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「忖度する人たち」—内田樹の研究室より

ブログ「内田樹の研究室」に5月9日付けで掲載された内容を紹介したい。内田樹の研究室

 インタビューを受けて、沖縄米軍基地、原発と原子力行政、日本のこれからの安全保障と外交戦略について話すことになったらしい。

 少し前にカレル・ヴァン・ウォルフレンの本から、小沢一郎は『画策者なき陰謀』によって“人物破壊”の対象となった、というウォルフレンの主張を紹介した2012年4月27日のブログが、その『画策者なき陰謀』を実行する人を、内田は「忖度する人」たちと表現している。

田中角栄はたぶん「アメリカの虎の尾」を踏んだ最後の日本人政治家だと思う。
彼を「罰する」ことはアメリカの国家意思として遂行された。
それ以後、「アメリカの虎の尾」を思い切り踏んだ政治家はいない。
小泉純一郎は無意識のうちに「虎の尾」踏んだと私は思っているが、踏んだ本人も踏まれたブッシュもそうは思っていないはずである。
そして、久しぶりに、小沢一郎と鳩山由紀夫は西太平洋戦略をめぐって「アメリカの虎の尾」を踏んだ。
だが、彼らを「罰した」のはアメリカ人ではなかった。
「アメリカ政府の意思を忖度した日本人」たちである。
「日米同盟基軸」という「呪文」を唱えているうちに「アメリカの国益を最大化することが、日本の国益を守る最良の方法である」という不思議な信憑に陥った人々がいる。
彼らが現代日本におけるエリート層を形成している。
そして、「アメリカ政府を怒らせそうなことをする人々」を血眼になって探し出し、「畏れながら」とお縄にして、うれしげに「忠義面」をしてみせるんである。
何で、そんなことをするのか、私にはよくわからない。
アメリカだってそんなこと、別に頼んでいないのである。
日本の総理大臣が「日米間の国益が背馳する事案」について「日本の国益を優先したい」と言ったからといって「罷免しろ」というような無法なことを、いくら世界の冠絶するスーパーパワーであったにせよ、アメリカが言うわけがない。
内政干渉である。
でも、「鳩山がアメリカが機嫌を損なった以上、ホワイトハウスはきっと総理大臣を替えて欲しいと思っているに違いない」と「忖度」して、引きずりおろしたのは日本の政治家と官僚とメディアである。
これは内政干渉ではない。
アメリカとしては、なんか「苦笑い」状態であろう。
何も言わないのに、勝手に「忖度」して、先様の意向をじゃんじゃん実現してくれるのである。
いや~、なんか悪いね。別に頼んでいるわけじゃないのに、勝手にこちらに都合のいいようにあれこれと配慮してくれて。
まあ、頼んでいるわけじゃないから、お礼するという筋でもないけどね。
そんなふうにしてことが進んでいる。
ように見える。
「忖度する人」にはわかりやすい外形的な特徴がある。
それは「首尾一貫性がない」ということである。
アメリカの国家意思は首尾一貫している。
それはアメリカの国益の最大化である。
でも、「忖度する人」たちは「こんなことをしたら、アメリカが喜ぶかも知れない」と思って、走り回っているので、その動線には法則性がない。



 「忖度する人」たちの多くは、もちろん霞が関の住人である。そして、永田町にも、その官僚たちの思うがままに、首尾一貫性のないままに振る舞う者がいる。加えて、「忖度する人」に協力すると利益があるとでも思い込んで、官僚たちの心理を「忖度」するマスコミ人がいる。

 彼らの考える「アメリカ」は、大震災やフクシマの被災地の人々、そして基地のある沖縄の人々たちの考える「アメリカ」像とは、相当の違いがあるようだ。

「オレが『アメリカ』だと思っているもの」
それが「忖度する人たち」にとっての「アメリカ」である。
アメリカが直接日本政府に「指示」を出しているなら、その指示は国家的にオーソライズされている。
だから、どの政策も首尾一貫している。
でも、「忖度する人たち」にとっての「アメリカの欲望と推定されているもの」は誰によってもオーソライズされていない。
「言挙げされていない」欲望に焦点化しているなのだから当然である。
「いや、殿、その先はおっしゃいますな。何、こちらはちゃんと飲み込んでおります。ま、どうぞここは、この三太夫にお任せください」的状況である。
このような「みなまで言わずと」的制止のあとに「殿の意思」として推定されるのは、多くの場合、「三太夫の抑圧された欲望」である。
三太夫は「私が殿の立場だったら、きっとこう考えるだろう」ということを推定する。
そして、「忖度する人」は相手の欲望を読み取っていると思っている当のそのときに自分の欲望を語ってしまうのである。
「せこい」やつがアメリカの意思を忖度すると、アメリカは「せこい国家意思」を持った国として観念される。
そういうものである。
彼らが「アメリカの国家意思だと思っているもの」は、それぞれの「忖度する人」ごとの「もし自分がアメリカ人だったら、へこへこへつらってくる属国民に向かって何を要求するか?」という自問への答えの部分なのである。
「忖度されたアメリカの意思」はこれらの人々の「卑しさ」をそのままに表示することになる。
ある人にとってアメリカは「日本を軍事的に支配し、いかなる自主的な外交戦略も国防構想も許さない」国として立ち現れる(それは彼らの先輩たちがかつてアジアの植民地を支配したときに「やろうとしたこと」である)。
ある人にとってアメリカは「日本の市場を食い荒らし、農業を潰し、林業を潰し、自動車産業を潰し、IT産業を潰し、その他なんでも潰したがっている資本家たちの集団」として立ち現れる(それと同じことを自分たちも弱小な国を相手にする機会があれば、ぜひやってみたいと思っているからである)。
だから、「忖度する人たち」にとってのアメリカは、彼らの歪んだ自画像なのである。
それが、傍から見ると支離滅裂に見えるのは当り前である。



 「忖度する人」たちは、まるでアメリカへの片思いをしている人のようでもある。では、そこまで思い込まれているアメリカの政治的な指導者たちは、たとえば小沢一郎のことをどう思っているのか。内田樹はこう書いている。

「小沢一郎の政治生命を断つ」というのは、別にアメリカが指示したことではない(と思う)。
私が国務省の小役人なら、「政治生命が絶たれた方が望ましいが、アメリカが間接的にではあれ介入するリスクに引き合うほどの政治的効果はない」とレポートするであろう。
たしかに、小沢一郎は在日米軍基地の縮減について語ったことがある。
だから、「アメリカ政府は西太平洋における軍略上のフリーハンドを確保するために、小沢一郎を邪魔に思っているのではないか」と「忖度」することは可能である。
現に、多くの人々がそう「忖度」した。
だから、それらの人々は、実際には相互に何の連携もないままに、まるで指揮者に従うオーケストラのように、整然と行動しているのである。
小沢一郎は野田首相にとっては党内反対派の最大勢力である。
自民党の谷垣総裁にとっては彼らを政権の座から叩き落とした不倶戴天の敵である。
検察にとってもマスメディアにとっても年来の天敵である。
彼らは「小沢一郎を排除することをアメリカは望んでいる」というかたちでおのれの欲望をアメリカに投影してみせた。
私はそう思っている。


 野田と谷垣は、小沢一郎に関しては「敵の敵は味方」として結託しようとしているのだろう。今回の控訴に、彼らがどう関わっているかは知らないが、裁判で税金の無駄遣いをしようとしている人々は、日本が直面している問題の優先順位をこそ考えるべきであろう。アメリカへの片思いからは何も生まれないことを、そろそろ分かるだけの大人になる時である。
Commented by 佐平次 at 2012-05-10 21:21 x
分かっていても腹が立ちますね。
国賊めらが!

Commented by 小言幸兵衛 at 2012-05-10 21:53 x
昨夜、かつて仕事でお世話になった方々と飲みましたが、その中のお一人は福島のご出身で、親御さんが地元の施設に入っており都内から毎週のように会いに行かれているのですが、地元の方々の不安と不満は強いものがあり、政府の無策に本当に怒っていました。
権力闘争にうつつを抜かしている時ではないはずです。

Commented by ほめ・く at 2012-05-12 08:51 x
実に的確な指摘です。
かつて岸信介というCIAの協力者だった人物が首相をしていた国ですから、その係累に連なる子分たちが各界にワンサといるわけです。
そういう連中が何かといえば「ワシントンのご威光」を振り廻し、結果としては国益を損ねていることに気付かない。
「病膏肓に入る」としか言い様がないです。

Commented by 小言幸兵衛 at 2012-05-13 18:18 x
日本がアメリカになびこうとしているうちに、中国と韓国は、アジアの将来像を展望して友好関係を強化しようとしています。
間違った“忖度”は、どんどん日本を三流の国にするだけでしょう。

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by kogotokoubei | 2012-05-10 18:38 | 幸兵衛の独り言 | Trackback | Comments(4)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛