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夏土用、鰻だけではない! (荒井修著『江戸・東京 下町の歳時記』より)

 たまたま昨夜、家の近所の鰻屋さんで鰻を食べた。土用の丑の日には食べないことにしているので、前倒しして、馴染みの店で連れ合いと食べた鰻は上手かった。養殖とはいえ、静岡県吉田町産で、肉厚の美味しい鰻を、良心的な価格で食べさせてくれるお店。普段は夫婦二人で切り盛りしている鰻屋さんだが、明日21日の丑の日は助っ人数人がやって来て臨むとのこと。しかし、いつもと同じ品質の鰻を通常より多く確保するのは大変な苦労らしい。長年のお付き合いがあって初めて確保できるとのこと。

 鰻屋のご主人と四方山話をしていたら、台湾産鰻が国内産より高くなったということを聞いた。
 
 帰ってからネットで調べたら、なるほど、NHKのニュースでも取り上げていた。NHKオンラインの該当ニュース

台湾産うなぎ価格 国内産上回る
7月13日 18時5分

「土用のうしの日」を前に、台湾では、日本向けに輸出する養殖うなぎの出荷作業が最盛期を迎えていますが、ことしは、稚魚のシラスウナギの不漁が原因で、日本国内の卸売価格は過去最高値となり、台湾産のうなぎが国内産を上回る事態となっています。

養殖したうなぎの9割以上を日本に輸出している台湾では、来週21日の「土用のうしの日」を控え、出荷の最盛期を迎えています。台湾北部の空港近くにあるうなぎの輸出会社の施設では、台湾各地で養殖されたうなぎが運び込まれ、日本に空輸するため、氷の入った水と一緒に袋に入れられ、箱詰めされる作業が行われていました。台湾では、日本と同じように稚魚のシラスウナギの不漁が原因で、ことしの日本国内での卸売価格は過去最高値となり、ことし5月から6月にかけては、台湾産のうなぎの値段が国内産を上回る事態となっています。日本の輸入業者によりますと、今週の台湾産のうなぎの国内での卸売価格の相場は、1キロ3350円と、去年の同じ時期に比べ70%以上、値上がりしているということです。台湾から日本への輸出量は、今月に入ってから、去年に比べ60%落ち込んでおり、台湾のうなぎの業界団体の代表は、「うなぎの価格が上がるのは望ましいが、これから先も不漁で高騰している稚魚を確保できず、台湾の養殖業全体が縮小してしまうことを心配している」と話していました。台湾では、稚魚のシラスウナギの高騰が続くなか、うなぎの養殖から撤退する業者も出ていて、今後、収穫量をどのように確保していくかが課題となっています。


 ニュース動画の最初の画像だけでもグラフが確認できるので、こちらも紹介。
夏土用、鰻だけではない! (荒井修著『江戸・東京 下町の歳時記』より)_e0337777_11074258.jpg

 中国産も台湾産も国産価格を上まわっている・・・・・・。
 いくら、稚魚のシラスウナギが不漁とはいえ、「土用の丑の日」を当て込んで、しっかり商売しているように思うのは、私だけではないだろう。

 土用の丑の日に、無理して普段より高かったり量が少ない中国産や台湾産の鰻を、騒々しくサービスの行き届かない店で食べなくてもいいと思うのだが・・・・・・。
 そもそも土用は夏だけではなかった。以前にも何度か紹介している小林弦彦さんの本から引用する。
小林弦彦著『旧暦はくらしの羅針盤』
 土用は旧暦の「雑節」の一つ。
 *ちなみに、昨年「処暑」を取り上げた時に、下記の文に登場する「二十四節気」を説明したので、ご興味のある方はご覧のほどを。
2010年8月23日のブログ

 雑節は、二十四節気や五節供以外に、「暦注」として旧暦時代の暦本に記載されていたものです。忘れられたものもありますが、多くは現在でも年中行事として使われています。
 雑節は、一般的には「節分」「彼岸」「社日」「八十八夜」「入梅」「半夏生」「土用」「二百十日」「二百二十日」の九つです。それ以外には、「初午」「盂蘭盆会」「中元」を加える説もありますが、ここでは九つのみ説明します。


 土用は次のように説明されている。

土用 
 旧暦では、立春、立夏、立秋、立冬のそれぞれ前の十八日を、土用といい
ました。年に四回あったのですが、夏の土用だけが残りました。夏の土用は
猛暑の最中ですので、「土用うなぎ」を食べるのが一般に普及しました。


 補足すると、必ずしも18日間とか限らない。17日の場合も19日のこともある。wikipediaから引用する。

歴史 
 五行では、春に木気、夏に火気、秋に金気、冬に水気を割り当てている。残った土気は季節の変わり目に割り当てられ、これを「土旺用事」、「土用」と呼んだ。
 土用の間は、土の気が盛んになるとして、動土・穴掘り等の土を犯す作業や殺生が忌まれた。ただし、土用に入る前に着工して土用中も作業を続けることは差し支えないとされた。また「土用の間日(まび)」には土用の障りがないとされた。



 さて、今日では夏の土用のみが日常で意識され、その間の「丑」の日に鰻を食べる習慣が残っているのだが、夏のこの時期、必ずしも鰻だけがお奨めではないし、その昔にはいろんな夏の風物詩があったということを、次の書から紹介したい。
夏土用、鰻だけではない! (荒井修著『江戸・東京 下町の歳時記』より)_e0337777_11074255.jpg
 荒井修著『江戸・東京 下町の歳時記』

 著者の荒井修さんは私より少し年長の“団塊の世代”で、浅草にある舞扇の老舗、荒井文扇堂の四代目社長さん。「はじめに」から、まず引用。

 あたしが生まれた昭和23年ころは、まだ戦災の爪あとが深く、東京中が仮住まいのバラックだらけだったそうです。それでも物心のつく三、四歳のころになると本建築の家が建ち始め、あたしの家にも大工さんが入り、その大工さんの弁当箱の大きかったことを今でも覚えています。
 あたしは浅草で三代続く扇子屋に生まれましたが、戦時中に踊りを踊っている人などいるわけもなく、扇子なんかそうそう売れるものではありません。当時は仕入れられるものならなんでもということで、万年筆からおもちゃの刀まで売っていたというのだから、祖父やおやじたちの苦労は相当のものだったと思います。
 (中略)
 この本は、あたしの生まれ育った下町と、江戸時代からの歳時記を加えて綴ったものです。もちろん下町とは、江戸城から江戸湾に向かった日本橋あたりから人形町方面をさした言葉で、江戸時代でいうところの浅草は下町エリアではありません。けれども庶民の町で江戸一番の盛り場ですから、下町文化という点では、この地のあれやこれを下町の歳時記とすることにっは間違いはないと思います。


 “あたし”であって、“わたし”や“私”ではないところが、ミソ!
 さぁ、荒井さんによる夏土用の下町の歳時記をご紹介。

夏土用と暑気払い 
 夏の土用となると、いろんなことをやりますが、土用の丑の日にうなぎを食うなんていうのは、一説には平賀源内がうなぎの売れ行きの悪かった時期に、うなぎ屋のために始めたものです。土用というと、それまでは丑湯なんていうのがあるんですよ。夏土用の丑の日に薬湯につかるんです。そうすると健康になれる。
 それから、丑浜なんていってね、丑の日に海に入るんですね。そうすると健康でいられるとか、いっぱいあるんだ。焙烙灸もそう。さっきの、お盆に使う焙烙があるでしょう。そこに山のようにお灸を据えて頭に載せるの。効き目があるとかなんとかではなくて、一つのおまじない的にね。
 夏土用のころっていうと、たいがい暑いんで、暑気払いに「直し」というものを飲む。直しというのは江戸の言い方で、上方では「柳陰」といいます。「青菜」という落語の中にも出てきますが、柳のある日陰で、ちょっと飲んで涼めるというところから柳陰というらしい。これは、焼酎をみりんで割ったものなんだけど、この焼酎はどうやら米焼酎のようです。
 みりんというものは文化文政から天保年間に、江戸で一番の料理屋「八百膳」四代目主人の栗山善四郎という人が書いた『料理通』という本がるんだけど、この中の一節に、「みりんを煮返して」っていうのが出てくるわけ。そうすると、みりんがちょっと焦げるんだな。それがおいしくするコツらしい。だけど、そうやって料理に使うだけじゃなくて、屠蘇散を入れてお屠蘇として飲んだり、飲み物としてのみりんもあるんです。
 で、この直しはとろっとして、リキュールみたいな感じ。甘くてね。これはがぶがぶ飲むもんじゃないね。みりんは、冷たくすると固まっちゃうからそのままで、井戸水の中に徳利ごとつけておいた焼酎で割る。その程度の冷え方でじゅうぶんなんだと思うよ。これを飲んで身体の中の熱を外に出すという、この知恵、素敵じゃない?
 (中略)
 直しの場合は、ある説によると、焼酎2に対してみりん1っていうんだけど、この前、実は割り方をいろんな比率で試してみたときに、上方の人間が一人いたんだ。そいつはみりん2に対して焼酎1でいいって言う。だけど東京の人は、「いや、焼酎2でみりん1だとう」って言ったりね。これでかなり度数が違うんですよ。
 ちなみに、あたしは1対1がうまいと思うんだけどね。


 ここで出てくる“焙烙”とは、荒井さんの説明では、「素焼きの大きな皿みたいなもの」である。

 出ましたよ、「青菜」!「直し」!
 直しのことが、よく分かる解説がうれしい。
 夏の土用の時期の暑気払い、必ずしも「鰻」だけではないわけだ。この後に、次のように書かれている。

夏を越す 
 夏っていうのは、たぶん、昔の人にとってはたいへんきびしい季節なんですよ。大人だけじゃなくて、幼児のうちに死んじゃったりする場合が結構ある。江戸時代は、寿命五十歳だったりするでしょう。だから、夏を越せたというのは、おめでたい話なわけですよ。夏には夏独特のいろんな病があったり、水あたりがあったりというのは、もう普通に起こりやすいことだから、それをどうやって越すかということは、その時代の人にすりゃたいへんなことですよ。
 だから焙烙灸にしろ、井戸さらいにせよ、みんな夏を越すための大切な行事ですよ。行事というか、なきゃならないものなんだろうな。
 当時の人が夏を恐れ、そして信心を持ち、それからなんとか乗り切っていくために、暑気払いというようなものがある。
 「蚊やり」っていう言葉があるでしょう。蚊は向こうに「やる」ものなんだ。殺しちゃうという了見じゃないんだよ。わかる?江戸の人間というのは、あくまでも最後に逃がすんだよな。そうありたいということだね。


 
 以前に飼っていた犬を思い出す。メスが十六歳で亡くなった翌年、オスが十九歳で天寿を全うした。亡くなったのは11月だったのだが、その年の夏が越せるかずいぶん心配したものだ。

 夏、そして土用、鰻だけではないことが少しはお分かりになったかと思う。鰻を食べなくても、「土用しじみ」なんてのもあるね。私はしじみ大好き。オルニチンが肝臓にいいから。

 丑湯に浸かって、“直し”をじっくり舐めるように飲みながら、青菜をつまみ、しじみ汁を吸う。

 よし、これで夏を乗り切ろうと思って、奥に「青菜はあるか?」と聞いたら、「鞍馬山から牛若丸がいでまして・・・・・・」(スイマセン)
Commented by 創塁パパ at 2011-07-22 10:49 x
めずらしく、「食卓」に「鰻」でしたよ(笑)ちびはほとんど食べられません(苦笑)

Commented by 小言幸兵衛 at 2011-07-22 11:21 x
この時期に食べること自体は、結構だと思いますよ^^
栄養とってがんばりましょう!

Commented by nam at 2011-07-22 12:53 x
はじめまして。
いつもROMさせて頂いています。

近所のイオンでうなぎのセールをやっていたのはもちろんなんですが、一角に「土用の丑の日はうのつくものを食べよう」とのポスターが。

ウインナーのセールなのでした。
それはちょっと違うような…。

Commented by 小言幸兵衛 at 2011-07-22 15:11 x
 お立寄りいただきコメントまで頂戴し、ありがとうございます。
「土用の丑の日に“う”のつくものを食べる」という民間伝承もあったとは言われています。
しかし、その食べ物は「梅干」だったり「瓜」などだったようで、ウィンナーではないはず^^
 私は、なぜ「土用しじみ」をもっと宣伝しないのか、不思議でならないのです。
もしかすると、ほとんどが中国、韓国産なので、あまり騒がれたくないのかもしれません。
青森十三湖産なら問題ないはずですが。別に丑の日に食べなくてもいいし、立秋まで販売
期間も長いのに、勿体ない。
 明日は「大暑」。栄養をつけて体調を維持して、この夏を乗り切りたいものですね。

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by kogotokoubei | 2011-07-20 16:08 | 旧暦 | Trackback | Comments(4)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛