人気ブログランキング | 話題のタグを見る

通ごのみ 扇辰・白酒二人会 日本橋社会教育会館 10月18日

久し振りの生の落語、それもこの二人会なので楽しみにしていた。チケットが売切れていた会場には落語会でよくお見かけする顔ぶれが多かった。いわゆる“ご通家”の落語愛好家を常連にする会として定着した、という印象。

次のような構成だった。
------------------------------
(開口一番 林家つる子『牛ほめ』)
桃月庵白酒 『首ったけ』
入船亭扇辰 『三方一両損』
(仲入り)
入船亭扇辰 『悋気の独楽』
桃月庵白酒 『甲府い』
------------------------------

林家つる子『牛ほめ』 (15分 *19:01~)
 小辰を期待していたが、なぜかこの人。二ツ目より前座、ということなのかもしれないが、それなら半輔にして欲しかったなぁ。落研の落語から抜け切れていないし、出来も言い間違えが多く、小言を言わざるを得ない。牛を褒める言葉「天角、地眼、一黒、鹿頭、耳少、歯合(違)」の“地眼”を説明する場面で“地べた”と言ってみたり、本来「お庭は総体御影づくりでございます」を、間違えて「見掛け倒し」と言うべきところ「御影づくり」と言って言い直したり・・・・・・。よく笑ってくれるお客さんに救われていたが、メクリの仕方も中途半端で、この会の唯一の傷、という印象だ。タレントになりたいのならともかく、噺家になりたいのなら、高座も大事だが、もっと前座の役割をしっかりこなすことが求められる。

桃月庵白酒『首ったけ』 (26分)
 事前に主催者から過去のネタがメールで届いて、これまで演っていないネタを、というプレッシャーがかかる、とぼやく。その後の“出待ち”の分類が可笑しかった。「教祖型」「アイドル型」そして「珍獣型」があって、落語家(白酒?)の場合は「珍獣型」。「ほっぺさわっていい?」なんて言われる型とのこと。お客さんに誘われて嫌々(?)キャバレーなどに行って、ホステスから来るメールは、Aから数えてせいぜいDクラス。「また来てね」だけで、お金持ちのAクラスの客へのメールは何行にもわたっていてハートマークが一杯、というのもありそうな話だ。
 楽しく、かつ無理なく本編につながるマクラから「廓の噺」とふったので、「いったい何だ?五人廻しか?」などと思ったが、古今亭十八番と言ってもよいこの噺だった。リズムカルな会話による大変結構な高座だった。

 志ん生の音源を基に、少しあらすじを紹介。
(1)花魁紅梅(こうばい)の“いい人”である辰っあんだが、その紅梅は部屋を出て行ったきり戻って来ない。イライラする辰の耳に、近くの広間で客が芸者をあげてドンチャン騒ぎをしている音が聞こえてくる。「こっちの気持ちも察しろ!」「静かにしろ!」などとわめくがまったく宴会はおさまらず辰は若い衆(白酒は、自分の二ツ目時代の名である喜助にしていた)を呼びつける。
(2)辰が怒りを喜助にぶつける。何とか辰の怒りをおさめようとする喜助だが困り果て、紅梅を探して連れて来る。売り言葉に買い言葉で辰と紅梅の口喧嘩となり、「帰る!」「帰りやがれ!」となって、辰は勘定を払って深夜に紅梅の楼(うち)を出る。
(3)外に出た辰が、どうしようか思案していると、前の楼の戸が少し開いていて、中に不寝番(ねずばん)がコックリと居眠りをしている。不寝番に訳を話したところ、その楼の青柳-あおやぎ-(志ん生は若柳-わかやぎ-が辰に惚れていて、紅梅に嫉妬しているので、二度と紅梅の楼に上がらないのなら青柳の客が帰ったから上がってくれ、と辰を引き入れた。
(4)青柳の部屋で目覚めた辰は向いの楼に「ざまぁみろ」とばかりにわめく。今夜も行くぞ、と心を躍らせていた辰だが、半鐘を打つ音が聞こえ、場所は吉原方面とのこと。青柳を助けるために吉原に向かった辰。行くとお歯黒ドブから「助けて!」の声。見るとそこには紅梅がドブにつかっていた。昨晩夜中に放り出されたことを根に持つ辰が「おめぇなんぞ、誰が助けるもんか」と言うと、「ゆるしてェ、あたしゃ、ドンドンもぐって行くんだよ」「薄情なやつァ、助けねえ」「薄情なことなンぞしないよ。ごらんよ、この通り、首ッたけだよ・・・・・・」でサゲ。

 師匠雲助のこの噺を聴いたことがないので、師匠譲りかどうか分からないが、志ん生版にはない工夫があり、それが効いていた。まず、(2)の怒る辰となだめる若い衆・喜助のやりとり。喜助が「不可欠」と言うと辰が「ケツに深いも浅いもあるかい!」と返す。喜助が「すべからく」と言うと辰が「可楽も円生もねぇ!」と返す。喜助が「落語通ですね」とダメ押しのクスグリ。何とも楽しいやりとりに会場も私も大笑い。
 また、(3)の不寝番と辰の会話の場面。不寝番が「おや、お向かいの紅梅さんのいい人の辰っあんじゃないですか」と言うのだが、辰が泊めてくれと頼むのを、「他の楼の客を奪うようなマネ、私の分際では決められない」と奥に声をかけ他の若い衆を呼ぶ。この若い衆が「おやっ、紅梅さんのいい人の辰っあんじゃないですか」とオウム返し。そして、もう一人奥から呼ぶ、という演出で、ここ場面の会話の可笑し味が厚みを増した。決してくどさを感じない、笑いのツボを押さえた演出だった。
 マクラが10分余りあったので本編は15分ほどなのだが、辰を主人公として、喜助、紅梅に若柳、そして不寝番たちとの会話で笑いの途切れることのない高座、文句なく今年のマイベスト十席の候補である。志ん朝の命日に古今亭十八番を改訂し、泣く泣くこのネタを十八番から外したのだが、やはり古今亭十八番に入れないわけにいかないなぁ。次回の改訂で考えよう。

入船亭扇辰『三方一両損』 (33分)
 上がってから、しばらく白酒の汗が飛んだ跡(と思しき)座布団の前を見つめる。お約束のポーズ、と言えるだろう。通算九回目とのこと。私はこの会で四回目だ。先日もこの顔ぶれで二人会があり、その副題が「ピーチ&ドラゴン」であったらしい。それ以来、白酒を「ピーチ君」と呼ぶと、白酒がすごく嫌がると笑う。
 短いマクラから、まさか白酒のネタに「可楽」の名があったから決めたわけではあるまいが、八代目可楽が得意としていた大岡政談ものへ。越後生まれの江戸っ子(?)扇辰である、この噺はニンだ。財布を拾った金太郎と、落した吉五郎の啖呵の切り合いが結構。ただし、金太郎が神田竪大工町に吉五郎を訪ねる場面で、道を聞くために煙草屋に立ち寄る場面を、少し長めに演じたのだが、少しダレた。
 二席目のマクラで「実は噛んだ、というか科白を一瞬忘れたんですが、分かりましたか」と言っていたが、どこだったろう。終演後の居残り会でその話題になり、私は「吉五郎が大家に毒づく科白を金太郎が自分の大家に繰り返す場面かなぁ」と言うと、リーダーSさんが「お白洲の場面が、少しくどかったので、あそこかもしれない」とおっしゃた。たしかに、奉行から吉五郎が「面(おもて)を上げぇ」と言われた後に、少し間があったかもしれない。しかし、違うかもしれない。扇辰が上手い事だましてくれた、ということだろう。

入船亭扇辰『悋気の独楽』 (25分)
 仲入りの後に続けて扇辰。「焼きもちは遠火でやけよほどほどに 胸もこがさず味わいもよし」を繰り返して本編へ。定吉のキャラクターが、少しトンガリすぎかもしれないが、それもこの人の持ち味だろう。悋気のネタなら『夢の酒』のほうがこの人にはニンだと思うのだが、すでに演っているのかもしれない。
 どちらかと言うと、二ツ目か若手真打のネタという印象が強い。扇辰の女房と妾役なども悪くないし、定吉も楽しいのだが、トリネタとしては、若干期待はずれの感もある。本人も久し振りなのではなかろうか、少し歯切れが悪かったように思った。

桃月庵白酒『甲府い』 (28分 *~21:26)
 短いマクラからこの噺。浅草で紙入れを盗まれて一晩なにも食べずに空腹だった、という善吉の話を聞いた豆腐屋の主が、自分達夫婦の過去の経験を語る場面が、噺に深みを与えたように思った。いい人ばかり出てくる噺に白酒らしい味付けをしたのが、「オカミさんはしくじっちゃいけない」ということを噺家の場合、ということで師匠のオカミさんと上手く付き合って援護してもらう場合と、その逆の場合を演技して笑わせたが、私は、このクスグリは余計だと思った。噺の流れが止まった印象。その他は、非常に結構なリズムで進めていたので、笑いをとるためのわざとらしさを感じたあの演出を残念に思うのだが、白酒ならあれもあり、なのかなぁ。居残り会では、Sさんが「あれが白酒らしさ」とおっしゃっていた。なるほど、とも思う。しかし、この噺は以前に国立演芸場で聴いた扇辰の方が上だと思う。


 今年の三月の会は『匙かげん』の扇辰が白酒を圧倒したような印象だったが、今回は『首ったけ』の白酒が上回ったように思う。2013年3月6日のブログ
 二人会で噺家同士が戦っているわけではないが、際立った高座は、その落語会の印象として強く残る。

 終演後はお楽しみ(?)の居残り会。発足メンバー三人に紅一点M女史と四名で、旨い居酒屋探しなら間違いのないリーダーSさんが、開演前の散歩で目をつけていた店へ。またしても当り、である。さつま揚げには驚いた。丸くて大きな姿は、通常のさつま揚げの数倍のボリューム。かつ旨かったこと。落語のこと、だらしのない政治のこと、落語に関する最近発売された本のことなどなど、つい話が弾み清酒「菊川」の二合徳利が次々と空いていく。気がつけば「ラストオーダー」の声。最初に食べて旨かった鰹を再度注文。仕上げの瓶ビールは結局二本となり、ようやくお開きになったのだから、帰宅は終電一本前、日付変更線を越えないはずがなかった。しかし、久し振りの生落語と居残り会、楽しかったなぁ。
Commented by 佐平次 at 2013-10-19 21:20 x
あの白酒のオカミサン話は白酒のサービスではないかと思ったのです。
それにしても落語界と居残り会の時間がほとんど同じってのも凄いですね。
長いマクラじゃなくて長いトイレ?

Commented by 小言幸兵衛 at 2013-10-19 21:41 x
きっと白酒のサービスだったのでしょうね。
いえいえ、「長い余韻」とでも言えるのではないでしょうか。
綺麗すぎますか^^

Commented by 創塁パパ at 2013-10-20 15:59 x
久しぶりのリラックスしてした週末でした。
落語はやっぱりいいですね。

Commented by hajime at 2013-10-20 17:36 x
全く関係ありませんがNHK新人演芸大賞は鈴々舎馬るこさんが優勝したそうですね。
彼の事は入門当初から知っていたので、嬉しいですね。
関西出身で上方落語も出来る人です。

関係ないコメントですいませんm(_ _)m

Commented by hajime at 2013-10-20 17:39 x
山口出身でした。間違えました。

Commented by 小言幸兵衛 at 2013-10-20 18:19 x
楽しかったですね。
やはり、居残り会に三人は欠かせない^^

Commented by 小言幸兵衛 at 2013-10-20 18:22 x
ちょうどブログに書いていたところです。
馬るこは、以前に聴いた頃からはずいぶん良くなったと思います。
しかし、私の審査では露の紫が大賞です。

名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by kogotokoubei | 2013-10-19 09:10 | 落語会 | Trackback | Comments(7)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛