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第56回 人形町らくだ亭 -『サライ』創刊25周年記念- 日本橋劇場 10月29日

 この会は、ほぼ一年前、第50回以来。
2013年10月3日のブログ

 その時も記念の会で、レギュラー五人揃い踏みだった。

 なぜ、少し間が空いたかというと、この会に関する記事で何度か書いたことだが、主催者である小学館の‘やる気’が見受けられなかったからである。
 
 いまだに残っている「らくだ亭」のサイトの更新が滞っていたのが、行く気にならない理由の一つだった。

 しかし、今回はレギュラー五人の揃い踏み。なんとか行きたいものだが、主催者の意気込みはどうなのか、とネットを探していたら、雑誌「サライ」のサイトに、‘らくだ亭’の案内が出ていたので、行くことを決めた次第である。

 それにしても、古い「らくだ亭」のサイトは、閉じて欲しいものだ。私のようにブックマークしている人は、中身を見る度に、腹を立てることになる。

 また、「サライ」のサイトも、すでに昨日会場で販売していた、次回12月25日の第57回については、まだ案内されていない。チケットぴあでは今日から発売なのにねぇ。夢吉の名を目にして、私は会場で迷わず買った。通常の会なので、木戸銭は2500円。やたら木戸銭の高い落語会が増える中、お得である。

 ネットに関する小学館の対応は、まだ問題ありだなぁ。
 拙ブログでさえ宣伝しているのだから、リンク先に最新情報が掲載されるように、主催者はサイトを速やかに更新して欲しいものだ。BtoBなどのビジネスの世界では、こんなに遅いサイト更新は、お客さんから多くのクレームが出るレベル。
 どうも、日本の老舗媒体は、かつてのような‘紙’への依存から脱却できず、ネットのスピードをおろそかにしがちである。
 もし紙にのみ依存したいのなら、中途半端にサイトなど作らなければいいのだ。その代わり、ぴあなどに頼らず、社員が足でチケットを売らなければならない。
 ネットの販売業者に頼りながら、自分たちのサイトの更新は滞っているのは、大きな問題だよ、小学館さん。

 さて、‘紙’媒体である「サライ」創刊25周年記念の特別公演は、次にような構成であった。
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(開口一番 柳家さん坊『からぬけ』)
五街道雲助   『商売根問』
柳家小満ん   『溲瓶』
古今亭志ん輔  『もう半分』
(仲入り)
春風亭一朝&太田その 音曲演奏 『黒髪』
柳家さん喬   『らくだ~通し~』
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柳家さん坊『からぬけ』 (9分 *18:35~)
 この人の開口一番、さて何度目になるだろうか。とにかく昨年から今年、よく出会う。役割上、無駄なまくらもなく、この時間でこなしたのは結構。

五街道雲助『商売根問』 (17分)
 この高座、楽しかったなぁ。まくらでは、『サライ』に掲載されたことがあるが、それは着物(着付け)の特集であったことなどをあっさりふれて、本編へ。
 根問いものの代表的な噺だが、隠居と与太郎風の男の二人の会話が、頗る可笑しい。
 隠居が、仕事はなにをしているかと問う場面の伝統的な会話から。
 「飯はどうやって食べている」
 「箸と茶碗で」
 「その米はどこから持ってくるんだ」
 「米屋が運んでくる」
 「そのお代は?」
 「踏み倒す」
 などと続け、
 「おまえさん、今、何をやってるんだい」
 「こないだまで、日本酒でしたが、今は焼酎・・・」
 なんていうやりとりでも、しっかり笑いが起きるのは、芸の力。あくまで与太郎‘風’であるが、与太郎ではない。与太郎は、金儲けのために三日三晩考えるなんてぇこたぁ、しないよね。
 荒唐無稽の金儲け策を考えて、実際にやってみる、という筋書きは、「すずめ捕り」から「うぐいす捕り」につながる。
 この雀の生け捕りの話には、‘江戸っ子の雀’や、‘芸者の雀’が登場。焼酎に漬け込んだ米を食べさせて雀を酔っぱらわせる。そこに南京豆を撒いて枕と思わせ、寝込んだところを箒で生け捕ろうという作戦なのだが、‘紙に包んだ雷おこし’は、その‘芸者の雀’用の箱枕、という芸の細かさ(?)が、すごい^^
 着物の袖をパタパタさせて雀を演じる雲助の、なんとも可愛いい(?)こと。
 河童のエサは尻だ、と自分の尻を晒して河童の生け捕りまで画策する男の努力には、頭が下がる。
 上方なら、この後に『鷺とり』に入るまくらに相当するが、この内容だけでも、十分にお金の取れる高座。
 寄席にうってつけの噺なのだが、意外に出会う機会の少ないネタ。実に結構。さすがの雲助、であった。

柳家小満ん『溲瓶』 (19分)
 なんと言っても、そのまくらが粋で洒落ていて、楽しかった。パリの「のみの市」に行った時の話。パリでは「パルドン(pardon)」という言葉が便利で、「ごめん(なさい)」「すいません」や「ちょっと失礼」など、さまざまに使える。だから、街でやたら「パルドン」「パルドン」(「ごめん」「ごめん」)と言う言葉が交わされる。
 ある骨董屋に、四角い日本製の土瓶があり、四つの面と蓋にも般若などの絵が描かれていた。だから、‘五面の土瓶’。その骨董屋のアーサー・ミラー似の親父(こういうたとえができる人は、そうはいない^^)が、やたら、五面の土瓶を勧める。いくらか尋ねると、紙にとんでもなく「0(ゼロ)」を並べるから、その「0」を三つほど消してやったら、怒った。なるほど、パリだから、「ごめん(パルドン)」の壺か、とサゲがつく。これ、笑える人は結構限られてるかなぁ^^
 「とんち教室」の石黒敬七が柏崎につくった「とんちん館」のことにもふれたが、一時越後に住んでいた私には懐かしい。 しかし、石黒のコレクションを集めた「とんちん館」は、2002年に閉館しているのだ。ご興味のある方は、柏崎日報の次の記事をご参照のほどを。
柏崎日報の該当記事
 「のみの市」は、‘蚤取りまなこ’で古道具屋を回るから、と石黒が命名したらしい。勉強になるねぇ^^
「蛙のしょんべん」は、‘池しゃぁしゃぁ’からきているとのこと。勉強になる!
 だから、小学校で英語やら道徳など授業にするより、落語を教科にしたほうが、‘日本人’教育には良いのだと思う。真面目な話。
 ネタそのものも、「溲瓶」を「花瓶」と間違えて五両という大金で買ってしまう田舎侍と、売りつけたうそつきの骨董屋、そして、侍に溲瓶がどんなものかを明かす古本屋の会話を、楽しく聴かせてくれた。しかし、何と言ってもまくらが良かったなぁ。

古今亭志ん輔『もう半分』 (27分)
 まくらで、居酒屋の肴のことから、先代馬生の女将さんがつくった、美味しい、冬の「豆腐の煮びたし」と、夏の「煮奴」のレシピが明かされた。だし:醤油:味醂を・・・内容は秘密。きっと、これを聴いていた、我らが居残り会のリーダー佐平次さんは、ご自分で挑戦されるはず^^
 棒手振りの八百屋の爺さんが、酒を半分づつ飲む仕草で、こっちも早く一杯やりたくなった。その爺さんが、忘れていった五十両をネコババする居酒屋夫婦、女房は、もっと悪どく描いたほうが良かったような、そんな印象。
 しかし、この高座も小満ん同様、まくらが良かったので、まったく不満はない。 

  
春風亭一朝&太田その 音曲演奏 『黒髪』 (6分)
 仲入りの後は、変わった趣向。一朝は落語ではなく、得意の笛を披露。『たちきり』で亡くなった小糸が途中までつま弾く『黒髪』を、太田そのの三味線と合奏。さすがに上手いとは思うが、私は一朝の高座も聴きたかったなぁ。欲張りなのだよ、私は^^

柳家さん喬『らくだ~通し~』 (48分 *~20:56)
 『黒髪』は地唄と長唄があって、演奏されたのは長唄の方、とのこと。そのへんは、まったくめくらなので、勉強になる。
 男をと女が会うのも、「あいつら、らくだしてるぜ」と言われた、というのは初めて聞いたと思う。これまた、勉強。
 らくだの兄貴分の名は、丁の目の半次ではなく、どぶろくの政。聴いたことはないのだが、師匠小さんの型なのだろう。
 この噺の見どころ、聴きどころは、屑屋(留という名にしている)が、酒を飲むにつれて、兄貴分と主客が逆転する場面なのだが、四杯目に、その序章が訪れる。
 留さん、次のようならくだの悪事を思い出しながら、声を荒げる。
 (1)らくだが天ぷら屋のどんぶりを買え、と言い、留さんが「買えない」と言うと、
   天ぷら屋にどんぶりを返しに行かされ、天ぷら代まで払わされた
 (2)般若とひよっとこの絵を買え、と言われ金を払ったら、背中の入れ墨だった
 (3)(左)甚五郎が彫った蛙だと言って、生きた本物の蛙を買わされそうになった
 こういった悲惨な思い出(?)を回想した後、「よほど、やっちまおう・・・差し違えようかと思ったが・・・子供の顔が浮かんできて・・・」という科白が印象的だ。
 そして、五杯目、留さんは湯呑を政に突き出し、「なに、ぼんやりしてんだ」と言うあたりで、完全に主客逆転。
 この後の落合の火屋(火葬場)に行くくだり、留の友人である火屋の安の酔っ払いぶりが可笑しい。
 後半のもっとも落語的な部分は、火屋に行く途中でらくだを菜漬けの樽から落としてしまい、道を戻って、酔って寝ていた願人坊主をらくだと間違えて連れてくるくだりだろう。この場面で、願人坊主と屑屋が‘会話’するのだが、死人と思っている人間との会話に、酔っているとはいえ違和感を持たない屑屋。その会話から導かれる笑いは、『粗忽長屋』のサゲで、熊五郎が自分の死体(と思しきもの)を抱いてつぶやく言葉と同じような、SF的な不条理感を抱かせる。「ありえない」ことが落語の世界では起こる、という笑いである。
 しかし、何と言っても、この噺のヤマは、屑屋と兄貴分との立場が変わる場面だなぁ。だから、通しがそれほど演じられない、とも言えるのではなかろうか。

 居残り会では、らくだが屑屋に‘憑依’したという言葉を私は使った。私は平岡正明が著書の中で、この二文字を使っていたように思っていたが、勘違いで、この言葉そのものは使っていなかった。

 志ん生のこの噺を中心に書いた、自分の記事の引用になるがお許しのほどを。
2012年6月27日のブログ

 数多くのネタと同様、この噺も上方がルーツ。元々の題を『駱駝の葬礼(そうれん)』と言って、四代目桂文吾が完成させ、大正時代に三代目柳家小さんが東京へ移植したと言われている。松鶴もそうだが、上方版は屑屋を泣き上戸として描く。
 しかし、東京版が上方と違う演出になったことに関して、平岡は『志ん生的、文楽的』の中で、志ん生の音源を聴いて次のように書いている。この噺についての鋭い考察である。

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平岡正明著『志ん生的、文楽的』(講談社文庫)

 文吾に対して三代目小さんと志ん生は、したがって剣術の小さんも可楽も、久蔵が泣き上戸であるという演出を採らない。小心で善良な屑屋の久蔵が、三碗の酒でトラになり、生傷男を圧倒するのだ。三碗にして岡を過ぎず。水滸伝の武松が景陽岡で、三碗呑んだら岡を越えられないという強いききめの「透瓶香」という酒(同じ銘柄の白酒が現在の景陽岡にある)をぐびぐび飲んで、ますます気宇壮大になって、虎が出るから夜間の山越え禁止という役所の高札を無視して岡を越え、あんのじょう人喰虎に出くわしたが、これを素手で殴り殺したとき、虎の魔性が武松にのりうつったことを感じる。同様に三杯の酒でらくだが久蔵にのりうつったのだ。三代目小さんが「らくだの葬礼」を東京に移植するにあたって、久蔵が三杯の酒でがらっと性格が変って関係が一気に逆転したほうがよく、屑屋の内心の変化を追う上方の演出はぬるいと感じただろうことを志ん生も感じているようだ。

  私は、同じ音源を聴いたが、とても、平岡のような想像力を働かすことはできなかった(あたりまえだ!)。
 平岡は、“らくだがのりうつった”、と表現していた。私はこれを自分なりに‘憑依’という言葉で心に留めていたようだ。
 
 さん喬ならではの、ほどよいくどさのある『らくだ』、実際の時間ほどは長く感じなかったのは、9時前にお開きとなり、居残り会を早めに開演(?)できる楽しさもあったからだろう。

 その居残り会は、我らがリーダー佐平次さん、国内外を精力的に飛び回るI女史。そして、拙ブログへのコメントからお付き合いが始まり、9月の小満んの会以来の居残り会参加となるKさんのよったり。
 お飲みにならないKさんの車に乗せていただき、よったりは、東銀座へ。かつて志ん朝も通ったことのある、馬刺しなどの肴が頗る結構なKへ。久しぶりだ。大将も、相変わらずお元気。
 落語の話が最高の肴。もちろん、馬刺しも刺身盛り合わせも、さつま揚げも、すべて美味。
 佐平次さんは、前日に行った落語研究会で、さん喬は『愛宕山』を演じ、幇間一八になりきって、その悲哀を描き、『らくだ』では屑屋になりきることで、さん喬ならではの『らくだ』に仕立てて、というようなことをおっしゃっていた(はず。結構呑んだからね^^)
 I女史やKさんも、それぞれ長~い落語歴をお持ちで、話題は尽きず、美少年の二合徳利が、さて何本空いたのやら・・・・・・。
 もちろん、帰宅は日付変更線を越え、ほぼ午前一時頃(だったはず)。風呂へ入って爆睡だった。

 最近は、前の夜の帰りが遅くとも、年のせいか、朝は早く目覚める。
 振り返ってみると、突出した高座はなかったかもしれないが、すべての高座が、それぞれの芸達者が彼らの持ち味をたっぷり魅せてくれた、総体的に良い落語会だったと思う。

 小学館さんも、会場にいたスタッフの人数のみならず、以前よりはやる気をみせているようだし、あらためて、この会にできるだけ行こうと思った次第である。
Commented by 佐平次 at 2014-10-30 21:02 x
クズ屋は酒を飲む前からカンカンノウをやってらくだに憑依されているようです。
らくだの死を喜ぶ連中に怒りを感じたあたりでらくだの仲間であることを潜在的に意識するのではないかな。
それが酒で覚醒・表出する。
私もそういうことがあったかもしれない^^。

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-10-30 21:38 x
そうですね、酒を飲む前に屑屋はらくだに憑依されていたのでしょう。
酒は、あくまで屑屋の心の奥底かららくだ的なものを呼び起こすきっかけに過ぎないのかもしれません。
まるで、我々の居残り会で、酒の力で話が盛り上がるように、ですね.

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by kogotokoubei | 2014-10-30 06:15 | 寄席・落語会 | Trackback | Comments(2)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛