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浅草演芸ホール 9月上席 夜の部 9月4日

三田落語会における露の新治との二人会での喬太郎の出来が今ひとつで、少し気になっていたこともあり、都内での野暮用が早めに終わったので、喬太郎が主任の浅草に立ち寄った。

 ペペ桜井の途中で入場。なんとか志ん輔に間に合った。入りは平日にも関わらず七割は超えていただろう。やはり喬太郎目当てのお客さんが多かったように思う。

 久し振りだが、椅子の感覚やステージと客席との間隔、ここは「演芸場」ではなく「ホール」なんだ、と実感。
 高座と客席の距離感の近い順に言うと、池袋・末広亭・鈴本・浅草の順になるなぁ。これも、どうしても足が遠のく理由の一つ。

 聴いた高座の順に演目、所要時間、感想を記したい。印象の良かったものにを付ける。

古今亭志ん輔『宮戸川(序)』 (12分 *18:05~)
 霊岸島の叔父さんの女房が、「いまだに二つ違い」でサゲた短縮版。短いなりに、叔父さん夫婦の会話を、顔の表情や所作などで特徴的に演出し、楽しめた。サゲ前、「初めて会った時、私が十八でお爺さんが二十歳」の後の笑いが実に大袈裟なのだが、可笑しかった。やや縮めるために科白が怪しくなった場面もないではなかったが、叔父さん夫婦の顔や身振り手振りの演技で十分に補っていたように思う。

桂文楽『看板のピン』 (14分)
 志ん朝と同じ昭和13年生まれだから、ソース焼きそばさんも76か。それにしては若々しい高座。小満んより四歳も上とは見えない。ひな太郎との親子会などがあったら、行ってもいいかな、と思って聴いていた。

鏡味仙三郎社中 太神楽 (9分)
 プログラムに「曲芸」と書くのは勘弁して欲しい。太神楽曲芸と書くのなら良いが・・・・・・。
 仙三郎と仙志郎の二人。
 寄席の吉右衛門が、心なしか元気がなく思えたが、帰宅して落語協会のサイトを見て、理由がわかった。

三遊亭円丈『手紙無筆USA』 (17分)
 仲入りは、この人。マクラの名古屋自虐ネタが可笑しかった。まさか、マクドナルドを「みゃ~っくどなるど」とは言うまい^^
 本編は『手紙無筆』を改作し、英語のFAXを元に、英語知ったかぶりの兄貴分と、FAXを受けとった弟分のやりとりで笑わせる。こういうネタ、好きだ。元ネタを知らなくても楽しめるが、知っていると可笑しみが倍加する。
 基本的には古典が好きなので、この人はほとんど寄席でしか聴かないのだが、もう少し積極的に聴かなければならないと思った。完成度の高い新作である。その思いはトリの喬太郎でも起こった感想。
 帰宅してから演題は調べたのだが、聴きながら書いた私のメモには、『英語無筆』?、としてある。このお題でも良いのではないかなぁ。

鈴々舎鈴之助『宗論』 (13分)
 クイツキは丈二と交互出演だが、この日は初めて聴くこの人。正朝版とほぼ同じなので、正朝に稽古してもらったのでなかろうか。あくまで推測。違いは、白百合女子大と川村学園くらいか^^
無難な高座だが、真打昇進から12年ということを考えると、同時昇進の扇辰、一年後輩の菊之丞などとの差を感じないわけにはいかない。とは言え、別なネタで後日聴いてみたい気にはなった。

にゃん子・金魚 漫才 (10分)
 金魚の頭は、月見団子。来週8日が旧暦8月15日で中秋の名月ということを、きっと知っているのだろう。
 にゃん子が自分の発言について客席に同意を求めても無反応でむくれる芸が、一番笑ったかもしれない。

柳亭左龍『お菊の皿』 (15分)
 顔と目の演技力は健在(?)だ。最初のお菊の登場の時から、大興行となった最後の場面の表情を並べたら、さぞ楽しいだろうと思う。
 確実に自分の世界をつくりつつるある、そんな印象。もっと聴かなければいけない噺家さんだとあらためて思った。

柳家小里ん『長短』 (12分)
 師匠の小さんが盟友三代目桂三木助から教わり、その代りに小さんが『大工調べ』を三木助に教えた、という逸話があるネタ。短い時間でも、お家芸をしっかり。
 寄席を引き締める重鎮、という風情が出てきた。この人や南喬、小燕枝などに寄席で会えると、ほっとする。

ダーク広和 奇術 (10分)
 袴姿では、初めて見たかもしれない。紐のマジックは、一つ飛ばしたような印象。それでも、独特の柔和な芸は、客席を和まてくれる。

春風亭一朝『目黒の秋刀魚』 (14分)
 お茶目な一朝、という感じの高座。脂がのって秋刀魚が焼かれる状況を、自分の身にたとえて「ぷしゅ、ぷしゅ、ぷしゅ」と弾ける様子を表現する動作を数回見せてくれたが、なんとも可笑しい。
 旬なネタを、自分なりの工夫で楽しく聴かせてくれた。いいなぁ、この人。

柳家小菊 俗曲 (10分)
 都々逸「蜩(ひぐらし)が鳴けば来る秋 私は今日で三晩泣くのに 来ない人」なんて、この人だから良いのだよ。

柳家喬太郎『任侠流山動物園』 (22分 *~20:58)
 三遊亭白鳥作で、巷の評判が高いのが「任侠 流れの豚次伝」であり、池袋の9月中席の夜、白鳥が十夜連続で演じることも知っていたが、このシリーズを高座で聴くのは初めて。
 この噺を白鳥が発想したきっかけの一つに浪花節があり、喬太郎もサゲで一節披露。
 象のまさお(政五郎)、鶏のチャボ子、牛の牛太郎、豚の豚次の4頭しかいない千葉の流山動物園は、客が少なく大ピンチ(喬太郎は、平均来場者数1.8人としていた)。
 この経営の危機を切り抜けるべく、豚次は昔世話になったパンダの親分パン太郎に会いに、常磐自動車道をひたすら走って、上野動物園に行く。人気者のパン太郎親分に流山まで来て欲しいと頼むのだが、親分は逆に舎弟である虎夫に豚次の尻の肉を喰わせる始末。命からがらなんとか流山に戻った豚次や仲間が、さてどんな策をもって危機を救うかは、内緒にしておく。
 先日の三田落語会で聴いた『極道の鶴』は、やたら大きな声で怒鳴りたてる登場人物に感心しなかったのだが、この噺は、実に良く出来ているし、それ相応の技量が求められる。
 喬太郎が、細かな芸として「豚次のときは、手を蹄にしている」と親指と人差し指をつけ、残りの指もつけて蹄のようにしているのを披露したが、たしかに、登場するそれぞれの動物を表現するための技が求められる。
 『動物園』という噺では、ライオンと虎(ほぼ同じ所作)を演じるわけだが、この噺は、豚・鶏・牛・象・パンダ・虎の五匹分を演じ分ける必要がある。喬太郎は、いかにも楽しそうに演じて、途中でお約束のように「こんなことをするために、さん喬の弟子になったんじゃない!」とか「古典のつもりだったのに」とか、「前座が笑っている」などのクスグリを挟み、喬太郎ファンの多いとみられる会場は大爆笑。
 来場者を増やす起死回生の策を披露する場面では、この日に出たネタを使うことでも笑いをとる。
 動物を真似るのみならず、豚次とパン太郎との緊迫したやりとり、豚次と園長との心温まる関係、そして、象の政五郎登場場面、などいくつか聴かせどころがあり、それらをしっかりと演じなければ、噺としての骨格が固まらない。さまざまな技能やセンスが試される噺であり、また自分なりのクスグリなども挟める演目と言えよう。サゲの浪花節は、実に楽しそうにやっていたなぁ。
 喬太郎は、浪花節、清水の次郎長、股旅もの、といった伝統芸(?)を踏まえ、動物たちを主役とした噺で、しっかりと客席を楽しませてくれた。作者白鳥と演者の喬太郎の二人に拍手を送りたい高座だった。 今年のマイベスト十席候補とする。


 古典を期待していたが、喬太郎の新作における見事な芸を楽しめたので満足し、帰路についた。元気じゃなければ、あの噺は出来ない。喬太郎は健在で、三田での不調はたまたまのことであったのだろう。 そのうち古典も聴きに行こう。

 帰ってビールを飲みながら「花子とアン」を見た。時局はどんどん戦争に向っている。それにしても、白蓮の旦那の父、宮崎滔天のことは、まったく話題に出なかったなぁ。孫文を支援した歴史上で重要な人物なのだ。主役が花子とはいえ、少し残念。

 パソコンを開き、翁家和楽の訃報に驚く。仙三郎が心なしか元気がなかった理由はこれだったか・・・・・・。落語協会サイトの該当記事
 落語協会の色物の香盤では最上位で、太神楽の仲間である仙三郎が、葬儀委員長のようだ。
 ブログを書き始めてはみたが、残りは翌朝書くことにして、風呂に入って寝た。

 あらためて喬太郎の高座のことを思う。白鳥の高座は聴いていないのだが、あの噺は喬太郎のために作られたとでも思えるほど、彼の持ち味をふんだんに活かせるネタだったと思う。浪花節とか任侠もの、好きだしね喬太郎。 時間は決して長くなかったが、内容は濃かった。あの噺には続きがあるらしいので、ぜひ聴きたいと思う。三三も彼独自の演出でかけるようだが、それだけ作品としての完成度が高いということだろう。

 下のような演題で、白鳥がこのネタを寄席では初めてにして十日間通しとなる池袋の中席は、日程的に都合がつきそうにないが、別な機会に、作者の高座も聴いてみたいものだ。 ちなみに喬太郎の高座は、白鳥の三日目の内容だったということで、前にも後ろにも噺がある大作になっている。
浅草演芸ホール 9月上席 夜の部 9月4日_e0337777_11130791.jpg

(池袋9月中席夜の部 白鳥の「任侠 流れの豚次伝」全十話の演題、池袋演芸場サイトより)
池袋演芸場のサイト
 ご興味のあるご都合の良い方は、ぜひお聴きいただき、コメントでご感想などお知らせいただければ嬉しい限り。


 喬太郎の主任の席、仲とりが円丈、というのも新作における師匠と弟子という関係を考えると、うれしい顔づけ。
 
 久し振りの浅草は、土曜の昼のような気になる騒がしさもなく、高座と客席との一体感もあり、期待以上に結構だった。
Commented by hajime at 2014-09-05 17:04 x
ご無沙汰しております!

浅草では気を抜いた噺家さんときっちりとやる噺家さんとに別れます。
それが、一目瞭然なのがこのホールの特徴です。
今月は用事で未だ行けてないのですが、良い日に当たったようですね。(^^)

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-09-05 17:14 x
お久しぶりです。
hajimeさんの縄張りに、久し振りにお邪魔してきました^^
お蔭様で、手抜きと思われる高座はありませんでした。
顔づけも悪くなく、当たりだったと思います。
以前に比べると、ホールのスタッフの方々の対応も丁寧になってきたように思います。
今年、これで定席四つ全てに行ったことにはなりますが、実は初めてのことです。
やはり、寄席はいいですね。

Commented by 佐平次 at 2014-09-06 11:22 x
面白そうな一日でしたね。
喬太郎のその噺、チャンスがあればぜひと思います。

Commented by ほめ・く at 2014-09-06 11:37 x
喬太郎『任侠流山動物園』、先月聴いたばかりですが、作品といい高座といい結構でした。扇辰との二人会での『寝床』も良かったし、やはりこの人の才能は大したものです。
それだけにガッカリする高座に出会うと腹が立ち、ついつい厳しい事を書いてしまうのですが。

Commented by 喜洛庵上々 (きらくあん しょうしょう) at 2014-09-06 11:53 x
『英語無筆』、素晴らしい命名ですね!
私も出くわした時にはこのお題を頂戴したいと思います。

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-09-06 16:05 x
たまの浅草演芸ホール、結構でした。
喬太郎のトリネタは、白鳥の創作力にも感心する作品です。
ぜひ機会があればお聴きのほどを。

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-09-06 16:17 x
あの三田は、体調の悪さに新治との会ということでの緊張感なども加わったせいなのかもしれませんね。
『錦木検校』は、落語研究会の映像を見ても身震いするほど結構ですから。
やはり、喬太郎は傑出しています。
次は、どこかで古典を聴きたいものです。

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-09-06 16:21 x
私も自画自賛のネーミングです^^
近いうちに、このネタとのご縁があるといいですね。

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by kogotokoubei | 2014-09-05 05:45 | 寄席・落語会 | Trackback | Comments(8)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛