噺の話

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言論統制と噺家や芸人のことなど。

 昨日2月11日の朝日新聞オピニオン欄「言論空間を考える」で「人質事件とメディア」と題して映画監督で作家の森達也と、フリージャーナリスト土井敏邦の二人へのインタビューが掲載されていた。
 事件を巡る報道にモヤモヤしていたところで、大いに同意できる発言があったので、兄弟ブログ「幸兵衛の小言」で取り上げた。
2015年2月11日のブログ

 兄弟ブログは、以前は一緒に掲載していた政治的な内容を中心に別ブログに分離したものだが、この問題、本質的には落語などの芸能にも関連してくる。

 森達也や土井敏邦が指摘する現在のメディア状況は、いわば政府の言論統制に近い恫喝めいた動きへの過剰適合であったり、政府の思いを忖度して自主規制する動きがもたらしている。

 政府の悪口を言ったり、書いたりすることを強く抑制しようとしているのが、現政権であることは間違いがない。

 NHKの夜9時のニュースキャスターの交代が、定例の人事異動だと信じる人はどれだけいるだろう。

 今になって、テレビ朝日の原発関連報道について、その過ちを詫びさせようとすることの意図は何か。
 放送倫理検証委員会(BPO)は、なぜこのタイミングで、昨年9月のテレビ朝日「報道ステーション」での事実誤認報道について、意見書を発表したのか。大いに作為的なものを感じる。

 今の言論に関する環境は、まさに、戦前・戦中の社会によく似ているのではなかろうか。
 お上(おかみ)に逆らうことは言わせない、という雰囲気が一杯だ。

 先の戦争の最中、落語関係者にも、当時の言論統制の波は影響した。
 昭和16年10月30日、時局にふさわしくないとして、次の53のネタを禁演落語として、浅草寿町(現台東区寿)にある長瀧山本法寺境内のはなし塚に葬って、自主規制することにした。
 内容は廓噺や間男の噺などを中心としたものだったが、戦後昭和21年9月30日、「禁演落語復活祭」によって解除した。

--------禁演落語53種---------------------------------------------
明烏・粟餅・磯の鮑・居残り佐平次・氏子中・お茶汲み・おはらい・お見立て・
親子茶屋・紙入れ・蛙茶番・首ったけ・郭大学・後生鰻・五人廻し・駒長・
子別れ・権助提灯・三助の遊び・三人片輪・三人息子・三枚起請・品川心中・
城木屋・疝気の虫・高尾・辰巳の辻占・付き馬・突き落とし・搗屋無間・葛籠の間男・
つるつる・とんちき・二階ぞめき・錦の袈裟・にせ金・白銅の女郎買い・引っ越しの夢・
一つ穴・ひねりや・不動坊・文違い・坊主の遊び・包丁・星野屋・万歳の遊び・
木乃伊取り・宮戸川・目薬・山崎屋・よかちょろ・悋気の独楽・六尺棒
--------------------------------------------------------------------

 これだけの名作が禁じられては、ネタを考えるのに苦労したはずだ。

 そして今の日本の状況だが、私には戦中の言論統制に似た状況にあるように思われる。

 たとえば、NHKの正月番組、寄席からの生中継で、爆笑問題が政治ネタを封印されたことが話題になった。ラジオで彼らが暴露して騒ぎが大きくなったが、NHKにレギュラー番組を持つ身である、敏腕の女性社長(?)からお小言があったのだろう、あくまで現場の判断とか、いつものこととか、彼らは火消しに躍起になっていたように思う。

 実は、この‘現場の判断’や‘自主規制’にも、問題がある。禁演落語と同様、お上の意向を忖度し、自らの首を絞める行為に他ならない。それは、当の芸人のみならず、制作者側においても、自殺行為である。

 あからさまに統制されることがなくとも、現場が空気を読んで、「これは、まずいかな?」ということで規制することで、本来は、「世情のアラで飯を食う」はずの噺家や漫才師が、高座での切れ味をどんどん鈍らせてはならないと思う。

 それは、人質事件に関するメディアの報道姿勢と本質的に同じ問題だ。

 寄席や落語会で、かつては切れ味鋭い政治的なギャグを言っていた噺家が、昨今では、あまりその手のマクラをふらなくなってきたように思えてしょうがない。「世情のアラ」には、もちろん政治的なことも含まれるが、最近の落語のマクラ、お上に対する内容はすっかり減り、その代わりに弱い者いじめのギャグが増えてきたように思うのは、錯覚ではないだろう。
 
 朝日新聞で森達也が指摘した、集団化による暴力の波に、噺家も乗っかっては欲しくない。

 平成の‘禁演落語’があってはならないし、マクラで時事ネタを自主規制していてはいけないと思う。
 もし、持論を通した芸を披露してNHKに出演できなくなったら、それをネタにする位の了見をみせて欲しい。

 また、芸人なのだから真正面からお上に楯突くばかりではなく、一つひねった、笑いと味わいのある内容で庶民の声を代弁するような噺家のマクラや漫才を、ぜひ聴きたいと思う。


 江戸時代、松平定信の寛政の改革で文武が奨励され、武士や庶民に倹約が強いられた頃、次の有名な落首が江戸中に流行った。

 「世の中に かほどうるさき物はなし、ぶんぶといふて 夜も寝られず」

 大田直次郎、のちの蜀山人は当時狂歌師の四方赤良(よものあから)として有名であり、この落首の作者として疑われた。
 平岩弓枝の『橋の上の霜』では、この落首は、四方赤良、朱楽菅江(あけらかんこう)とともに江戸三大狂歌師と言われた唐衣橘洲(からころもきっしゅう)の作となっている。
 四方赤良と唐衣橘洲とは、吉原の花魁をめぐって仲違いする状況にあった、という設定で、唐衣橘洲が自分がつくった落首を、大田直次郎作と言いふらしたという筋書きだった。その直次郎を救うのが、とある美女。
 蜀山人については、後日何か書こうと思っている。

 さて、この落首を、少し真似てみる。

 「しんぞうの 鼓動の音をよく聴けば、ぐんびぐんびと 日夜脈打つ」

 オソマツ。
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Commented by 佐平次 at 2015-02-13 10:42 x
報道の自由がどれだけ守られているか、日本は順位をさげて64位とか、韓国の方がひとつ上だそうです。

Commented by 佐平次 at 2015-02-13 10:46 x
59位でした。訂正です。

Commented by 小言幸兵衛 at 2015-02-13 11:09 x
上位はフィンランド、ノルウェー、オランダですね。
韓国も57位でそう変わらない。
このまま安部政権が続けば、中国くらいまで落ち込みそうです^^

Commented by YOO at 2015-02-13 13:15 x
低劣な政府と真の役割を放棄したマスコミ。
あきれ返るばかりです。

Commented by 小言幸兵衛 at 2015-02-13 13:53 x
お久しぶりです。
安倍は、もはやミエミエで暴挙を推し進めようとしています。
マスメディアは、存在意義を問われているということ、そして、生死の境目にいることを認識して欲しいものです。
辺野古のこと、福島第一のこと、いったいどこから我々は真実を知ればいいのでしょう。

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by kogotokoubei | 2015-02-12 00:45 | 幸兵衛の独り言 | Comments(5)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛