噺の話

kogotokoub.exblog.jp
ブログトップ

WOWOW 5月5日放送 「志の輔らくご in PARCO 2013」の感想。

WOWOWで5月5日に放送された「志の輔 in PARCO 2013」を録画しておいたので、今ほど観た。

 WOWOWのサイトから、ネタ二席の短い説明を引用。
WOWOWのサイトの該当ページ

新作「質屋暦」:
旧暦から新暦への暦の変わり目で、人はいかにとまどい、不思議な振る舞いをするのか。志の輔らくごならではの、ひとのおかしさをやさしくのぞきこんだ2013年の新作。
古典「百年目」:
春の情景がおりこまれた古典落語の傑作。現代でも通じる厳しい上下関係のなかに、ひかえめながらしっかりとしみこんでいる情愛の世界を描く。



 結論から。何度か、この試みに批判的な内容を書いてきたが、同じネタを一カ月近く上演する会、そろそろ曲がり角だろう。

 一席目の『質屋暦』。この噺は、私が以前に書いたように、明治5年は12月3日から明治6年の元旦になるという、それまでの太陰太陽暦からグレゴリオ暦に改暦したことを題材。
2013年1月14日のブログ
2013年1月15日のブログ

 『質屋暦』は、改暦に伴う大工と質屋とのやりとりが中心だが、私は楽しむことができなかった。因業な質屋伊勢屋が改暦を逆手に取り利子を多くとろうする。「女房を質に入れてでも金を持って来い」と伊勢屋に言われ、大工の女房が、「それじゃ私行って来る」という落語らしい展開はある。大家の知恵を借りて伊勢屋との戦い(?)に買ったので調子にのってしまった大工夫婦。伊勢屋と対照的に一人暮らしで気の優しい質屋の対応からサゲに至るが、筋書きに捻りがない。登場人物が大工夫婦、大家、二軒の質屋の主人、という具合で、長屋の広がりが見えない。「12月3日の明日が元旦?!」ということで、長屋一同の騒動なども描けたはず。
 何より、あの改暦を題材として、あの志の輔が作る新作がこの程度なのか、というのが正直な感想だ。私なら、サゲを先にイメージするなぁ。「暦(好み)の問題です」なんてね^^

 あらためて、改暦のことを、以前にも紹介した書から引用したい。
e0337777_11093862.jpg

『旧暦と暮らす-スローライフの知恵ごよみ-』松村賢治著(文春文庫)

 1月15日のブログで紹介した本。松村賢治さんは、社団法人大阪南太平洋協会の理事長で、同協会では「旧暦カレンダー」を発行している。
(社)大阪南太平洋協会

 「第六章 なぜ旧暦が使われなくなってしまったのか」の「改暦の怪」から引用。

 「改暦は、脱亜入欧、富国強兵、文明開化促進の要」という大義名分は、まったく正当なものに違いありません。しかし、実際のところは、明治政府の懐具合が、改暦の大きな要因だったようです。廃藩置県を断行して、中央地方共々、お役人のサラリーは月給制になっていました。その上、政府は外国人のアダバイザーや教育指導者をたくさん雇い、目白押しの大改革に、更なる大出費を迫られていました。
 明治六年は、「旧暦」のままだと閏六月があり、給料日が十三回ある年でした。
「もし、明治五年十二月三日が、明治六年のお正月になり、翌年が「太陽暦」で、閏がなくなったら・・・・・・」
「難なく、十二月と六月、二ヶ月分の給料がカットできる!!」
 どうもこれが、大急ぎの改暦の第一の理由だったようです。

 さて、他のアジア諸国の改暦事情は、どうだったのでしょう。韓国は、明治二十九(1896)年、中国が辛亥革命の翌年、明治四十五(1912)年です。日本は明治六(1873)年ですから、確かに、アジアでの西欧化の先頭に立ったわけです。
 アジアの中の日本という連帯感を、旧暦害悪論が少なからず打ち壊し、他のアジア諸国の不興を買ってしまったことは、否めない事実のようです。
 国際交流の面から捉えてみても、アジアの風土に根ざした生活規範を全面否定して、ヨーロッパの仲間入りを目指した日本を、周辺アジア諸国の人々がどのように感じていたのか、そういった面での思いやりに欠けた行動が、後にアジアの人々よの間に、大きなわだかまりを作る原因となったのかも知れません。
 今の我が国のひずみは、季節感や古き良きものへの愛着心の喪失も含めて、自然に則した社会運営の歯車が、急激な改暦で狂っていった結果かもしれません。


 こういった改暦の背景、史実があるので、この題材で落語をつくるなら、もっと違った噺を練ることができたのではないかと思う。
 冒頭で志の輔が説明したように、役人の給料がほぼ二ヶ月分、大幅にカットされているのだ。そういった状況に、いくらでもネタは見出せるのではないか。また、それは、落語本来の、笑いを伴った権力への風刺ともなるのではないか、とも思う。
 私は、これまでの志の輔の新作のレベルの高さを評価している。『みどりの窓口』や、PARCOで初披露された『歓喜の歌』は好きだ。しかし、正月の二十日間通しで演じられる“明治の改暦”を題材とした『質屋暦』は、正直なところ高く評価できない。

 次に古典の『百年目』だが、こちらもあまり楽しめなかった。
 まず、噺全体が“饒舌すぎる”。向島の花見の場面に、『長屋の花見』のクスグリなど必要だろうか。ウケを狙ったとしか思えないが、志の輔らしくない。
 その向島で、堅物と思っていた番頭が芸者や幇間と花見で騒いでいる場面に偶然出会った大店の主。慌てて帰ってから悶々と一夜を明かす番頭。そして翌朝の主人と番頭との対面。このヤマとなる場面が、私には腑に落ちない。まず、お茶を淹れて番頭に奨める場面は、やや冗長だった。そして、主人が「来年は必ず番頭さんに店を持たせます。だから、それまではやめずにいておくれ」と頭を下げる演出、この噺には似合わないだろう。これほどへりくだった主人を見たのは初めてである。
 ネタの解釈は噺家それぞれ、と言うこともできるが、この噺で主人と番頭の関係は逆転しないだろうと思う。加えて、主人が頭を下げた際、番頭は「頭を上げてください」などとは言わず、一瞬の間の後で「分かりました」と答える。これまた違和感ありだ。
 ヤマ場を無理に引き伸ばしているような印象で、その試みが成功しているように思えない。パルコでネタおろしの内容なのか、以前からの構成・演出なのかは知らないが、私は志の輔らしくないように思う。


 正月の年中行事となり、芸能人も多数会場にやって来るらしいパルコ。私は一度も行ったことはないし、今後も行くつもりはない。同じネタを20日間、ということと木戸銭の高さが納得できないからだ。

 行かない私がこう書くと、志の輔ファンやパルコ好きな落語愛好家から大ブーイングがあるだろうと覚悟して書く。

 「志の輔さん、しばらくパルコを休みましょう。残念ながら芸が荒れています。あなたには充電が必要です」
[PR]
Commented by ほめ・く at 2013-05-09 08:28 x
私はこの番組を見ておりませんが、書かれている通りなら「百年目」の志の輔の演出は完全な失敗ですね。
主人が奉公人に頭を下げることはありえないし、第一不自然です。大失態を許したのは主人の方ですから。
暖簾分けの件もお互いが理解し合ってのことで、その前提があるからこその主人の説諭です。
これじゃぁ客は納得しないでしょう。

Commented by とおりすがり at 2013-05-09 08:42 x
実際に聴きに行った人たちのブログ等を見ましたが、客のほとんどがいわゆる信者なので大絶賛のようです。私は演出以前にあの部分はくどくて長すぎると思いました。

Commented by 小言幸兵衛 at 2013-05-09 12:09 x
ほめ・くさんがご覧になっていたら、相当ストレスがたまっただろうと思います。
鈴本の権太楼も良かったようですが、米朝にしろ志ん朝にしろ、主人が頭を下げて番頭に「このままいてくれるかい」なんて構図は、この噺ではあり得ませんよね。
実際にパルコに行ってあの『百年目』が良かったという人は、一年にどれ位寄席や落語会に行き、どれほど過去の名人達の音源を聴いているのか疑問ですね。
まぁ、落語を聴きに行っている感覚ではないのかもしれませんがね。

Commented by 小言幸兵衛 at 2013-05-09 12:15 x
ご指摘の通りで、長すぎました。
志の輔の声は、決して噺家として恵まれた声をは言えません。しかし、これまでは、その表現力、創作力などでそのハンディキャップを十分に補ってきたように思います。
しかし、あの『百年目』のように冗長で不可思議な演出を聴くと、あの声が次第にノイズに近くなってきます。
とにかく、現在のパルコは彼の懐を豊かにはするでしょうか、彼の芸を豊かにするとは思えません。
“信者”が多い今のうちに、教祖は少し姿を隠した方がよいように思います。

Commented by じじい at 2014-05-07 10:24 x
ブログの文・コメント同じ意見の方がいて安心しました 私は大きな度量を持った旦那が出て来るこの噺が大好きなのです 志の輔がどう演じて呉れるのか楽しみに観たのですが落胆しました 矢張り志ん朝がいいです 志の輔の 中村仲蔵はすごく良かった記憶が在るので残念です

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-05-07 12:59 x
お立寄りいただき、コメントを頂戴し、誠にありがとうございます。
おっしゃる通り、『百年目』で、主人が番頭に頭を下げるという演出では、あの噺の肝腎な土台の部分がなくなってしまうと思います。

たしかに『中村仲蔵』は悪くなかったですね。『歓喜の歌』も結構でした。

しかし、今年のパルコは途中で見るのを止めました。何もゆるキャラを出さなくても・・・という思いです。
来年で十年ですか。そろそろ潮時ではないでしょうか。

名前
URL
画像認証
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by kogotokoubei | 2013-05-06 20:37 | テレビの落語 | Comments(6)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛