池袋演芸場 三月上席 昼の部 3月2日
2013年 03月 03日
しかし、結論から言うと、あの寿輔の名演を聴いた私を含む客は幸せだった。
演者とネタと持ち時間、そして感想を記す。
開口一番 古今亭今いち『旅行日記』 (16分)*12:16~
もちろん、初。当代今輔の弟子らしい。これで、芸術協会で「古今亭」を名乗る噺家が(今のところ)三人になったということだ。初代林家正楽が五代目古今亭今輔のために作った作品で、落語協会では喜多八が演じるのでご存知の方もいらっしゃるだろう。旅人二人が鄙びた旅館に泊まっての逸話。ネタ選びだけは褒めてもいいだろうが、あれだけ噛みまくっては眠りも妨げる。名前の通り“今いち”である。精進してもらおう。
笑福亭和光『見世物小屋』 (22分)
初である。本来は小痴楽だが、昼と夜で出番が替わった。鶴光の弟子。東京落語では『蝦蟇の油』のマクラで語られるような“見世物小屋”(上方では“もぎどり”)のネタ。う~ん、どう言えばいいのだろうか、着物のセンスや着こなしを含め、私には合わない。ゴメンナサイ。数年後に見直させてもらいましょう。
北見翼 奇術 (14分)
いつものように「般若」の面で登場。いわゆる昔ながらの「手妻」の伝統を継承する若手。今日は、少し細かなミスが目立ったなぁ。
古今亭今輔『札-1グランプリ』 (14分)
寿輔の弟子が、寿輔の大師匠の名を継いだ。この人の新作は好きだ。一時、百栄、兼好との三人で「百兼今」という会があったのだが、その時からこの人の高座は光っていた。
2009年7月3日のブログ
財務省が、次の紙幣(お札)に印刷する有名人を決めるためにオーディションをする、という内容。いわゆる“歴女”に任せたら一万円は直江兼続、五千円は真田幸村、千円は伊達政宗になり、ドラマで演じたイケメン俳優を起用しろ、ということになるから、オーディションを行おうということになる。さて一人目が太宰治、二人目は坂本龍馬、そして三番は織田信長。ということで、どうなるかという結果は伏せるが、ところどころにこの人ならではのウィットが効いて楽しい高座だった。
桂小文治『手紙無筆』 (13分)
十一代目文治の兄弟子。地味だが、私はこの人の端正な高座が好きだ。寄席にはこういう人が大事。
桧山うめ吉 俗曲 (13分)
端唄「芝で生まれて」の後「品川甚句」「雪のだるま」そして小唄「頻く会うのは」を披露して、踊りは「京の四季」から「春」と「夏」。しっかり、高座に艶を加えてくれた。
三遊亭円遊『?』 (コメントをいただき『にせ金』と判明)(20分)
生の高座は初だが、丸い目がねこの人の姿は「底抜け脱線ゲーム」で馴染み深い。(古い^^)兄弟子の小円遊の逸話から、本編へ。帰宅してから調べても、ネタが分からない・・・・・・。
隠居の旦那が、旦那衆との一興で「珍品」を持って集まろうとなり、旦那は出入りの骨董品屋のだるま屋の金兵衛に「お前の金の玉袋が大きいと聞いた。どうだ、十両で譲れ」という、言わば下ネタ。
三遊亭遊三『時そば』 (20分)
仲入り前は、橘ノ円に替わって遊三。マクラで何を話すか探っていたような気がしたが、このネタ。真似をして失敗する男が、麺を見て「太いねぇ、マカロニじゃねぇのか」という、新しいようで古いクスグリが、妙に可笑しかった。
新山真理 漫談 (15分)
仲入り後、東京丸・京平の代演は、この人。以前は絵理・真理で漫才をやっていたのをテレビで観たなぁ。座布団に座っての漫談。三味線を持たせれば、芸協の小円歌、という感じの高齢者の集う楽屋のネタ中心。
三笑亭夢花『長屋の花見』 (19分)
三遊亭右左喜の代演は、結果として師匠夢丸の前座役となった総領弟子のこの人。時節柄、そろそろというネタを楽しく聴かせてくれた。
三笑亭夢丸『短命』 (24分)
テレビで馴染みのある人だが、久し振りだ。生の高座は初である。マクラで本人が語るように、団十郎より本人の方が年上でガンの手術をして、僥倖で高座に出ることができる、とのこと。しかし、手術の影響もあり、声が十分に出ない。少し空気が漏れる、そんな感じなのだが、高座にかける意気込みは十分に伝わった。
弟子の夢花が主任を務める寄席でスケに出たい、という言葉、楽屋で夢花はどんな思いで聴いていただろうか。
鏡味健二郎 太神楽 (8分)
最初から、何とも危ない感じがあったが、やはり、傘の芸で落した・・・・・・。昭和10年生まれの78歳。この人が五代目古今亭今輔の次男である、ということを知っている人は少なかろう。
古今亭寿輔『ラーメン屋』 (33分)*~16:18
この日は、開口一番から膝代わりまで含めて五代目古今亭今輔に因んだ日だったように思うが、そのトリで、このネタだった。
寿輔の大師匠が五代目今輔である。系図風に描くと、こうなる
五代目古今亭今輔<-柳家金語楼(筆名有崎勉。今輔に多くの新作を提供)
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三代目三遊亭円右 *あの「エメロンシャンプー」のCMのおじさんですよ!
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四代目古今亭寿輔
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六代目古今亭今輔
開口一番の今いちから、五代目今輔の『旅行日記』であった。
そして、いつものテトロン100%の黄色い高座着で登場した寿輔が、一列目の常連さん(女性二人)と掛け合いながら、「今日は、笑いの少ないネタでいきます」とふって、大師匠から伝わる十八番へ。
柳家金語楼が書きおろし、古今亭今輔によって演じられた戦後の新作落語である。結論から言うと、寿輔のこの高座に出会えた私を含む五十人ほどの池袋の客は、幸せだった。
(1)老夫婦のラーメン屋台に、深夜一時頃、一人の若者がやって来た。
(2)昼メシを食べそびれたらしく、勧められるままに三杯のラーメンをたいらげる。
(3)食べ終わった若者(後で“のぼる”と名が判明)が老夫婦に、「実は一文なしです。
交番に突き出してください。そうすれば、明日のメシにありつけます。」と告白。
(4)ラーメン屋の主人、「分かった。その前に屋台を家に引き上げる。」
ということで、女房も主人が引く屋台を押しながら「重い、重い」と言う
姿に、「私が引きましょう」と手を貸す、のぼる。結果として、若者に
屋台を家まで引いてもらった。
(5)「せっかくだから、お茶でも」と誘われた、のぼる。「私は交番に」と
言うのを、「交番とコンビニは一晩中開いている」は、少し今風のクスグリ
で結構。女房が「どんなこともタダではお願いできませんね。屋台を引いて
いただいた代金でラーメン代は差し引きなし、でしょう」と言う。
(6)主人は若者と酒を飲み始める。少しづつお互いの身の上話が進む。
小さい時に孤児になり、なかなか真っ当な仕事につけなかった、のぼる。
子宝に恵まれない老夫婦。少しづつ、老夫婦にとって、のぼるが自分の
子供だったら、という思いが募る。
(7)主人が「今日は遅いから、泊まっていきなさい」と言うが、「見ず知らず
のこんな私を泊めたら、強盗するかもしれませんよ」と答える。しかし、
「おい、今日の売上げを箪笥の上に置いておきなさい」と返すラーメン屋の
主人。
(8)酒のせいもあり、主人が「子供に恵まれず、一度も『お父っあん』と
言われたことが ない。どうか、『お父っあん』と言ってもらえないか」と
言うと、女房が、「それだって、タダではダメですよ」と言い、千円、
二千円と老夫婦が順に、のぼるとの“親子ごっこ”の掛け合いが続く。
(9)のぼる、「お金なんかいりません」と目の前の金を返す。
“親子ごっこ”が、本物の親子の情愛の通う会話となっての、サゲ。
とにかく、寿輔の演じるラーメン屋の老夫婦、そしてのぼるとの会話が秀逸。最初の“親子ごっこ”“家族ごっこ”の会話が、子供のいない老夫婦と孤児だったのぼるとの間に、次第に「こんな子供がいたら」「こんな両親がいたなら」と思いが深まっていき、新たな親子の誕生場面を描く、素晴らしい高座だった。定席では珍しいが、今年のマイベスト十席の候補としたい。
開口一番の今いちは、寿輔の孫弟子にあたる。噛みまくっていたが、それはしょうがないだろう。、ネタが五代目今輔の十八番の一つ『旅行日記』だったから、途中の当代今輔の新作を経て、トリの『ラーメン屋』まで芸協らしい新作でつながった席だった。
客は少なかったが、新作の芸協の力を感じた。実力者である寿輔が主任の席、もっと人が入っていいように思うが、人は見た目で判断するのかなぁ。
さて、実は昨日のうちに書くつもりだったのだが、WBCの日本対ブラジルを観ていて、つい翌日に延びてしまい、今は日本と中国の対戦中。
もし、落語協会と芸術協会で「WRC」(ワールド・ラクゴ・クラシック)で戦ったら、果たしてどんな展開になるだろうか。私は、昨日の池袋を聴いて、結構いい勝負になるように思った。寿輔と戦える噺家が落語協会(新山真理に言わせると“ラッキョウ”)にいるように思えない。十番勝負とするなら、寿輔が不戦勝で一つは白星を稼げるだろう^^
鈴本と袂を分かったことも影響しているのでしょう。
その結果として白酒、三三、一之輔に対抗しうる若手が育っていない。
芸協が巻き返すには未だ暫く時間が掛かるのでは。
若手に関しては二ツ目が落協よりも粒が揃っていて良いので将来は明るいと思います。
圓遊師匠のネタは、おそらく「にせ金」だと思います。青蛙房の圓生全集別巻上に出ています。二代目小圓朝、二代目小さん、三代目圓馬師らが演じたようです。
「ラーメン屋」のにわか息子の名前、五代目今輔師は“やすお”でしたね。
しかし、宮治を筆頭とする若手の台頭には期待できますし、新作への、良い意味でのこだわりという点では、落語協会と差別化を図ることのできる持ち味があろうかと思います。
今後は、本寸法の古典で勝負のできる若手が育つことも期待したい。
ただ、土曜の客席を振り返ると、もっと観客を動員する工夫、努力は必要でしょう。
土曜の池袋で七割位の入りは、最低欲しいものです。
寿輔でも、ありそうなことですね。筋金入りの芸人としての哲学なのかもしれません。
ご指摘の通り、見た目で判断できない語り口の良さ、私も好きです。
小柳枝と寿輔との酒席、私も近くで聞きたかったなぁ^^
芸協の若手で本寸法というと、確かに少ないですが、一人挙げるとすれば二ツ目の桂夏丸さんです。「表札」「課長の犬」等の芸協新作を継承するだけでなく、「江島屋怪談」「もう半分」等の怪談噺も手がけるじっくり聴かせるタイプの落語家さんです。
"ラーメン屋"は雲助師匠が現代から江戸に舞台を移して"夜鷹そばや"とう題で噺をされているのを聞きました。
"ラーメン屋"を聞いたことがなかったので古典落語だと思っていたら、後で新作であることを知り驚いたことがあります。
特にお婆さんのキャラクターが好きです。
あまり聞く機会が無いので残念です。
都合が悪くてハシゴはできませんでしたが、池袋へ行けないのが悔しかったことを思い出します。
夏丸、覚えておきます。
実は、雲助の『夜鷹そば屋』は、未見なのです。
寿輔とは、一味違った老夫婦が登場するのでしょうね。いつの日か聴きたいものです。
寿輔、今年は少し追っかけようかと思わせる内容でした。
テトロンを馬鹿にしちゃいけない^^