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白酒ばなし 横浜にぎわい座 8月9日

地下の“のげシャーレ”で始まり、その後に芸能ホールに「昇格」した会に、久しぶりに来ることができた。今は、三遊亭兼好、春風亭一之輔が、白酒の後を追って昇格すべく地下で健闘している。先週金曜日の三三の記憶がまだ耳に残るにぎわい座へ今週もやって来たわけだ。一階はほぼ満席。ニ階にもチラホラお客さんがいた。

 構成と所要時間は次の通り。古今亭で固めた顔ぶれ。
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(開口一番 古今亭きょう介『たらちね』 (19:00-19:15)
桃月庵白酒  『井戸の茶碗』 (19:16-19:59)
(中入り)
古今亭駒次  『泣いた赤い電車』 (20:10-20:27)
桃月庵白酒  『千両みかん』   (20:28-21:03)
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古今亭きょう介『たらちね』
 初めてである。落語協会のホームページによると2009年11月に志ん橋に入門した前座さん。細身で、それほど顔色も良いようには見えず、言葉は悪いが健康そうには見えない。しかし、そもそも健康的な噺家という存在そのものが矛盾しているかもしれない(?)。前半はなんとかこなしていたが、八五郎の長屋に新婦(亀さん)が大家に連れられて来てから後、二人の会話の上下(カミシモ)が逆。本人は途中で気がついたのかもしれないが、もう変えられない。途中で科白を忘れ「え~と・・・」という合いの手まで入り、ややパニック気味。新婦が翌朝の朝食のために八百屋からネギを買ったところ、という珍しい場面でサゲた。制限時間ぎりぎりで、この内容で時間が押して白酒に迷惑をかけたくなかったのだろう。途中までの高座は、それほど悪い印象ではない。今後の精進に期待したい。

桃月庵白酒『井戸の茶碗』 
 きょう介のことから切り出した。この会の開口一番を連続して務めているようだ。持ちネタが『子ほめ』『手紙無筆』『たらちね』の三つらしく、白酒から今夜になって、予定していた『子ほめ』には飽きたから『たらちね』に変えて、とリクエストされたらしい。本人には結構ハードルの高いチャレンジだったのだろう。舞台袖の立話で、「上下(カミシモ)間違えちゃったね」と白酒が言うと、「いろいろ間違えました・・・・・・」とガックリしていたらしい。三年目の前座さんへの先輩からの“愛の鞭”ということか。その後、古今亭一門のことになり、「洒落ですから、ブログで書かないでくださいよ」「白酒、古今亭批判、とか書かれると困る」、と笑いながらも本人から念押しのあった、持ち味のややブラックで刺激的な話もあった。もちろん、詳しくは書かない。
 人間素直すぎても、正直すぎても困る、という自分や馬石のエピソードから本編へ。きょう介へのイジメ(?)への因果応報であったかのような高座。千代田卜斉が、「昼は近所の子どもを集めて素読の指南」の後で、「夜は町に出て、売卜(ばいぼく)の指南」とやってしまい慌てて誤魔化したが、その後もところどころ噛んでしまう、この人にしては珍しい不出来。これは、後輩イジメの罰が当たったということだろう。こういったちょっとした言い間違いは、滅多にブログに書かないのだが、きょう介のネタ選びとセットの話としてあえて書かせてもらった。お客さんの大半は満足していたように思うが、私の白酒への期待度には届かない。

古今亭駒次『泣いた赤い電車』 
 初めてのお客さんのために、マクラで自分が電車オタクであることを表明し、「電車ネタの新作もあるんですが、それだけじゃないということをお見せしたいので、今夜は昔話の『泣いた赤鬼』の現代版をやります」、と言ってオリジナルのあらすじを解説した後に舞台袖に引っ込んだ。さて再登場した駒次が持ってきたのは自作の紙芝居。結構大きな用紙に分かりやすい絵が描かれており、後方の座席からも十分に読める。その表紙に書いてあるお題が「泣いた赤い電車」。赤い電車が京浜急行、青い電車がJR京浜東北線。京浜東北をいじめるのが東海道線、という構図。詳しいあらすじは割愛するが、「日本昔ばなし」風の田舎言葉で語られる新作紙芝居、なかなかのものだった。神奈川、東京在住のお客さんが多いだろうから、特定の駅のエピソードでも笑いは起こるし、某私鉄の客層が悪い例を、酒瓶と人間が電車の床に横たわる絵で表現するなど、ほぼ絶え間なく笑いが起きる。
 入門8年目の二ツ目として、これだけオリジナリティのある新作を作ることのできる噺家さんは、そうはいないだろう。白酒もこの後の高座で、自分は新作を作ろうと思って挫折したが駒次には頑張って欲しいと言っていた。
 昨年は厚木で『半分垢』、にぎわい座で『生徒の作文』を聞いている。音源として『鉄道戦国絵巻』も聞いているが、この紙芝居も結構だった。そういえば、厚木の落語会では師匠の志ん駒が高座を降りる際に肩を貸して寄り添っていた姿が思い出される。私は、そんな優しさのあるこの人の新作の可能性を買っており、将来を期待している。もちろん、古典も磨いて欲しい。結構化けると凄い噺家になるような気がしている。

桃月庵白酒『千両みかん』 
 冒頭、「北関東では受けないでしょうね」と、駒次のネタに一言。いや、北関東版もあるはずだ・・・・・・。
 昨夜は渋谷に新しく出来た会場「渋谷区文化総合センター 大和田」の広いほうの「さくらホール」で落語会だったらしい。その顔ぶれは、昇太、白鳥、彦いち、白酒、そして一之輔。なんとも言えない五人。冒頭に昇太と白酒との対談があったようで、元々人見知りの二人への「嫌がらせ?」のような企画と言っていたが、さてどんな内容だったのだろうか。渋谷はこれまで滅多に落語会で行くことがなく、昨年からこの会場に行き出して、若者の街渋谷の情景に関するこの人らしい少しブラックなマクラが続く。初めて「109」に行った時の、あの女性ばかりの空間の、なんとも言えない臭い(香り?)には、喜多八も閉口いたとのこと。そして、その後すぐに喜多八は入院した、と続く。
 さて、「夏らしい、今しか出来ない噺」とふったので、内心は『船徳』を期待した。8月9日は旧暦の7月10日だったからだが、期待に反してネタは『千両みかん』。確かに、これも夏らしい噺には違いない。
 真夏にみかんを食べたい、と思い焦がれるあまりに病に伏せる若旦那、対象的に無駄に元気な番頭。この対比も良い。もし、みかんを見つけ出さなければ、主殺しの罪で「磔」だ、と脅す主人。汗を拭いながら必死にみかんを探し歩く番頭の暑がりようは、この人のことである、演技ではなかろう。文字通りの“熱演”だ。
 果物問屋を“千惣”としたのは、もちろん大師匠馬生の型。この千惣の主が、ようやく探し当てた一つのみかんを番頭に差出し、「どうです!」と言ってから、「腐ってます」とオトスあたりは、この人ならでは。こういった、いわば“フェイク”が、白酒の持ち味の一つだと思う。いわば、“かわしの芸”とでも言うものか。
 その後、腐っていないみかんを一個見つかり、喜び勇んで持ち帰る番頭。みかん一個千両に驚かない主人と若旦那への疑心、違和感が募る番頭。若旦那がみかんを三房一緒に口にほうばる様子を見ながら、「あぁ、三百両」とわめく番頭。そして、七房食べた後で三房を残した若旦那、「一つは父上、一つは母上、そしてもう一つは、苦労をかけた番頭、お前にあげるよ」と貰った後の心の葛藤も、なかなか魅せてくれた。今年のマイベスト十席候補としたい。


 先週の三三の印象がまだ強く残る、にぎわい座。そのせいで、一席目などは少し厳し過ぎる目で白酒の高座を見ていたかもしれない。しかし、それは、めぐり合わせなのでご勘弁願おう。
 そして、白酒にも三三のような新ネタへの挑戦などを、ぜひ期待したいものだ。そうだ、『大坂屋花鳥』は大師匠からの伝統がある噺ではないか。ぜひ挑戦して三三に対抗してもらいたい、などど勝手な願望を抱きながら、残暑厳しい中を桜木町の駅へ向かっていた。
Commented by 佐平次 at 2011-08-10 10:39 x
暑いですねえ。
私は昨日国立で柳好トリビュートに行ってきました。
白酒なりに葛藤(内心)があるのかもしれないですね。

Commented by hajime at 2011-08-10 11:13 x
確かに同じ会場に続けていくと、前の印象が残っていたりするものですが、私は普段は浅草を中心に見に行くので、なるべく新鮮な感覚で見る様に心がけています。
先日同じ上席の芝居を続けて見に行きましたが、同じ演者が同じ順番で出て来たのにも係わらず、全く違った印象を受けました。
落語会と寄席とは違いますが、面白い体験でした。(^^)

Commented by 小言幸兵衛 at 2011-08-10 13:48 x
柳好トリビュートにも心は動いたのですが、白酒を選んでおりました。
横浜という地ノリもあります。
先週の三三と比べると、どうしても辛口になります。
しかし、白酒はもっと聞きたい噺家さん。お盆休み中の扇辰との二人会に行けないのが残念・・・・・・。

Commented by 創塁パパ at 2011-08-10 13:49 x
おつかれさまです。
大阪も暑いです。駒次の工夫が垣間見られます(笑)
白酒の「千両みかん」は「キャラ的」にも「ニン」の噺ですね(笑)

Commented by 小言幸兵衛 at 2011-08-10 13:54 x
先週の三三は、ちょっと特別でした。
7月の『大坂屋花鳥』には負けると言っても、並の噺ではないので。
場所と言うより、三三⇔白酒、という構図で見てしまったと思います。
白酒が平成17年9月、三三が平成18年3月の真打昇進ですから、私が勝手にライバル視してしまうのでしょう。
持ち味も違いますし、比較すべきではないかもしれませんが、あえて言うなら、今は三三が頭一つ上という印象です。

Commented by 小言幸兵衛 at 2011-08-10 14:02 x
お暑い中のご出張、お疲れ様です。
駒次は、選んだ師匠を含めユニーク!
『千両みかん』は、笑福亭の元祖である松富久亭松竹(しょうふくてい・しょちく)の作品。
上方でも、この時期にお目にかかる機会が多いのではないでしょうか。

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by kogotokoubei | 2011-08-09 22:52 | 落語会 | Trackback | Comments(6)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛