大統領選を巡って知るアメリカの実態—『99%対1% アメリカ格差ウォーズ』。
2014年 07月 17日
民主党は、ヒラリー・クリントンが立候補したら、まず他の候補に勝ち目はないだろう。
共和党は、過去二度のオバマとの敗戦により、二年後に敵をヒラリーとして勝てる候補者選びのため、党内の右や左やあちこちから、さまざまな声が上がるだろう。
ウォールストリートジャーナルの4月の記事に、共和党候補をタイプ別に紹介する記事があったので、引用。あくまで、現時点での候補者予想。今後、アメリカを知るためのキーワードと思われる部分を太字にした。
ウォールストリートジャーナルの該当記事
次期米大統領選の共和党候補を5つのタイプ別に分析
2014 年 4 月 1 日 13:19 JST
米大統領選は長期にわたるもつれた戦いになるのが常だが、ますますひどくなってきた。とはいえスタートはいつも同じだ。党員が検討したいと思っているタイプ別に設けられたわずかなレーンのポジションを獲得するため各候補が競い合うのだ。
2016年の大統領選について本格的に検討を始めようとしている共和党は、今まさにこういう状態だ。同党は2回続けて大統領選に敗れ、自己変革を図ろうとしている。来る大統領選の候補選びは何十年ぶりかの乱立状態となり、予測は難しくなりそうだ。
整理のため、候補者を5つのレーンに分けて考えてみよう。そうすると3人の注目候補が浮かび上がってくる。ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事は、共和党の「本流(エスタブリッシュメント)レーン」の最有力候補として急浮上している。ランド・ポール上院議員(ケンタッキー州)は、「新参者(ニュービー)レーン」の最も面白い候補だ。新参者レーンは、大統領選だけでなく党を一新させることを公約に掲げている。同レーンのもう1人の候補であるマルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州)は、最高のスタートを切ったかもしれない。
それでは、選挙専門家のスコット・リード氏の助けを借りて序盤戦をレーン別に分析してみよう。
●本流レーン: このレーンは、党の昔からの有力者や大口献金者が強く支持する候補たちのもので、現在2人の有力候補がいる。ブッシュ氏とニュージャージー州のクリス・クリスティー知事だ。前大統領選の副大統領候補だったポール・ライアン下院議員(ウィスコンシン州)は第3の候補だが、出馬への意欲を持っているのかどうかは分からない。
党の有力者や大口献金者はクリスティー氏に好意的だが、ジョージ・ワシントン・ブリッジの交通規制をめぐる醜聞が人々の記憶から消えないことを懸念している。そこで彼らは、ブッシュ氏に肩入れするようになっている。リード氏は、名門の出ではあるが政界から7年も遠ざかっていたブッシュ氏について、「出馬を決断したのか、さらに新生共和党に対応できるか」という2つの疑問を提起する。
●新参者レーン: 最も興味深いレーンで、共和党を本流から引き離す可能性を持った候補からなる。ポール、ルビオの両氏に加えテッド・クルス上院議員(テキサス州)が、ヒスパニックやリバタリアン(自由至上任主義者)、若者、黒人、草の根保守運動ティーパーティー(茶会)支持者にアピールしている。クルス氏は、大量の資金を集める潜在力を持っており、共和党で最も活動的なティーパーティー支持者を沸き立たせている。
ルビオ氏は、ヒスパニックからすぐさま共感を得たのに加え、一連の政策演説や提案を整然と打ち出している。問題は、彼の政治の師であるブッシュ氏が候補者として名乗りを挙げた場合、出馬するのが難しくなることだ。ポール氏は若者や黒人などさまざまな潜在的な共和党支持者に手を差し伸べている。彼のリバタリアンとしての主張や海外からの撤兵論は、党の本流の一部の眉をひそめさせているが、若者からは共感を呼んでいる。
●知事レーン: 過去10年間共和党が知事選で好調を収めてきていることから、何人かの有力大統領候補を生んでいる。テキサス州のリック・ペリー、ウィスコンシン州のスコット・ウォーカー、オハイオ州のジョン・ケーシック、ルイジアナ州のボビー・ジンダルの各知事が主導権争いを演じている。リード氏は「共和党員は今回、ワシントンの政治から離れた者に期待しようとすると思われるため、このレーンは気をつけて見ておく必要がある」と話す。
●議員レーン: ライアン氏のほかロブ・ポートマン上院議員(オハイオ州)は、このレーンの有力候補である。ジョン・スーン上院議員(サウスダコタ州)、マイク・ロジャース下院議員(アラバマ州)もいる。議員レーンの候補の問題は単純明快だ。悪評ふんぷんの組織に属していることだ。
●エバンジェリカル・レーン: 少なくとも1988年以降共和党の大統領候補選びでは、キリスト教福音派(エバンジェリカル)とつながりのある泡沫でない候補が最低1人参入できる余地がある。このレーンの有力候補は、マイク・ハカビー元アーカンソー州知事とリック・サントラム元上院議員(ペンシルベニア州)である。
共和党には、その支持母体や支援組織などに関し、さまざまなキーワードが存在するが、その中の「ティーパーティー」について、まず確認したい。
町山智浩著『99%対1% アメリカ格差ウォーズ』(講談社文庫)
最近文庫化されて読んだばかりの本が、町山智浩著『99%対1% アメリカ格差ウォーズ』だ。月刊誌「クーリエ・ジャポン」の連載「USニュースの番犬」(2010年1月号~2012年10月号)をもとに大幅加筆・修正を加えてまとめたもので、2012年の大統領選に向けたアメリカのメディアの実態、選挙戦の舞台裏など、その国にいなければ分からない情報が満載。かつ、著者の文章が読んでいて楽しい。一気に、笑いながら、怒りながら、読める本。
「第1章 医療保険改革とティーパーティーの誕生」の中からご紹介。
福音派に代わる保守勢力ティーパーティーは“ニセ・草の根運動”
2010年2月初旬、ナッシュビルで1000人を超す人々がティーパーティー(お茶会)に集まった。といっても優雅に紅茶を飲むわけじゃない。オバマ政権を罵倒する保守系反政府市民運動ティーパーティー・プロテストの全米決起集会だ。
「オバマを弾劾せよ!」「国民皆保険は社会主義の始まりだ!」「税金よりも死を!」などの激烈なプラカードを掲げるティーパーティー集団は、当初は極右の少数派にすぎないと思われていたが、次第にオバマ政権の足元を揺るがしかねない勢力へと成長した。
ティーパーティーは、オバマが政権発足時に8000億ドル近い景気刺激策と税金で運営する医療保険改革案を打ち出した時に始まった。最初はタウン・ミーティングで市民に法案を説明する政府関係者に「俺たちの血税をそんなことに使うな!」と野次を飛ばす群衆に過ぎなかったが次第に組織化され、09年4月15日の確定申告締切日には全国の国税庁の前などで、ティーバッグを捨てるパフォーマンスを行い、ティーパーティー・プロテストと呼ばれるようになった。
彼らのパフォーマンスはアメリカ独立革命のきっかけになた「ボストン・ティーパーティー事件(茶会事件)」にちなんでいる。
時は1773年、イギリスの植民地時代のアメリカ。ボストンの港に停泊するイギリス東インド会社の輸送船にインディアンの扮装をした白人たちが乗り込み、342個の茶箱を海に投げ捨てた。これはイギリス政府がアメリカの支配権をめぐってフランスと戦った戦争の費用を調達しようと、植民地アメリカの紅茶などの物品に課税したことへの反応だった。「ボストンの港が真っ赤になった」と人々は気勢を上げたので、この事件は「ボストン・ティーパーティー」と呼ばれた。
現代のティーパーティー運動はオバマが大統領に就任してから各地に広がり、数を増していった。右派のFOXニュースはティーパーティーを積極的に取り上げ、「ボストン茶会事件に参加した人々と同じく、政府の増税や社会主義化から自由を守る草の根愛国者たち」と絶賛した。
ティーパーティーを「草の根愛国者たち」と持ち上げるのは、FOXニュースだけだろう。
現代のアメリカのティーパーティーの実態とは何か。引用を続ける。
メディアと大企業が作った市民運動
FOX最大の人気コメンテーターのグレン・ベックは「オバマはアメリカを社会主義にする独裁者だ」と言って、オバマの人気やカリスマが毛沢東やヒトラーと似ていると主張した。「このままだとこの国は乗っ取られてしまう。アメリカの自由を守るため、9月12日に首都でティーパーティーをして欲しい」と訴えながらボロボロと涙を流した。その涙に応えたのか、当日は7万人がワシントンに集まった。「ウィ・ラブ・グレン・ベック」「ありがとうFOX」などのプラカードも目立った。
しかし、ティーパーティーは実は純粋な草の根運動ではない。後ろには大企業がついている。現代のお茶会は、もともとフリーダム・ワークスという保守系政治団体が動員をかけて始まった。同団体のリーダーは共和党の下院院内総務だったディック・アーメイで、CSE(健全な経済を求める市民)という保守系シンクタンクを母体にしている。そのCSEを創設した億万長者チャールズ&デヴィッド・コーク兄弟はフリーダム・ワークスをはじめティーパーティーを運営する3つの保守系市民団体すべてを莫大な寄付で支えている、いわば黒幕だ。コーク兄弟の経営するコーク・インダストリーズは石油・化学・繊維・製紙産業を含むコングリマリットで、個人経営の企業では穀物メジャーのカーギル社に次いで全米2位の規模を誇る。
グレン・ベックは、今はFOXを離れ保守系ラジオのコメンテーターになっている。
FOXは、あのメディア王ルパート・マードックが支配するニューズ・コーポレーション傘下で、共和党の広報部門とも言えるメディア。
コーク兄弟は、現在のアメリカを知るためには欠かせない存在。ティーパーティーを動員する組織に多額の(彼等はそう思っていないかもしれないが)の寄付をするコーク兄弟は、シカゴ・トリビューンやロサンゼルス・タイムズ、そして多くのテレビ局を傘下に持ち、会社更生中のトリビューン・カンパニー買収を狙っているようだ。
今年4月にオバマ来日前の露払いのような役回りで安倍晋三を訪ねたポール・ライアンは、下院予算委員会委員長であり、ティーパーティーが強く支持する共和党若手(44歳)のホープで、2012年の大統領選における副大統領候補だった人。
オバマのアメリカはあと2年。ポスト・オバマを巡る戦いを正しく見るには、アメリカを取り巻くさまざまな動きの実態を知る必要があるだろう。
たとえば、ティーパーティーは、市民の草の根運動などではなく、アメリカの富の40%を占める1%の金持ちたちが、自分達の利権を守るために金で動員している“茶番”とさえ言えるのである。
福音派は、中絶、同性愛に反対するキリスト教の保守派。息子ブッシュは、彼らの支持がなければ大統領にはなれなかった。
この本には、まだまだ紹介したい“アメリカの現実”があるので、後日、また書くつもりだ。
あっ、思い出した。 ウォールストリートジャーナルの親会社ダウ・ジョーンズも、ルパート・マードックのニューズ・コーポレーション傘下になったので、今後は注意深く読む必要があるかもしれないなぁ。
「アンフェアを嫌うアメリカ人」などと言うが、とんでもない。彼らが「日本はアンフェアだ」などと言う時にこそ、よ~く注意して、彼らが決してフェアでないことを見極める必要がある。