楽は、そのへんを実に見事に演じていた。最初は低姿勢で話していた政五郎が、つい、ぞんざいな言葉遣いで「たかが八百」「後で放り込ませる」などと言ったことで、大家が怒ってしまい、残りの八百がなけりゃ道具箱は返さないと言い張る。大家の「雪隠大工」の一言が、トドメ。政五郎が、ついに“キレる”、さぁ、ここだ、というタイミングで手拭いを叩き付けた。
 ここで、ハプニング。ためていたエネルギーがよほど強かったのだろうか、勢い余って手拭いが跳ね一列目のお客さんの席に飛んだ。高座が狭いからで、寄席などでは床の前の方に飛ぶ位なのだが。
 「まじか・・・・・・」と呟く小痴楽^^
 お客さんから手拭いを返され、登場人物の科白として言い直させて、噺を続けた。少しは動じるところもあったかもしれないが、その後の啖呵はなかなか結構だった。
 「呆助、藤十郎、珍毛唐、蕪っかじり、芋ッ掘りめ。手前っちに頭ァ下げるようなお兄いさんとはお兄いさんの出来が少しばかりちがうんでえ」の科白が入っているので、三代目小さんからの伝統を引き継ぐ先代小さんの型。ただし、志ん朝も、この科白は取り入れている。ちなみに、志ん生は、尊敬していた四代目円喬の型を意識していたらしく、この科白は入らない。しかし、円喬は演じなかったらしい与太郎の鸚鵡返しの場面は、楽しく聴かせる。
 小痴楽、与太郎の鸚鵡返しでサゲてお白洲の場は演じなかったが、実に見事な高座。今年のマイベスト十席候補とするには、あのハプニングがあるので難しいのだが、なんらかの賞には値するだけの高座だと思うので、赤い色は付けておこう。


 始の高座も良かったが、何と言っても小痴楽だ。
 噺家の血、ということもあるのだろうが、二十六歳という若さで、二席ともに十分に真打、それも中堅どころに値する内容であったと思う。
 すでに落語愛好家の中では評価が高いようだが、遅ればせながら、とんでもない宝石の原石を発見したような喜びを感じて帰路についた。
Commented by 佐平次 at 2015-03-09 10:57 x
小痴楽、おもしろそうですね。
機会を見ていってみよう。

Commented by 小言幸兵衛 at 2015-03-09 11:31 x
見た目は、やや‘ちゃら男’風なのですが、どうしてどうして、たいした器です。
今年で二十七歳ですが、すでに入門から十年。
昔の噺家さんは、彼のように、きっと若いうちから鍛えられて成長したのだろうなぁ、などとも思います。
神田連雀亭、たまごの会にも出演するので、私もしばらく気にかけようと思っています。
志ん輔に声をかけてもらった逸話もマクラで話していましたが、なかなか楽しい話でした。
ぜひ、そのうちご一緒しましょう。

Commented by 彗風月 at 2015-03-09 15:09 x
「大工調べ」とは泣かせる演目ですね。おとっつぁんが元気だったころ、火が吹くような名啖呵はそりゃ絶品でした。当時の現役で(もちろん矢来町なども存命の中で)、こと大工の啖呵は彼に勝るものはないのでは、なんて(一部では)言われてました。小痴楽、ますます楽しみです。

Commented by 小言幸兵衛 at 2015-03-09 15:24 x
お父さんの五代目柳亭痴楽、今年七回忌ですね。
きっと、父の十八番をできるだけ自分のネタにしようとしているのではないでしょうか。
今年は、二ツ目や若手真打で期待できる人も追っかけようか、などと思っています。
伸びしろが大きいだけ、数か月でも驚くほど良くなりますからねぇ。
とはいえ、今年まだ雲助を聴いていないので、そろそろ禁断症状です^^

Commented by どぎー at 2015-03-10 12:59 x
カルチャースペース嶋は、ほかにもここで落語会を開いている噺家さんもいらっしゃいますね。(私は一度だけ駒次さんのに行っただけですが。)

見番では、先日の五拾三次「鉄板II」で「夜鷹そば屋」を惜しくも逆転できなかった「お直し」をやりましたよ。

Commented by 小言幸兵衛 at 2015-03-10 13:06 x
主催者の方は、あの場所も含めいろんな場所で若手を中心にした落語会を多く開催されているようですね。

今年は、まだ五拾三次も見番も行っておりません。
体も財布も二つ欲しいものです^^

Commented by U太 at 2015-03-11 23:56 x
小痴楽さん、血は勿論ですが、それに加えて育った環境も大きいと思います。
自分もこの会に行っていたので聴いていますが、そのエピソード以外にも(入門するまでは)随分やんちゃな事もやっていたようですが、それが現在では消えつつある芸人らしい芸人さん、と言った空気を感じさせるのが魅力ですね。
今は落研・社会人出身等が多くて(良くも悪くも)真面目な人が多い中で、小痴楽さんのようなキャラクターは貴重ですね。

Commented by 小言幸兵衛 at 2015-03-12 18:14 x
小痴楽さん、最初の見た目とは違う、実に古風な噺家として今は認識しています・。
昔は、彼のように十代で入門し、礼儀作法も含め師匠や先輩の洗礼を受けて学び、噺家としての研鑽を重ねた噺家さんの方が多かったわけですよね。
そして、かつては、結構頑固で個性的な噺家さんも多かったように思います。
現代風でありながら、お父さんの血もあるのでしょう、しっかり落語家としての伝統を感じさせる、実に将来が楽しみな一ですね。

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by kogotokoubei | 2015-03-08 15:20 | 寄席・落語会 | Trackback | Comments(8)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛