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三遊亭兼好 横浜ひとり会 横浜にぎわい座・のげシャーレ 11月28日

九月の睦会以来の横浜にぎわい座。“地下秘密倶楽部”のげシャーレは、七月のこの会以来である。パイプ椅子と階段状の席は最大で141席らしいが、相変わらずの満員。会場前のショーケースのポスターには「完売御礼」と貼ってあった。

次のような構成だった。
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三遊亭兼好   『磯の鮑』
三遊亭こうもり 『元犬』
三遊亭兼好   『夢金』
(仲入り)
三遊亭兼好   『宿屋の富』
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三遊亭兼好『磯の鮑』 (19:00-19:32)
 時事ネタのマクラで選挙や政治のことで幕開け。政治家がいろいろ言っているけど、信じたら裏切られてばかりで、「はじめから信じず聞かないで、落語聴いて笑っているほうがいいでしょう!」と、小咄をいくつか続ける。
・「与太、店賃どんだけためてる」「いや、まだもらったことがねぇ」
・「権助、提灯に灯を入れろ」「その必要はねえだ、夜があけた」
などで、会場を沸かせる。こういった小ネタが、この人は余程好きなのだろう。基本は、とことん“滑稽噺”の人なのだ。
 政治家の中の落語好きということで、二人の元首相を挙げる。Mさんは末広亭で高座に上がったことがあるらしい。HさんはSPに囲まれて鈴本で寄席を楽しんだようだ。どちらも「引退」して、落語家のネタがなくなって寂しい、という兼好の言葉に会場が沸いた。
 また、最近、念願(?)の名古屋城を見ることができた、ということで、名古屋城の最寄駅が、なぜ「市役所前」なのか、というネタが続く。城好きだったとは知らなかった。兼好は昇太と城の噺で盛り上がることもあるのだろうか。七月の会で昇太の弟子が出たのは、“城友達”だからか・・・・・・。

 これらの十五分近いマクラの後の本編は短いながら、この人の真骨頂といえる滑稽噺。一昨年2月13日、前夜降った雪が道端に残る中、自宅近くの「ざま昼席寄席」の鯉昇との二人会で聴いて以来。2010年2月13日のブログ
 その時は、大師匠彦六-師匠好楽と受け継がれてきた噺なのだろう、としか書かなかったので、少し筋書きを書くことにする。小満んや小里んも高座にかけるようだが、私は兼好でしか聴いたことのない珍しい噺。
・源兵衛と太助が話している。吉原で花魁から他の客が忘れて行った煙草入れをもらった
 とか、 それぞれが自慢話を競うように、吉原で“儲かる”話をしている。
・それを聞いていた与太郎。(ざま昼席で最初に聴いた時は、甚兵衛さんだったはず)
 「吉原ってのは、そんなに儲かるところなのか?」と二人に聞く。
 源兵衛と太助、与太郎をからかってやろうと、
 「そうだ、吉原ってのは儲かるところだ。それをよく知っているのが蔵前のご隠居。
 隠居に教わってこい。」と言う。断られても家に上り込んで山盛りのご飯を出して
 「飢え死にはしねぇ、聞くまで帰らねぇ」と言って聞いてこい、 とそそのかす。
・二人の話を真に受けた与太郎。ご飯を炊いて持参し隠居宅へ。二人から与太郎が
 預かった手紙には、「どうか、こついをからかってやってください」とある。
 与太郎が「吉原で儲かる法を教えろ」と大きな声で叫ぶものだから、玄関には人が
 行列をつくる。
 隠居が困った顔で言う「並ばないでください」が笑える。
・隠居も、まんざら吉原を知らないわけでもなく、与太郎が可哀そうになったの
 だろう、「儲けるということではないが、安く気持ちよく遊ぶ法、もてる法はある」
 と手ほどき。
 その中に、「三年も花魁のことを思っていた・・・磯の鮑の片思い」という文句で
 花魁の気を惹け、 と教わるが、この言葉を言い間違えるところが、ミソ。
・与太郎が隠居に教わった文句を、おもしろ可笑しく間違えるので会場も大爆笑。
 吉原の若い衆やオバサンを煙に巻く与太郎は、花魁に決め科白の「磯の鮑」を間違えて
 「伊豆のわさび」と言って、サゲにつながる。

 吉原を舞台にした鸚鵡返しのネタなのだが、こういう噺、この人は本当にうまい。若い衆に向かって与太郎が指をさして「牛!」と言ったり、同様にオバサンに「おまえがオバサンか!」とやる場面などで会場が沸く。珍しいネタを自分のものとして爆笑の渦をつくる高座、今年のマイベスト十席の候補としたい。

三遊亭こうもり『元犬』 (19:33-19:46)
 初見。昨年八月に好楽に入門した兼好の弟弟子らしい。この後の兼好の高座で、以前はピンのお笑い芸人だったとのことだが、見たことはない。顔の表情を売りにしたいのだろうが、まず基本の語り口をしっかりする必要があるだろう。

三遊亭兼好『夢金』 (19:47-20:18)
 出身の会津のこと、そして雪のことから、年末ジャンボの話題にふれた短いマクラから、この人では初めて聴く旬の人情噺へ。
 滑稽噺大好き派として、どうしても当たり前の人情噺にしたくないのだろう。笑いのためと思われる次のようなクスグリを入れる。
・船宿の主人が侍と若い娘を家の中へ入れて、笑いながら侍に聞く、
 「泥棒さんじゃないですよね」の一言。
・船宿の主人が侍に「船はあっても、船頭がいませんもので」と言うと、
 侍が「二階に居候している若旦那はいないのか?」「それは、別の噺でして」

 サゲはこの人自身の工夫なのかどうか分からないが、権太楼の『天狗裁き』的なループに行きかけてから、落とす。
 主人公熊の、櫓を漕ぎながらの独り言場面などはなかなか結構なので、あえて滑稽噺風な演出をする必要はないと思うのだが・・・・・・。
 照れなのか、あるいは自分に似合った噺としての譲れない演出なのか。
 このネタをかけてくれたことは嬉しいし、ところどころで見応えもある高座は、まだ、磨いている途上と察する。

三遊亭兼好『宿屋の富』 (20:28-21:04)
 この会は来年も開催されるらしい。「しかし、もうネタがつきつつあって、途中でつっかえる新しいネタや、どうしても暗い、つまらない噺をしなくてはならないかもしれません。ご容赦のほどを」と言うあたりに、この人のネタの好みがあらためて反映されていた。とにかく、滑稽ネタ、ゲラゲラ笑える落し噺が大好きなのだ。
 二分ほどの短いマクラからの本編は、“二番富に当たるはずの男”が良かった。夢枕に現れた天神様(菅原道真で“みっちゃん”)が、一番富を当てさせるという約束を反故にすると言うので襟首をつかんで怒ったら、二番富が当たることになったとはしゃぐ。当ったら吉原の花魁を身請けして、という妄想は志ん朝の名調子を思い出すが、もっと軽いノリで「湯から帰ったら、刺身があって天麩羅があって鰻がある・・・お前も一杯やれ・・・いや~ん、酔っちゃった、さぁ寝ましょう」を二回半。この場面は、この噺ではずせない^^
 全体的に悪い高座ではないが、一席目の大爆笑ネタと比べると、おとなしかった印象。 


 終演後は、いつものように自ら客を見送る。「あ~っ、どうも」「いつもお世話になります」など兼好の声を後ろに聞きながら階段を上がって外へ。一服しながらポスターを見ると、12月3日の歌丸・円楽ふたり会が完売らしい。鯉昇・文治ふたり会も同じ週、6日の夜だがチケットは残っているようだ。どちらも都合が合わないのでいけないが、いや、前者は都合が良くても行かないなぁ・・・などと思いながら桜木町の駅に向かった。

 帰宅の道すがら空を見上げると、旧暦10月15日の満月が、雲一つない空に輝いている。近くにはオリオン座の星たちも瞬いている。こんな夜は月見酒、とばかりに飲んでいるうちに、つい日付変更線を越えていた。まぁ明日があるさ、と落語会の内容を書くのは断念したが、ニュースを見ていて、つい別なネタでブログを書き始めていた。
 兼好が一席目のマクラで言っていたように、裏切られっぱなしの政治のことなど忘れて、与太郎さんや熊さんや二番富の男のような落語の世界の住人の心境になるには、まだまだ修行が足らないようだ。
Commented by hajime at 2012-11-29 20:02 x
いつの間にか「宿屋の富」が演じられる季節になっているのですね。
一年は早いですね。しかも段々早くなりますね(^^)

「宿屋の富」と言うと志ん生師の歴史的名演がありますので、新しい工夫は難しいですね。
息子の志ん朝師でさえそのまま演じましたね。もちろん抜群の出来でしたが・・・
兼好さんにはこれからも期待してしまいますね。(^^)

Commented by 小言幸兵衛 at 2012-11-29 20:56 x
このネタも上方ネタ(『高津の富』)を三代目小さんが移植した中の一つですね。
兼好も一番富は志ん朝と同じ「子の千三百六十五番」でした^^
そろそろ『富久』も多くかかる季節ですね。

兼好は、三代目柳好の路線を目指しているのかもしれません。
まだ『野ざらし』も『蝦蟇の油』も聴いたことはありませんが、そのうち聴いてみたいと思います。

Commented by ほめ・く at 2012-12-02 11:57 x
兼好は「夢金」のようなネタを余計なクスグリ抜きで演れたら、もうワンステップ上がれると思います。
その力は十分ありますし。
3月には一之輔が上のホールに上がるようですし、兼好も負けずに頑張って欲しいです。

Commented by 小言幸兵衛 at 2012-12-02 19:38 x
おっしゃる通りかと思います。
人情噺をやることへの“照れ”が、今はどうしても見受けられます。
滑稽噺も人情噺もこなす力量があると思うだけに、もどかしい。
三三あたりをライバル視して欲しいのですが、本人はそんな気はないのでしょうねぇ。

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by kogotokoubei | 2012-11-29 06:25 | 落語会 | Trackback | Comments(4)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛