噺の話

kogotokoub.exblog.jp

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。

菅野について、こんなことを考える。内田樹著『街場のメディア論』から。

東海大の菅野が、巨人行きたさに浪人を決めたような記事が出ている。。SANSPO.COMの該当記事

東海大・菅野、決断!日本ハム拒否

 プロ野球ドラフト会議で巨人との競合の末、日本ハムがドラフト1位で交渉権を獲得した東海大・菅野智之投手(22)が入団を拒否することが4日、決定的となった。祖父で東海大系列校野球部顧問の原貢氏(76)が、「ストーリーは決まっている。(菅野も)腹を決めた」と1年間“浪人”し、来年のドラフトで巨人の指名を待つことを明かした。


 日本ハムの挨拶がこれからあることだし、スポーツ紙のことなので確定ではないだろうが、菅野と家族の思いは浪人する方向に大きく傾いていることは間違いないのだろう。

 彼と彼の家族の行動から、内田樹のこの本のことを思い出した。
e0337777_11075880.jpg
 内田樹著『街場のメディア論』
 本書は「街場シリーズ」の第4冊目で、内田が勤める神戸女学院での講義を元に編集されたもの。だから、学生や院生を対象とする語り口になっている。大きなテーマは「メディア論」であり、メディアへの就職を希望する学生たちに今日の日本のメディアが抱える問題を明らかにするという内容なのだが、学生の“適性とは何か”“能力とは何か”という就職を考える上で重要な疑問への内田流の回答も盛り込まれている。
 
 第一講「キャリアは他人のためのもの」から引用したい。菅野がこの講義を聴いていたら、彼は果して同じ選択をしたのかどうか、という素朴な疑問があったからだ。
太字は、本書で傍点のある部分。

能力は開発するもの

 結婚は入れ歯と同じである、という話があります。これは歯科医の人に聞いた話ですけれど、世の中には「入れ歯が合う人」と「合わない人」がいる。合う人は作った入れ歯が一発で合う。合わない人はいくら作り直しても合わない。別に口蓋の形状に違いがあるからではないんです。マインドセットの問題なんです。
 自分のもともとの歯があったときの感覚が「自然」で、それと違うのは全部「不自然」だから厭だと思っている人と、歯が抜けちゃった以上、歯があったときのことは忘れて、とりあえずご飯を食べられれば、多少の違和感は許容範囲内、という人の違いです。自分の口に合うように入れ歯を作り替えようとする人間はたぶん永遠に「ジャストフィットする入れ歯」に会うことができないで、歯科医を転々とする。それに対して、「与えられた入れ歯」をとりあえずの与件として受け容れ、与えられた条件のもとで最高のパフォーマンスを発揮するように自分の口腔中の筋肉や関節の使い方を工夫する人は、そこそこの入れ歯を入れてもらったら、「ああ、これでいいです。あとは自分でなんとかしますから」ということになる。そして、ほんとうにそれでなんとかなっちゃうんです。
 このマインドセットは結婚でも、就職でも、どんな場合でも同じだと僕は思います。最高のパートナーを求めて終わりなき「愛の狩人」になる人と、天職を求めて「自分探しの旅人」になる人と、装着感ゼロの理想の入れ歯を求めて歯科医をさまよう人は、実は同類なんです。僕がこのキャリア教育科目でみなさんにぜひお伝えしたいのは、このことです。
 もう一度言いますね。与えられた条件のもとで最高のパフォーマンスを発揮するように、自分自身の潜在能力を選択的に開花させること。それがキャリア教育のめざす目標だと僕は考えてます。



 “自分探し”という言葉には以前から大いに嘘くさいものを感じてきた私は、内田樹の指摘には同感である。
 
 そして、苛烈な競争に子どもたちを叩き込めば能力は上がる、というこれまでの教育行政の問題を指摘しながら、この章の最後には、菅野に今からでも聞かせたいことが書かれている。「呼ばれる声を聴け」という見出しの部分である。

 繰り返し言うように、人間がその才能を爆発的に開花させるのは、「他人のため」に働くときだからです。人の役に立ちたいと願うときにこそ、人間の能力は伸びる。それが「自分のしたいこと」であるかどうか、自分の「適性」に合うかどうか、そんなことはどうだっていいんです。とにかく「これ、やってください」と懇願されて、他にやってくれそうな人がいないという状況で、「しかたがないなあ、私がやるしかないのか」という立場に立ち至ったときに、人間の能力は向上する。ピンポイントで、他ならぬ私が、余人を以ては代え難いものとして、召喚されたという事実が人間を覚醒に導くのです。
(中 略)
 「天職」というのは就職情報産業の作る適性検査で見つけるものではありません。他者に呼ばれることなんです。中教審が言うように「自己決定」するものではない。「他者に呼び寄せられること」なんです。自分が果たすべき仕事を見出すというのは本質的に受動的な経験なんです。そのことをどうぞまず最初にお覚え願いたいと思います。



 与えられた条件に逆らい、他人のためではなく、あくまで自分と一族のための選択をしようとしている、菅野君。君には、この内田教授の主張をじっくり読んで欲しいものだ。

 江川、元木に続く三人目とのことだが、伯父さんのいる“巨人に行きたい”という我がままで浪人をすることで、どれだけの人の手を煩わせるのか、君は考えるだけの想像力を持っているだろうか。抽選に勝っことを含め、日本ハムは君を「呼んでいる」のだ。
 そして、君と君の家族達のお陰で、ますます日本のプロ野球がファンを失うかもしれない、ということに気づいているだろうか。

 菅野、君はまだ若い。「与えられた条件のもとで頑張る」姿勢や、「他人のために」という気持ちになって、まだ考え直す時間はある。日本ハムに君が行くことで、どれだけ多くのファンが君を応援してくれることになるか。それは北海道のファンだけではないだろう。そして、その声援や拍手は、来年巨人に入って受けるものとは、本質的に違うものだということだけは、最後に言っておこう。
[PR]
Commented by 佐平次 at 2011-11-06 11:39 x
「召命」、ベルーフ、学生時代そう思って就職を決めました。
政治家や学者、エリート=ベルーフに身を委ねる人、たちがそういう意味でのエリート意識をすっかり知らなくなってしまった。
菅野君だけの問題ではないかもしれないですね。

Commented by 小言幸兵衛 at 2011-11-06 15:55 x
ご指摘の通りです。菅野君は、ある意味で格好の“ネタ”として使っていますが、問題はもっと深く広いと思います。
「自分」は探すのはなく、長い時間をかけて「自分になる」ものでしょう。
まず、与えられた仕事を精一杯やること、そんな基本を教えられない親が問題です。

名前
URL
画像認証
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by kogotokoubei | 2011-11-05 10:38 | 幸兵衛の独り言 | Comments(2)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛