噺の話

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七世竹本住大夫の引退で思うこと。

落語仲間の先輩SさんとI女史は、国立劇場の竹本住大夫引退公演に、激しいチケット争奪戦を勝ち抜いてお出かけになった。

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 このポスターをお借りした国立劇場のサイトから、興行の内容を引用。国立劇場サイトの該当ページ

公演期間 2014年5月10日(土)~2014年5月26日(月)

開演時間 (第一部)午前11時 (午後3時9分終演予定) (第二部)午後4時 (午後8時1分終演予定)

ジャンル 文楽

演目・主な出演者
国立文楽劇場開場30周年記念
七世竹本住大夫引退公演


<第一部>11時開演

 増補忠臣蔵(ぞうほちゅうしんぐら)
    本蔵下屋敷の段
    
 恋女房染分手綱(こいにょうぼうそめわけたづな)
   引退狂言
    沓掛村の段
    坂の下の段

 卅三間堂棟由来(さんじゅうさんげんどうむなぎのゆらい)
    平太郎住家より木遣り音頭の段

 <第二部>4時開演

 女殺油地獄(おんなころしあぶらのじごく)
    徳庵堤の段
    河内屋内の段
    豊島屋油店の段
  
 鳴響安宅新関(なりひびくあたかのしんせき)
    勧進帳の段

 (主な出演者)

 竹 本 住大夫

 鶴 澤 寛 治

 鶴 澤 清 治

 吉 田 簑 助

 吉 田 文 雀

        ほか

   *字幕表示がございます

※七世竹本住大夫が本公演をもちまして引退することを発表いたしました。
詳細はこちらからどうぞ


 「詳細はこちらからどうぞ」の文字は、次の国立文楽劇場のサイトにリンクされている。
国立文楽劇場サイトの該当ページ

 同サイトのページにある、大夫の引退に関する文章。

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 今年十月には満九十歳になられるご高齢。引退もやむなし、という思いもあるが、文楽ファンは、大阪の橋下市長への恨みが強い。
 なぜなら、昨年七月、大阪市による補助金カット問題で文楽界に激震が走った後で脳梗塞で倒れ、緊急入院されたからだ。十月には退院されたが、補助金カット騒ぎにより心身ともに疲労された入院が、引退興行の時期を早めたことは間違いなかろう。水曜日の夜、居残り会で我らがリーダーSさんは橋下に怒っていたぞ!
 
 大阪市の問題については、以前にこんな記事を書いた。2012年5月15日のブログ

 その後、大阪市の補助金の対応については、次のように報道されている。日本経済新聞の該当記事

大阪市、文楽への補助金を減額へ 劇場入場者数が基準に達せず
2014/1/26 23:19

 国立文楽劇場(大阪市)は26日、2013年度の有料入場者数が10万1204人(速報値)になったと明らかにした。大阪市が文楽協会に対して運営補助金を満額支給する基準には達せず、約730万円減額され約2170万円になる見通し。最終公演が近づくにつれ入場者が増えたが、満額には約25%届かなかった。

 市が12年度に文楽協会に支給した補助金は3900万円。橋下徹市長が打ち出した補助金見直しで、このうち2900万円分は13年度から観客数に応じ補助額を決めることにした。

 入場者数が9万人以下ならゼロ、それ以上なら1人につき約1930円ずつ増額し、10万5000人以上なら満額の2900万円を支給する。過去10年間の平均入場者数は9万6395人。市はこのほか、入場者数に関係なく衣装代などの活動補助費として別途1000万円まで支給する。

 今年度最後の初春公演(3~26日)は、千秋楽が近づくにつれ入場者数が伸びた。19日からは技芸員(演者)が人形とともに開演前と終演後のロビーに立ち、あいさつ。初春公演としては過去最多を記録した。ただ、年度を通しては「仮名手本忠臣蔵」などの人気演目が上演された昨年度に及ばなかった。

 文楽協会の業務は技芸員のマネジメントや地方巡業の企画など。職員の人件費など運営費は補助金で賄ってきた。補助金の減額分は「退職者を補充せず、人件費の削減で対応する」(三田進一事務局長)という。

 市は来年度も同じ制度で補助する方針。


 橋下が文楽について語る資格も審美眼も、日本の伝統芸能に関する知識もないことは、いったん置いておく。

 私が思うのは、“補助金”のあり方が逆ではないのか、ということ。

 大阪市のサイトに、「公益財団法人文楽協会補助金交付要綱」が掲載されている。そこには、別表として、「集客数連動型文楽振興補助」の内容が記されているので引用する。大阪市サイトの該当ページ

別表2 集客数連動型文楽振興補助

補助額
・文楽協会がより一層文楽の普及・振興への努力を求め、集客増を図ることを前提に、大阪公演有料入場者数が一定数を上回る場合に集客数に応じて補助する。
・本市の予算(29,000千円)の範囲内で、当該年度の大阪公演有料入場者数が9万人を超えた場合に支出する。

〔90,001人~104,999人の場合〕
入場者数に基づき、90,000人を超えた入場者数を15,000人で除したものに上限額を乗じた額とする

〔105,000人以上の場合〕
本市予算額満額支出とする

なお、1円未満の端数については切り捨てる。



 要するに

  観客動員 大 → 補助金 大
 
  観客動員 小 → 補助金 小


 という構造。

 文楽という伝統芸能を「補助」する基準に、企業の論理と同様の数値管理を持ち出していること自体が、私には賛成できない。

 百歩、いや千歩譲って数値管理するにしても、この考えは矛盾しているだろう。
 まず、伝統芸能として支援を認めるなら、観客動員にか関係なく一定の補助をすべきだ。加えて大阪市も観客動員の支援をすべきだろう。
 そして、観客動員が増えれば、その収入は関係者にも反映されるはずだから、補助金を減らすことで大阪市の負担も減る、という構造になるのではないか。

 本来は、

  観客動員 小 → 補助金 大
 
  観客動員 大 → 補助金 小


 とすべきなのではないか。もちろん、文楽協会も集客努力をし、公演以外にも収入を増やす工夫をする必要はあると思う。BSやCSのテレビ局との契約やDVDの発売などにも、従来以上に積極的になるべきかもしれない。

 新たな現代の芸能や娯楽に押されて、歴史のある伝統芸能が存続の危機を迎えているのは、日本だけではないのかもしれない。

 ヨーロッパの代表的な伝統芸能は、何と言ってもオペラだろう。

 そのオペラに、国や地方自治体は、どれほど支援をしているのか。

 朝日新聞の「GLOBE」サイトの記事から引用したい。2010年の記事で少し古いデータだが、ヨーロッパ各国の主要な歌劇場の収入状況が円グラフで掲載されているのでご紹介。
Tha Asahi Shimbun GLOBEサイトの該当記事

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 減ったとはいえ、ヨーロッパ各国の歌劇場への助成金と、新国立劇場のそれとは、文字通り、“桁が違う”のだ。

 それにしても、日本でもオペラを観たいから出来たのであろう新国立劇場に、意外に国は助成しているのだなぁ。国と新興会で43億円だって。後で書くが文楽協会への国からの助成金は、8000万円だよ・・・・・・。
 私なんぞは、オペラなどには行こうとは思わないので、この何十分の一でもいいから文楽を支援して欲しいと思う。

 さて、記事から、この調査をした大学の先生のコメントを含め引用。

 近年劇場が取り組みを強化しているのはチケット以外の事業売り上げ。

 休憩時間にシャンパンや軽食を出すのは当たり前。関連グッズ販売や、テレビ放送、DVD販売などの多メディア化で収入増を目指す。

 どの国も財政に余裕がない中でのやりくりだ。昭和音楽大オペラ研究所准教授の石田麻子は「町の顔としてブランド力を保つため、劇場も努力している」と話す。



 この記事は、当時のヨーロッパ各国の財政難から、歌劇場への助成が減っており、それぞれの劇場がさまざまな経営努力をしている、ということが基調となっているのだが、それにしても国や自治体はこれだけの支援をしている。

 もちろん、助成に頼るばかりではなく、入場者数増によるチケット収入アップはもちろん、グラフの分類にある「その他事業」の増加も検討すべき課題ではある。しかし、大阪府や大阪市も、引用した記事にある言葉を借りるなら、“町の顔としてブランド力を保つ”努力をすべきだろう。
 
 文楽は、松竹が経営を離れ、昭和三十年代に、国や大阪府、大阪市などが相談して財団法人文楽協会が設立された。その文楽協会に、2011年度には、国が8000万円、府が2070万円、市が5200万円の補助金が支払わていた。大阪府はそれまでの5200万円から橋下府政時代に減額。そして、大阪市も、すでに上限が2900万円に引き下げられた。

 技芸員と言われる文楽の担い手は、必ずしも多いとは言えない。平成20(2008)年時点で、大夫24人、三味線弾き19人、人形遣い37人で計80人。現在も80人前後だろうと思う。技芸員は文楽協会に所属し、兼業は原則として許されない。世界的にも重要なこの伝統芸能を継承し続けるには、技芸員を養成するための支援も必要だ。

 文楽は歌舞伎と違って、興行主やスポンサーがいないので、地方公演の運営も含め、協会がやっている。補助金がなくなるのは大きな打撃なのである。いわば国、大阪府、大阪市が“お旦”として育てる構造になっている芸能なのだ。それを、「経営努力をしなければ助成金を減らす」と言うこと自体が、“お旦”としての資格を放棄しているのではないか。

 海外で日本の文化に興味のある方は、次のユネスコのサイトで動画なども見て、知識を習得しているはずだ。
UNESCOのサイト
 
 ありえないだろうが、こんな空想をしていた。

 海外の企業や投資ファンドなどが、文楽協会に多額の助成金を支払い、海外公演も増やし、日本の公演には海外からのツアーで客を動員するなどの経営的な施策を打つ。たとえば、シリコンバレーの企業が冠スポンサーになり、会場ではスポンサーのスマートフォン専用に英語の訳の音声が配信され、外人さんが舞台を身ながらスマホのイヤホンで英語版を聞いている。スマホの画面では場面の説明が映っている、なんて光景。

 しかし、ありえないと言えるだろうか?

 大阪が、“パトロン”の役割を放棄しようとしているのだから、海外企業の文楽愛好家の企業人にとって、それは大きなビジネスチャンスに思えるのではなかろうか。

 落語と文楽、人形浄瑠璃との関係は深い。
 複数の噺になっている忠臣蔵関係以外にも、上方を中心に次のようなネタが思い浮かぶ。
 ・軒づけ:浄瑠璃そのものが噺の主役
 ・胴乱の幸助:お半長、でっせ!
 ・猫の忠信:千本桜があるからこその噺
 ・寝床:説明する必要なし
 ・住吉駕籠:枝雀版では「壷坂」が語られる
 他にその名も『浄瑠璃息子』というネタが上方にある。

 歌舞伎、そして落語という伝統文化の一つの土台になっているのが文楽、人形浄瑠璃だと言えるだろう。

 七世竹本住太夫の引退公演から、いろんなことを考えた。

 私も、第二の人生においては、できるものなら、落語のみならず文楽や能、狂言の世界を楽しみたいと思っている。

 しかし、それも懐具合にもよるなぁ。消費税は上がる、年金は減る、好きな芸能の木戸銭が国の補助が減って上がる、ってなことになっては、とても楽しい六十代が送れそうにないぞ。上がるのは、『寝床』の旦那の下手な浄瑠璃の段だけにして欲しいものだ。
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Commented by 佐平次 at 2014-05-25 11:44 x
面白いのですから、もっと入場料を安くすれば客数は増えるのじゃないかなあ。
そのためにも補助は欠かせないですね。

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-05-25 20:11 x
国や地方自治体には、日本古来の伝統芸能をしっかり援助してもらいたいですね。
もう、個人や企業が“お旦”になれる時代ではないでしょう。

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by kogotokoubei | 2014-05-24 07:15 | 幸兵衛の独り言 | Comments(2)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛