噺の話

kogotokoub.exblog.jp
ブログトップ

桂米朝は、『大丸屋騒動』を演じたことがあるのか?

昨日のブログにいただいたコメントで、一つの謎ができた。

 いただいたコメントでは、米朝の『落語と私』にある『大丸屋騒動』に関する文章について述べられ、その内容から察して、米朝がこのネタを高座にかけたことは、もしかすると一度もないのではないか、とのご指摘。

e0337777_11102156.jpg

桂米朝著『落語と私』
 
 本書は初版が昭和50(1975)年にポプラ社刊。その後私が持っている文春文庫で1986年発行。そして、写真はポプラ社から2005年に発行された新装版。だから、内容は昭和50年当時、と思ってよいのだろう。

 「第二章 作品としての落語」の中の、“名作・駄作も演者しだい”の部分から引用。該当部分の前に、『しの字嫌い』について、ネタの内容などが少し紹介された後の部分から引用したい。

 わたしは、このはなしはもともと、その悪演出とされる悪智恵競争を主眼とした、わりに程度の低い落語であると思います。それがたまたま、二世円馬によってすばらしい息吹きをふきこまれ、わたしの師匠を瞠目させたのであると言えましょう。
 もう一つ。
『大丸屋騒動』という落語があります。さる若旦那が芸妓とふかく馴染む。どちらも真剣です。親の知るところとなって、若旦那は別宅にとじこめられて外出止め。
 (中 略)
 これは『しの字嫌い』とちがって、むずかしい大ネタで、人物の表現やら、京都の風景描写やら、ちょっとだれにでもやれるというわけにはゆきません。京の先斗町に住んでいた先代の桂枝太郎師という人の十八番であったことは有名でしたが、いまはだれもやれません。
 むつかしい噺—と言っても『たちぎれ』や『百年目』『菊江仏壇』などに比べて特にどうということもないし、ことにサゲはあまりよいサゲとも言えません。
 なぜ、この噺がだれにもやれないかというと、先斗町の枝太郎師が、人をつぎつぎと切ってゆく演出に、実にすばらしい演技をみせたためで、その演(や)り方は活字では説明できませんが、(註、わたしは故小文治師のを二度見ました)踊りの輪という特殊な群衆描写がまず大変で、そこへ、目を半眼にした若旦那が、血刀をぶらさげてふらりふらりとはいってゆく、本人は切る意志がないのに、刀が勝手にうごいて切りたおす。その瞬間の若旦那の顔。・・・・・・つぎの瞬間には踊り手の芸妓になる。朋輩と声をかけ合う、つぎの瞬間に切られてガックリ崩折れる舞妓、・・・・・・不審そうにのぞきこむ踊りの仲間、フト血刀をみてキャッと声をあげる、一瞬刀をふるう無表情な若旦那・・・・・・、楽屋からはこの間、ずっとお囃子がながれていて、踊りの振りも、あいだにはさまれる・・・・・・、そしてだんだん群衆がこの男に気づいて恐怖がひろがってゆく・・・・・・、夏の夜の季節感が感じられて・・・・・・と、こう言えばこの演出のむずかしさがお解りいただけると思います。
 この演出あってこその『大丸屋騒動』でして、この演出あってこその大ネタと言えます。ここをさっと逃げた演り方でやるのなら、わたしにもできるでしょう。しかし、その場合、この噺は別にたいした落語でも何でもなくなってしまうわけです。
 活字で読めば『大丸屋騒動』は、特別扱いするほどの落語ではありません。が、先斗町演じる『大丸屋』を見た古い人たちは、どんなに感動したか・・・・・・。はじめに書いたように、なまの落語と読む落語とはべつの物なのです。



 私は、このネタのWikipediaを読んで、「米朝も演るんだ・・・・・・」と思っていた。
Wikipedia「大丸屋騒動」

 そして、音源をググったところ、たしかに米朝の音源が見つからなかった。五代目文枝、新治の師匠二代目露の五郎兵衛の音源はすぐに見つかった。
 東芝EMIから発売されているCDにもDVDにも、このネタはなさそうだ。音源はたしかに存在しないのかもしれない。
 しかし私は、米朝は高座では演じたが、音源は発売されていないのだろう、と勝手に思っていた。
 でも、紹介したような次の文章を読むと、もしかすると演じたことがないかもしれないなぁ。

“この演出あってこその『大丸屋騒動』でして、この演出あってこその大ネタと言えます。ここをさっと逃げた演り方でやるのなら、わたしにもできるでしょう。しかし、その場合、この噺は別にたいした落語でも何でもなくなってしまうわけです”

 『落語と私』初版発行の昭和50年、米朝は50歳。だから、四十歳代の米朝は、この噺を“逃げ”ずに演る自信はなかったのだろう。

 しかし、その後に“逃げ”ずに演じる自信がついて、高座にかけた可能性もあるだろう。

 あるいは、米朝の高座を収録した音源はあっても、この噺は“見る”落語だから、発売しなかったとも考えられる。

 いずれにしても、今の私にとっては、ミステリーなのだ。

 こうなると、「米朝独演会」のネタを調べてみようか、などと新たな欲求が出てきてしまい・・・自分の性格が少し嫌にならないでもない^^

それにしてもどうやって調べようか?

 米朝は『大丸屋騒動』を演じたのか?

 この謎の答えを知っている方のコメントを期待するしかないかな・・・・・・。
[PR]
Commented by 上町のおっさん at 2013-06-25 23:48 x
こちらへも失礼します。

米朝師匠は大丸屋騒動は持ちネタにありません。
ご本人にから直接伺っています。

この話は演じ手が途絶えていましたが、速記には昭和4年発行の「名作落語全集4巻」二代目桂三木助のものと、五代目笑福亭松鶴が編んだ「上方はなし第15集」のものがあります。
大筋ではほとんど差はありませんが、細かなところで少しずつ異なり、新治さんの師匠の露の五郎兵衛師匠が演じるものは三木助のものに近いです。
他には初代森乃福郎師匠、五代目桂文枝師匠が演じておられ、この3人の方の大丸屋騒動の高座は実際に拝見しています。
また、東京で上方落語を演じておられた先代の桂小文治師匠も持ちネタにあったようです。

ハメモノの使い方や下座へのきっかけのセリフなど、それぞれに工夫がありました。
新治さんのは、おそらく五郎兵衛師匠の型を踏襲されていらっしゃるものと思います。

いずれにしましても、米朝師匠の持ちネタには大丸屋騒動はありません。

Commented by 用のない納豆売り at 2013-06-26 00:31 x
あら、あっさり決着がついちゃいましたね。

結論としては、肝心の部分を「逃げずに」やりきった新治は見事ということでしょうか。

先のコメントで、米朝の文章を読むと新治も枝太郎にはまだ及ばないのかも知れないなどと根拠のないことを書いてしまいましたが、米朝さんだって、枝太郎のを実際に見たわけでなく、伝聞で書いてるわけですからね。
新治の大丸屋騒動を米朝さんが見たら、どんな評価をするのだろう。きっと絶賛するだろうという気がしてきました。五郎兵衛、先代福郞、先代文枝のものは見たことがあるのだろうか。上町のおっさんさんがそれも知っていたらすごいですが。

Commented by 小言幸兵衛 at 2013-06-26 08:55 x
さっそくのご回答、深く感謝申し上げます。
米朝独演会のネタを一所懸命探すところでした^^

そうですか、ご本人からの情報なら間違いはないでしょう!

なるほど、新治は二代目三木助の系統を継いでいるのですね。
三代目三木助は、稽古してもらわなかったんでしょうかね。踊りの師匠を一時していた位ですから、演じることもできたと思うのですが。

いろいろ勉強になります。

今後も、よろしくお願いいたします。

Commented by 小言幸兵衛 at 2013-06-26 09:01 x
上町さんのおかげです!

米朝は、「落語と私」で小文治の高座を見ていると書いていますが、同時代に活躍した五代目文枝、二代目露の五郎兵衛、初代森乃福郎のそれぞれの高座も、きっと見ているはずです。

師匠の五郎兵衛との関係が、少し気になりますが、ぜひ新治の高座の感想をお聞きしたいものですね。

“「大丸屋騒動」騒動”にならなくて良かった!

Commented by 佐平次 at 2013-06-26 10:48 x
こういう騒動は大歓迎です。
面白い面白い、落語は奥が深いノウ^^。
この大丸屋を二度も観た私は果報者です、初めての新治体験が大丸屋、そこで惚れこんだんだから、まんざらの銀紙派でもなさそう、えへん!

Commented by 小言幸兵衛 at 2013-06-26 11:51 x
世の中に、たくさん落語の“師”がいらっしゃって、うれしい限りです。

今年は居残りチームに上方ブーム到来、という感じですね。

かもめ亭での『兵庫船』は、“五目講釈”のない型だったようですね。
『狼講釈』をネタにしていますし、兵庫は、他に聞かせどころ満載ですからね。

9月も何とか行きたいものです。

Commented by 創塁パパ at 2013-06-27 06:52 x
そうですか。答え出てましてか。後は米二師に期待するか。師匠にメールしてみます(笑)

Commented by 小言幸兵衛 at 2013-06-27 08:43 x
お手数ですが、よろしくご確認のほどを!
米二師匠にも、ぜひ挑戦してもらいたいネタですが、ご本人は相性が合わないように思ってらっしゃるかもしれませんね。
それぞれの個性に合ったネタ、というものもありますからね。

Commented by 佐平次 at 2013-06-27 10:30 x
昨夜、米朝の「兵庫船」「鹿政談」を聴きながら寝ました。
同じCDに入っているのです。
生の高座と比較するのは無理を承知でいえば新治の方がいい、好きです。

Commented by 小言幸兵衛 at 2013-06-27 11:02 x
あら、私は昨日の帰宅途上、携帯音楽プレーヤーで枝雀の『兵庫船』を聴いていました!

枝雀は、別格です。誰とも比較しません^^

それにしても、新治は結構でんなぁ。

Commented by ほめ・く at 2013-06-27 21:39 x
割り込んで申し訳ありませんが、「鹿政談」は笑福亭三喬を推します。あまりの恰幅に良さに、このネタの従来の印象を一変させられました。

Commented by 小言幸兵衛 at 2013-06-27 22:02 x
三喬は、残念ながらテレビでしか知らないのですよ。
もっと生の高座を聴くべき上方の噺家さんが、たくさんいるようで、楽しみです。

名前
URL
画像認証
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by kogotokoubei | 2013-06-25 19:29 | 落語のネタ | Comments(12)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛