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寄席の木戸銭値上げについて。

「東京かわら版」4月号の小三治の対談特集についての記事で、聞き手が「寄席」について質問をした部分を紹介した。

 聞き手は、「もっと寄席に来て欲しい」という言葉を引き出したかったのだろうが、小三治は、聞き手の意図とは別に彼ならではの思いを表現していた。
 
 私は寄席が好きだ。とはいえ、この4月から5月にかけての木戸銭の値上げは、落語愛好家には非常に悩ましいものである。

 消費税アップに伴う寄席の木戸銭値上げについて、日経の記事から紹介。ほぼ20年振りの値上げとなる浅草演芸ホールのことが最初に紹介される。
日本経済新聞・電子版の該当記事

 浅草寺から歩いて数分。公園六区と呼ぶ歓楽街の中心にある浅草演芸ホールは、この日も大勢の客でにぎわっているように見えた。いつも繁盛していますねと、チケットもぎりの男性に声をかけたが、返ってきたのは苦笑い。運営会社、東洋興業の松倉由幸社長によると、2013年の正月ごろから少しずつではあるが客足が落ち続けているという。

 「落語ブームと言われて久しいが、あまり実感できませんね。東京スカイツリーが完成したときは浅草にもたくさんの人が流れてきたけれど、それも今は一服した。庶民の町ですから、アベノミクスの恩恵にあずかれるのも、たぶん最後の最後でしょう」

 そんな状況だから、「私にとっても初体験」(松倉社長)という木戸銭の引き上げはおそるおそるだ。ゴールデンウイークのかき入れ時が過ぎる5月21日から、税込み2500円の大人料金を2800円に変えるが、客足にどんな影響が出るのか、想像するのが怖いという。実際、特別公演などで料金を一時的に3000円程度にしたときなど、窓口までやってきた夫婦客が「高い!」と言って引き返すことがある。カップルで5000円札1枚程度が入るか、入らないかの境目になっているもようだ。


 日経が指摘する“境目”については、一概に言えないだろう。高いか安いかという価値観は人によっても違う。しかし、3,000円の声を聞くと、ホール落語会と変わらない印象を受けるのは事実だろうなぁ。また、浅草は小屋自体もいろいろと改善すべき余地があると思う。客足が減ったのは、必ずしも周囲の環境変化のせいばかりではなかろうが、それはこれ以上ふれないでおこう。

 日経記事を元に定席を含むこ新旧の木戸銭は次の通り。

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         現行料金(円)  4月の消費税率引き上げ後
浅草演芸ホール(5月21日より)
         大人  2500    2,800(300円アップ)
         学生  2000    2,300(300円アップ)
         小人  1100    1,500(400円アップ)

鈴本演芸場
         大人 2800     据え置き
         学生 2400     2,500(100円アップ)
         小人 1500     据え置き
         シニア割引廃止
末広亭
         大人  2800    3,000(200円アップ)
         シニア         2,700
     学生・友の会 2200    2,500(300円アップ)
         小人  1800    2,200(400円アップ)
       【夜の割引料金】 ※特別興行は除く
        18:00~  一般¥2,500 学生¥2,200 小学生¥1,500
        19:00~  一人¥1,500 

池袋演芸場    すべて据え置き     
         大人 2500 
         学生 2000
         小人 1500

国立演芸場の落語・演芸の定席
         大人  2000    2,100(100円アップ)
         学生  1400    1,500(100円アップ)
         シニア 1300     据え置き

横浜にぎわい座
             3000    3,080(80円アップ)

天満天神繁昌亭  すべて据え置き
         大人 2500
         学生 1800
         小人 1500

(主に当日の自由席。特別公演や独演会は除く。年齢区分は各寄席によって異なる。税込み)
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 末広亭の3,000円には、実は驚いた。まさか大台になるとは。だから、2,800円据置きの鈴本の方が安い、という印象を与えるかもしれないが、ご存知のように鈴本は昼夜の入替え制、末広亭は通常の定席では入替えはない。
 加えて末広亭には「友の会」がある。10,000円で三カ月置きに年四回入場券が送られてくるので、一回当りは2,500円になる。加えて、夜は入場時間による割引もある。シニア割引は新設のはず。
 しかし、3,000円の木戸銭は、友の会に入るか、夜席の割引でもなければ、なかなか行きにくいとも言えるなぁ。。

 鈴本は2,400円のシニア割引料金を廃止したので、シニアは2,800円と一般と同一金額になり、400円アップ。それでも、一般の2,800円を上げなかったことは頑張っているとも思うが、シニア割引廃止は解せない。年季の入った多くの落語愛好家を失うのではなかろうか。

 池袋が、今のところは、値上げなしで頑張っている。今の木戸銭のうちに行こうと思わせる。鈴本や末広亭からお客さんが池袋に移動する姿が思い浮かぶ。

上方の繁昌亭も大阪人の気質を反映しているのか、値上げなし。

 横浜にぎわい座と国立演芸場は消費税増税対応と言えるだろうが、鈴本、末広亭、浅草は、あえて言えば“便乗値上げ”である。実態は、「これまで辛抱したがもう限界」なのかもしれないが・・・・・・。

 噺家さんにも従業員にも相応の見返りはあって欲しい。しかし、寄席が3,000円となると、寄席の楽しさを知らない人が、単に木戸銭のみを見てホール落語会を選ぶ傾向が強くなるかもしれない。

 小三治のような境地になれない私は、それが気がかりだ。寄席の楽しさを多くの人に味わって欲しい。

 寄席はいい。十人噺家さんが登場して、一人でも二人でも「おやっ!」と思わせる高座があると、私はそれでもいいと思っていたが、今回の木戸銭の値上げを考えると、十人中、三~四人は「良かった!」と思わせる高座づくりの努力は必要だろう。そして、「行くんじゃなかった」と思わせる高座は一つでも減らす施策を、寄席側も協会も考えるべきではないか。

 江戸時代の三十二文、四十八文という木戸銭との比較をするのは無理があるだろう。寄席の数も、その寄席のあり様も違いすぎる。夜鷹そばの二杯分、三杯分とはいかないだろうが、立ち食いの天麩羅蕎麦の七杯分位までになっている現木戸銭は、庶民の楽しみとしては、結構ギリギリの価格設定なのではなかろうか。

 しかし、それだけの楽しさを味わわせてくれるなら、きっとお客さんも増えるはずだ。

 今回の木戸銭の値上げは、寄席と両協会にとって客との接点をつなぎ留められるかどうかの分岐点ではなかろうか。新たな木戸銭は、落語愛好家が寄席に行こうかホール落語会に行こうか、と迷う分岐点になると思う。

 値上げによる悪循環が起こらないよう、小屋にも協会にも魅力ある寄席の運営を期待したい。

 今まで以上に、芸とは言えない漫談でお茶を濁す噺家や、客への対応が不適切な小屋には、小言を書くことになるかもしれない。こっちも、決して安くない木戸銭を払うのである。
Commented by 十代目白痴 at 2014-04-29 00:15 x
5月は、末広の中席にはぜひ、足を運びたいと思ってます。
なにせ、昼席が雲師の主任、夜席が「小さんまつり」と、
好物が続きますので^^。

しかし…
中席の興行は昼夜入替え制、「小さんまつり」に
前売りで入るとしても、木戸銭だけで6千円の出費…。
一日に落語で費やす金額じゃない気がします。

定席もあれですね、木戸銭上げるんなら、
『子褒め』『短命』『替り目』ばっかり聴かされるような
流れは避けてもらえないもんかと思います。

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-04-29 07:08 x
私もこの席の内容を見て、「なぜ入れ替えるの?」と不思議に思いました。
こういう席で昼夜通しをするお客さんこそ落語大好き、という方だと思いますし、昼の部後半から夜の部にかけて寄席初体験の方が楽しむことができたら、リピーターになるでしょうに。この木戸銭ではきついですよね。
小さんは天国で、こんな十三回忌をしてもらうことを喜んでいるのでしょうか・・・・・・。

Commented by hajime at 2014-04-29 08:01 x
他所の寄席様の事は良く判りませんがw
浅草なら、かなりのお客が読売の招待券で入場するので、客足には余り関係無い気がします。
それに加えてはとバスのお客、会社関係の団体客、これらは割引で入場しているお客です。それらのお客と普通のお客をどう対処するのかが、ここの問題だと思っています。
現在の様に、縄でくくって座らせない席を大量に拵えて現金のお客に対処するのか? 違う方法を考えるのかはこれからの問題だと思っています。
それと、個人的には、根岸兄弟を落語協会の顔付けで入れる回数を減らして欲しいですね。あの二人を見ると損した気分になります(^^)

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-04-29 08:47 x
現在の団体割引は、通常の大人料金で次のようになっています。
10名以上 2,300円
30名以上 2,200円
50名以上 2,100円
100名以上 2,000円

読売は特別なのかもしれませんが、この木戸銭も値上げするのでしょうかね。

浅草は、あの団体さんのおかげで安定収入があるかもしれませんが、その結果多くの落語愛好家の足を遠ざけているとも思います。

かつて根岸は浅草だけは受け入れていたと聞きますが、hajimeさんのご指摘ごもっとも。しかし、鈴本も正蔵を主任で3,500円とりますからねぇ・・・・・・。

Commented by 佐平次 at 2014-04-29 12:28 x
回数を減らすしかないです。
結局売り上げは減るんじゃないかな。
夜などは空いているそうですからむしろ安くする方がいいのかも。

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-04-29 15:19 x
多くの方が寄席に行く回数が減り、他の落語会や地域寄席などに移行するでしょうね。
顔ぶれに贅沢を言わなければ、結構木戸銭のお安い落語会はありますからね。
末広亭の夜の割引は好企画だと思いますので、利用しようと思います。

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by kogotokoubei | 2014-04-28 19:34 | 木戸銭 | Trackback | Comments(6)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛