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北沢落語名人会 春風亭一朝・一之輔親子会 北沢タウンホール 6月1日

五十日間にわたる一人真打昇進披露興行が終って最初の親子会のようだったので、楽しみにしていた。この会場、この落語会は初めて。めったに来ない街。約300席の会場。当日券も少しあったようだが、開演前にはほぼ満席だったように思う。高座との距離感、階段上の座席からの視界などがほどよく、座席もまぁまぁの広さで、なかなか結構な会場だと思う。

林家しん平がプロデュースする落語会で、今回で14回目らしい。次のような構成だった。
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(開口一番 柳亭市也『金明竹』)
林家しん平 ご挨拶
春風亭一之輔 『普段の袴』
春風亭一朝  『片棒』
(仲入り)
春風亭一朝  『天災』
春風亭一之輔 『粗忽の釘』
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柳亭市也『金明竹』 (19:00-19:11)
 この人の開口一番に出会うことが多い。また辛口になるが、やはり滑舌が悪い。それと、言い立て部分の後半はやや息が切れ掛かって科白がよく聞き取れないところがある。会場はネタの可笑しさで笑ってくれるお客さんも多く助けられていたが、私個人は、開口一番を朝呂久とし、一朝一門で揃えて欲しかった。

林家しん平 ご挨拶 (19:12-19:24)
 ブログでダイエットのため自転車に乗ったり長時間歩いたりしているのは知っていたが、さっそくそのことから。「色が黒いでしょう」と歩いて日焼けした話。Tシャツ5枚っていうのは、本当か・・・・・・。ダイエットに苦労する女性の心境がわかる、で会場も沸く。
 この人らしい軽妙な語り口で一之輔の「落語物語」出演の逸話などを披露。7月からテレビで落語のアニメが始まり監修をしていることに加え、来年も映画が撮れそうだと言っていたが、「落語物語パートⅡ」なら、期待したい。

春風亭一之輔『普段の袴』 (19:25-19:52)
 披露興行、“50日間の修業”が終って、師匠も自分も今では“35%”位の状態とのこと。まぁ、実感かも知れない。下北沢という若者の街へのこの人らしいコメントに頷く。客の平均年齢21歳くらいのマクドナルドで皆がスマホをいじっているのを外から見ると、とても入れないが、その先のファーストキッチンなら入れそう、とか、スーパーおおぜきを見て、下北沢にも生活があるのかとホッとする、といった話を聞くと三十代前半にして三人の子供のいる父親としての、やや早い意識の老成を感じないこともない。しかし、寄席が好きで大学卒業後に入門した、ところから、こういった感性はあったのだろう。そして、それは良い方向に働いているのは間違いなかろう。
 10分のマクラのあとの本篇は、披露興行ではかけられなかったネタ。同期間で出演した他の定席や落語会ではかけていたと思うが、軽い噺なのでトリに適するとは言えないから披露興行で出されなかったのも然り。
 寄席でよく聞くネタだが、この人らしい楽しさが随所にあって結構だった。八五郎が、道具屋で恰好の良い侍の仕草を真似て失敗する筋だが、大家に袴を借りて道具屋にやってきてしばらくして、「ご挨拶が遅れましたが、侍です!」というあたりの科白が、なんとも可笑しかった。寄席でまた聞きたいと思う。

春風亭一朝『片棒』 (19:53-20:18)
 師匠柳朝との親子会の思い出などのマクラから、この人らしい噺へ。別名「あかにしや」。ケチな商家の父親が、三人の倅の誰に後を継がせるかを、番頭の入れ知恵で、自分が死んだらどんな葬式をあげるかで決めようとする。長男(一朝の場合は金太郎)、次男(銀次郎)、三男(鉄三郎)の中で、この噺のヤマはどうしたって次男。江戸の風が満載の部分だ。
 いつもお世話になる河合昌次さんの「落語の舞台を歩く」では雷門助六(もちろん先代)のこの噺が紹介されている。ほぼ一朝も同じなので、一部を引用したい。落語の舞台を歩く「片棒」
「お祭りの太鼓を先頭に、東京中の組頭、鳶を集めて木遣りを歌いながら進み、それで新橋、柳橋、芳町、赤坂の芸者を総動員して、手古舞が続きます。その後に山車 (だし)が続きます。山車の上にはお父様にそっくりな人形がソロバン片手に立っています。神田囃子がはやしながら、それに併せて人形が動きます。」
 特に神田囃子の実演(?)部分は、一朝ご本人が笛の名手なので絶妙。まさに、ニンな噺。ちなみに「神田囃子」がどんなものか興味のある方は、保存会による演奏を下記のサイトで聞くことができる。
KANDABAYASHIのサイト

春風亭一朝『天災』 (20:32-20:57)
 大師匠八代目正蔵、師匠柳朝から継承されるネタ。誠に結構だった。八五郎の江戸っ子の啖呵が何ともリズミカルで心地よいことか。師匠柳朝の音源では「江戸っ子で職人で気が短いんでぃ」の科白を、ややくどい位に繰り返すので少し耳に残るのだが、一朝は程よい加減で、しかも効果的だ。細かい科白などは省くが、紅羅坊名丸と八五郎との掛け合いが、とにかく楽しい。それがこの噺のヤマであり、それこそ一門のネタとしての魅せ場である。
 東京落語の名作の多くがその源を上方に辿ることができるのだが、この噺は東京の代表的なネタと言ってよいだろう。加えて、この一門のこのネタのルーツを思うと、ちょっとしたノスタルジーに浸る。矢野誠一さんの『落語手帖』のこの噺の「芸談」から紹介。
いつか東宝名人会で、徳川夢声さんが十日間私のはなしを聞いて、『天災』が一番いいねッていうんです。三代目小さんから教わったというと「そうだろう、やっぱり出どころのいいはなしはちがうね」といってました。林家正蔵(彦六)

 この「出どころのいい」噺の結構な高座、今年のマイベスト十席候補としたい。

春風亭一之輔『粗忽の釘』 (20:58-21:30)
 披露興行の鈴本の初日、池袋の千秋楽、そして国立の千秋楽では家族の前で披露したネタ。たぶん、本人が今一番好きな噺なのだろう。体にしっかり入っているから、どこの落語会でも引き出しからすぐ出せるということかもしれない。八五郎が「落ち着く」ために隣家を訪ね煙草を飲みながら、女房との馴れ初め、新婚当初の行水で「フェーフェー」言いながらの色っぽい体の洗いっこ、そして盥の底が抜けての「土星踊り」。これら一連の畳みかけで、もちろん、会場は大爆笑。実は、私がクスッと笑うのは、その思い出を語った後での程よい間のあと、「あれから七年・・・・・」の一言。このへんが、やはり上手い。このネタ、間違いなく進化していると思う。


 しん平の「ご挨拶」も楽しかったし、師匠も弟子も大変結構。長い披露興行明け、一之輔の高座に一回り大きい姿を見る思いもした。そして、何より一朝の二席には、「これぞ東京落語!」という思いで聞き惚れていた。二席ともマイベスト十席候補としようかとも思ったが、ぐっと堪えて一席に絞った。この師弟、今時なかなか見られない、いい感じなのだ。
Commented by mama at 2012-06-02 16:22 x
私も何度か参りました。しん平さんのお喋りも軽妙だし、座席はどこに座ってもよく見えるし・・・もちょっと揺れないといいのですが(^^;) 落語会の前後、下北沢をぶらぶらするのも楽しいですね。
一朝師匠の「片棒」ですか。いいなあ、大好きです。今は一之輔よりも一朝師匠がお目当てですが、この師匠の柔らかい人柄、芸風、音曲噺・・しっかり盗んで欲しいなあ。

Commented by 小言幸兵衛 at 2012-06-02 19:07 x
下北沢散歩をする時間的な余裕はなかったのですが、タウンホールのまん前にある古本屋さんで、ちょっとした掘り出し物を見つけました^^

小朝は定席にほとんど出ないし、独演会は客に迎合するネタが多いように思います。勢朝は漫談が主体。正朝は、まだあの件を引きずっている。
そんな中で、師匠柳朝、そして大師匠正蔵の流れをしっかり受け継いでくれているのが一朝ではないかと思っています。
そのDNAがより一層深く一之輔に伝わると、一之輔は今後どうなるのか、それが楽しみですね。

Commented by hajime at 2012-06-02 20:32 x
一朝師の「片棒」は、良いですね(^^)
以前、小袁治師が地元で無料で開いてる落語会で、一朝師のこの演目を特等席で見ました。
その時の出来は仲間の小袁治師を言わしめて「近年に無い最高の出来!」と言うものでした。
この落語会は、その昔、師が二つ目じぶんだった頃に同期の仲間が「話す場所がない」と言う声を受けて、小袁治師が地元の後援者に相談してできた会です。
他には小金馬、八朝、歌司、志ん五と言うメンバーでした。
最近は回数が少なくなりましたが、以前は隔月で開いていました。
志ん五師の凄みのある芸(調子が良い時)も懐かしいです。

関係ない事、長々と書いてすいません。

その特別の一席が未だに頭から離れないのです(^^)

Commented by 小言幸兵衛 at 2012-06-02 20:58 x
そうですか。
そういう“一席”は、自分にとって大事な「宝」なのでしょうね。

あえて私が今年のマイベスト十席に『片棒』ではなく『天災』を選んだのは、私なりの理屈があります。
一朝にとっての『片棒』は、今の一之輔にとっての『粗忽の釘』に近い、手の内のネタのような思いがあるのです。しかし、『天災』は、このネタをかけるということ自体が、師匠、大師匠の顔が浮かぶ圧力の中での高座になると思うわけです。
そのプレッシャーを感じながらのこの高座か、ということで私は評価した次第です。
ブログの補足になってしまったようで、失礼しました。

Commented by 佐平次 at 2012-06-03 10:37 x
昨夜は一人で飯を食おうとあちこち歩きましたが土曜日のこのあたりはどこも家族連ればかり、爺の一人は気おくれして、、。下北の方がよかったかも^^。

Commented by 小言幸兵衛 at 2012-06-03 16:18 x
金曜の下北沢は、一人居残りもせず、まっすぐ帰りました。
いろいろお店があるのでしょうが、そのうちご教授ください!

Commented by 創塁パパ at 2012-06-10 08:11 x
いいですね。親子会。そしてしん平は志ん五をしたっていました。結構いいやつです(笑)

Commented by 小言幸兵衛 at 2012-06-10 15:29 x
しん平はほど同年代。映画もなかなか良かったし、ブログへのコメントにもしっかり返事を書いてくれています。
なかなか、いい奴です^^

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by kogotokoubei | 2012-06-01 23:36 | 落語会 | Trackback | Comments(8)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛