噺の話

kogotokoub.exblog.jp
ブログトップ

『名人長二』(4)—森まゆみ『円朝ざんまい』などより。

さて、ついに(?)このシリーズ最終回。

 以前紹介したように、雲助による十一月から三カ月連続口演の演目が、主催されている「いたちや」さんのサイトに次のように紹介かれている。
「いたちや」さんサイトの該当ページ
11月18日 仏壇叩き 湯河原宿 谷中天龍院
12月24日 請地の土手 清兵衛縁切り
 1月15日 お白洲 大団円


 私のブログは四回に分けたが、これまでのお題を次のようにつけた。
 その壱 「仏壇叩き 湯河原の捨て子」
 その弐 「谷中天龍院 幸兵衛とお柳」
 その参 「請地の土手 スカイツリー」


 さて、その四は、「清兵衛縁切り お白洲」にて、ご機嫌をうかがいます。

e0337777_11074105.jpg

森まゆみ著『円朝ざんまい』(文春文庫)
 
 『円朝ざんまい』より、「請地の土手」(「押上堤」)の立ち回りの後の部分を引用。

 さて長二は思いがけなくも実の母と、実の父かどうかはわからなねど、その連れ合いの命を奪ってしまった。経過を見れば正当防衛ともいえようが、師匠に累が及んではとむりやり縁を切り、自主して出る。

  其の頃南の町奉行は筒井和泉守様で、お慈悲深くて御裁きが公平といふ
  評判で、名奉行でございました。丁度今月はお月番ですから、お慈悲の
  お裁きにあづからうと公事訴訟が沢山に出ます。

 江戸時代はいわば都知事が二人いて月替りで仕事をしていたのである。そして慈悲深いとか公平とか、人気の高い方が月番のときにどっと裁判の訴えが起こされたというのだから面白い。なかなか良い制度ではないか。


 ご覧のように、この本では、師匠との縁を切る、「清兵衛縁切り」の部分が、非常にあっさりとしかふれられていない。

 こうなると、青空文庫の原作から、少し引用したくなるのが、私の悪い(良い?)クセ。青空文庫「名人長二」

 請地の土手の不幸な出来事のあった翌十一月十日の夕刻、深川六軒堀の伯母の病気見舞いで留守にしていた兼松が長二宅へ戻ってみると、そこは既に空家となっており長二もいない。
 大家から長二が急に旅に出ると言って出て行ったと聞いた兼松、心配になって両国大徳院前の親方清兵衛の家へ行く。清兵衛、一番弟子の恒太郎、恒太郎の女房で清兵衛の娘お政、そして兼松らが心配をしているところへ、酒に酔った長二がやって来た。

 長「親方……私わっちは遠方へ行く積りです」
 清「其様そんなことをいうが、何所どけへ行くのだ」
 長「京都へ行って利齋の弟子になる積りで、家うち
  をしまったのです」
 清「それも宜いいが、己も先せんの利齋の弟子で、毎いつも
  話す通り三年釘を削らせられた辛抱を仕通したお蔭で、是まで
  になったのだから、今の利齋ぐれえにゃア指さす積りだが……
  むゝあの鹿島かしまさんの御注文で、島桐しまぎりの火鉢と桑
  の棚を拵こせえたがの、棚の工合ぐえいは自分でも好よく出来
  たようだから見てくれ」
 と目で恒太郎に指図を致します。恒太郎は心得て、小僧の留吉と二人で仕事場から桑の書棚を持出して、長二の前に置きました。
 清「どうだ長二……この遠州透えんしゅうすかしは旨いだろう、
  引出の工合ぐあいなぞア誰にも負けねえ積りだ、これ見ろ、
  此の通りだ」
 と抜いて見せるを長二はフンと鼻であしらいまして、
 長「成程拙まずくアねえが、そんなに自慢をいう程の事もねえ、
  此の遣違やりちげえの留とめと透すかしの仕事は嘘だ」
 兼「何だと、コウ兄い……親方の拵こせえたものを嘘だと、
  手前てめえ慢心でもしたのか」
 長「馬鹿をいうな、親方の拵えた物だって拙いのもあらア、
  此の棚は外見うわべは宜いいが、五六年経ってみねえ、留が
  放はなれて道具にゃアならねえから、仕事が嘘だというのだ」
 恒「何だと、手前てめえ父さんの拵えた物ア才槌せえづちで一つ
  や二つ擲なぐったって毀こわれねえ事ア知ってるじゃアねえか」
 長「それが毀れる様に出来てるからいけねえのだ」
 恒「何うしたんだ、今夜は何うかしているぜ」
 長「何うもしねえ、毎いつもの通り真面目な長二だ」
 恒「それが何故父さんの仕事を誹くさすのだ」
 長「誹す所があるから誹すのだ、論より証拠だ、才槌せえづち
  を貸しねえ、打毀ぶっこわして見せるから」
 恒「面白い、毀してみろ」
 と恒太郎が腹立紛れに才槌さいづちを持って来て、長二の前へ投ほうり出したから、お政は心配して、
 政「あれまアおよしよ、酔ってるから堪忍おしよ」
 恒「酔ってるかア知らねえが、余あんまりだ、手前てまえの腕が
  曲るから毀してみろ」
 兼「若わけえ親方……腹も立とうが姉あねさんのいう通り、酔って
  るのだから我慢しておくんなせえ、不断此様こんな人じゃアねえ
  から、私わっちが連れて帰って明日あした詫に来ます……兄い
  更けねえうちに帰けえろう」
 と長二の手を取るを振払いまして、
 長「何ヨしやがる、己おらア無宿やどなしだ、帰けえる所とこアねえ」
 と云いながら才※(「てへん+二点しんにょうの「追」」)を取って立上り、恒太郎の顔を見て、
 長「今打き毀して見せるから其方そっちへ退どいていなせい」
 と才槌を提ひっさげて、蹌よろめく足を蹈ふみしめ、棚の側へ摺寄って行灯あんどうの蔭になるや否や、コツン/\と手疾てばやく二槌ふたつちばかり当てると、忽ち釘締くぎじめの留は放れて、遠州透はばら/″\になって四辺あたりへ飛散りました。


 この後、長二は、わざと清兵衛に悪態をつく。もちろん、お世話になった親方清兵衛をわざと怒らせて縁を切り、自分の罪の累が及ばないようにしようという長二の狂言。

 自首した後の“お白洲”での物語を、あらためて『円朝ざんまい』から引用。

  白洲をずうツと見渡されますと、目安方が朗かに訴状を読上げる、奉行は
  これを篤と聞き了(をは)りまして、
  奉「浅草鳥越片町幸兵衛手代万助、本所元町与兵衛店恒太郎、訴訟人
  長二郎並びに家主源八、其の外名主代組合の者残らず出ましたか。
 
 師匠と大家は長二がいかに親孝行で実直で、家賃は十日前におさめ、施しが好きかを語る。

  「悪心があつてしたでは無いと存じます」
  「しかし何故、得意の恩人を殺したじや」
  長二「只あの夫婦を殺したくなりましたから殺したのでございます。
  「黙れ・・・・・・其方(そのほう)狂気いたして居るな」

 長二の善良と非凡を知っている奉行は、なんとか狂人ということにして命を助けたい、と誘導するのだが、長二はのらない。



 さぁ、せっかく名奉行筒井和泉守が救おうとしているのに、長二は、すでに肚を決めているのだろう、誘いにのらない。
 
 ここで、八月二日の「雲助五拾三次之内~惨劇~」『緑林門松竹』のことを書いたブログでも参考にさせていただいた、「はなしの名どころ」サイトの、「指物師名人長二」のページから、この噺の人物相関図をお借りする。
「はなしの名どころ」サイトの該当ページ
2013年8月3日のブログ

e0337777_11103738.jpg

 
 これから書く内容は、この図を参照していただくと分かりやすいはず。

 原作から、筒井和泉守が、調べの矛先を変える件を、少し紹介。

 町奉行筒井和泉守様は、長二郎ほどの名人を失うは惜おしいから、救う道があるなら助命させたいと思召す許ばかりではございません、段々吟味の模様を考えますと、幸兵衛夫婦の身の上に怪しい事がありますから、これを調べたいと思召したが、夫婦とも死んで居ります事ゆえ、吟味の手懸りがないので、深く心痛いたされまして、漸々よう/\に幸兵衛が龜甲屋お柳方へ入夫にゅうふになる時、下谷稲荷町の美濃屋茂二作みのやもじさくと其の女房お由よしが媒妁なこうど同様に周旋をしたということを聞出しましたから、早速お差紙さしがみをつけて、右の夫婦を呼出して白洲を開かれました。


 相関図の右下にいる、茂二作とお由が登場。

 筒井和泉守が、茂二作、お由の家を張り込ませたところ、やってきた岩村玄右との会話を耳にすることで、新たな展開が生まれた。あらためて『円朝ざんまい』から。ここは、大どんでん返しの部分なので、雲助や今松の高座で初めて知って驚きたい方は、我慢のほどを^^

 奉行はお柳幸兵衛の前身をさぐらせ、亀甲屋の先代半右衛門のなぞの死を吟味する。すなわち、幸兵衛はもと坂本二丁目の経師屋桃山甘六の弟子であったが、亀甲屋に出入りするうち柳に見込まれ、二人は不義密通をしたあげく、主人半右衛門を医師玄右の鍼で突かせて殺す。
 しかも柳が長二を身ごもったのが四月、幸兵衛が初めて亀甲屋に来たのが五月二日、さすれば長二の父はまぎれもなく半右衛門。なれば長二が幸兵衛を殺したのは天晴れ父の仇討ちということになる。母親はどうか。夫を裏切り、すでに妻たるの道を失っている以上、長二にとっても母ではない、と幕府きっての儒者・林大学頭が「礼記」を拠り所にしての講釈。これで母殺しの罪ものがれ、一件落着となる。御見事。
 なんだか「ハムレット」のような話になってきた。
 長二は計らずも実父の跡を襲い、大身代亀甲屋を相続し、名前を幼名の半之助と改め、筒井和泉守の腰元となっていた坂倉屋助七の娘島路をめとり、夫婦睦まじく豊かに暮した。
「墓は孝徳院長誉義秀居士と題して、谷中の天龍院に残ってございます」



 あら、こんな筋書きだったとは・・・・・・。

 本書では、この後で永井啓夫『三遊亭円朝』にあるこの噺が成立した背景を少し説明した後で円朝のことにふれ、次のように締めている。

「本所で飲もうよ」「あい」とぽん太。歩くうち、清々しい格子戸の居酒屋「わくい亭」に出くわす。たらの芽の天ぷら、しらたきの山椒煮、わらびのおひたし、塩らっきょ、関あじと皮はぎ。酒は朝日山、いずれも結構でございました。



 おや、我が「居残り会」でも、ぜひ行きたいようなお店ではないか。

 森まゆみ『円朝ざんまい』を中心に、青空文庫(これも貴重!)の原作なども交えて『名人長二』の内容を紹介したが、ますます今松、雲助の高座が楽しみになってきた!



 筋書きを知らずに高座を楽しみたい方がいらっしゃるでしょうが、私は知った上で楽しみたいほうでして、お許しのほどを。

 長々とお付き合いいただき、誠にありがとうございます。
[PR]
名前
URL
画像認証
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by kogotokoubei | 2013-09-03 19:27 | 落語のネタ | Comments(0)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛