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桂平治独演会 日本橋社会教育会館ホール 4月18日

ゲストが喬太郎ということもあるが、そのゲストにどう平治が挑むか、という興味のほうが強かった。この人は三遊亭遊雀が三太楼時代に『反対俥』でNHK新人演芸大賞を受賞する前の年、1994年に『平林』で大賞を受賞している。喬太郎が『午後の保健室』で受賞する4年前である。年齢は平治が喬太郎より四つ若いが、入門は三年、真打昇進は一年、平治が先輩である。私は芸術協会では鯉昇の次の現役実力者は、この人だと思っている。
 全席自由席だった200席ほどの客席は、ほぼ満席。“大人”のお客さんによる非常に良い雰囲気の中で、次のような構成でこの会は行われた。
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(開口一番 春風亭昇也 『子ほめ』)
瀧川鯉橋  『厩火事』
桂平治   『禁酒番屋』
(仲入り)
柳家喬太郎 『錦の袈裟』
桂平治   『お血脈』
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昇也『子ほめ』 (18:46-19:01)
名前から分かる通り、昇太一門の前座さん。街を歩いているお兄ちゃんが、そのまま高座に上がった印象。後で平治がいじっていたが、次の平治の独演会は昇太がゲストで前座がこの人で二つ目が先輩。まるで昇太一門会のよう、と言っていたが、やっぱりそれは平治に言わせなきゃだろう。平治に可愛がられている(?)お返しかもしれないが、このへんの気配りは大切。やさしい会場の雰囲気に乗って話したのかとも思うが、まずは気配りから勉強。

鯉橋『厩火事』 (19:2-19:24)
初めてだが、鯉昇門下で11年目の二つ目さんで、日本演芸若手研精会の顔ぶれでもあるので、どんな人か興味があった。よく言えば、“古き江戸”を感じさせるタイプ。厳しく言うなら、少し“地味”すぎるかもしれない。ただし、全体的な印象は悪くはない。師匠が師匠なので、もう少し自分なりのクスグリなども入れるかと思ったが、あえてしっかり基本を身につけようとしている、そんな姿勢を感じた。それほど器用な人ではないと思うが、今のうちに土台を作っておけば将来の成長が期待できる、そんな潜在能力を感じた。

平治『禁酒番屋』 (19:25-19:57)
師匠十代目文治の十八番を披露。このネタは期待していただけに、非常にうれしかった。会場にはこの噺をご存知ないお客さんも多かったようで、ネタの可笑しさだけでも沸いていたが、私も久しぶりに大いに笑わせてもらった。ややもすると、このネタなので後味が若干悪くなる場合もあるのだが、番屋を欺こうとする明るい酒屋の面々と、次第に呂律が回らなくなる番人とのやりとりが巧みで、後味も良い結構な高座。 “禁酒”になるいきさつから演じる本寸法の構成に、この人らしい賑やかさと明るさで演出され、文治一門の十八番がしっかり継承されていることが、落語愛好家としてうれしい。この後に登場する喬太郎もこの噺を時たまかけるが、やはりこのネタはこの一門だと感心し、笑った。

喬太郎『錦の袈裟』 (20:08-20:34)
平治の会の客演だから、まず間違いなく古典だろうと思っていたのでうれしい高座。町内の若い衆の威勢の良さ、そのリズムを少しずらし気味に程よく小憎らしさのある与太郎、対照的にしっかり者の与太の女房、脇を固める吉原の面々、などすべての登場人物を大いに楽しみ感心した高座。一夜明けて与太郎が起きた際の科白などに喬太郎らしいクスグリも交えながら、“錦の輪”の部分では、平治の禁酒番屋と下ネタ噺でかぶったことを自虐的にいじって笑わすなど、この人ならではの生での演出もあり、さすがだ。

平治『お血脈』 (20:35-21:09)
マクラから大いに楽しませてくれた。師匠十代目文治が酔った時の楽屋での定番“ワンセット”に、他の噺家さんの物真似があり、その中に古今亭今輔師匠の真似もあるのだが、今輔師匠は真似されるのが嫌いで会うと厭味を言われた、というその口ぶりも可笑しい。また、「師匠は“火の玉”を掴まえたことがあると言っていた」、「志ん生は鯉が登って龍になるのを見たことがあると言っていたらしい」、「玉川スミ師匠は・・・・・・」という名人達が「見た」ことがあると言い張っているネタについて、「見た人にはかなわない」という話も笑えた。このネタなのでいろいろ細工が出来るわけだが、三遊亭歌之介も真っ青のカットバック多様の自由自在な展開。実際に歌之介がよく使う、森元首相が次は北海道から立候補するらしい、というネタもパクっていたが、それもご愛嬌。講談の話を伏線に交え、「9時になりましたので、本来ならばお血脈という噺になるところ、本日はここまで」と言った時は、本当に終わるのかと思ったが、そこでもはぐらかして最後までつとめ、万雷の拍手。


 プログラムに書いてあり、一席目で平治がマクラでも言っていたように、「被災していない我々が元気で明るくなくては、被災地が元気になるわけがありません。元気とお金を回すことが、復興につながります」という意気込みが、高座と会場の一体感にもつながったように思う。
 まだまだ、不安が続く中だが、そろそろ平治の言うとおり、元気を取り戻すために頑張る段階なのだろうし、そのために、笑いは必要だとしみじみ感じた。平治の『禁酒番屋』と、客演とは言え喬太郎の『錦の袈裟』を、今年のマイベスト十席候補としたい。『お血脈』の楽しさは、あらためて番外的に振り返るかもしれない。全体として非常に良い落語会だった。
Commented by 創塁パパ at 2011-04-19 20:05 x
平治の「禁酒番屋」ぴったり!!!
そして、喬太郎の「錦の袈裟」聴いてみたいなあ。このネタは志ん五のが
好きでした。

Commented by 小言幸兵衛 at 2011-04-19 20:36 x
平治は普段から着物の人らしいですね。
ある意味、こだわりの人なのだと思います。
そういう人が少なくなってきたこともあり。私は好きなんですよ。
喬太郎は共演した時に良い、談春はその逆、というのが私の今の評価です。

Commented by 甘木 at 2011-04-19 21:11 x
私は以前から、平治師が文冶を、市馬師が小さんを継げれば
いいのになと思ってまして、そういえば二人とも大分県出身
だったなあと、ふと思い出しました。
他愛のない願望からの連想で、ただそれだけなのですが(笑)。

Commented by 小言幸兵衛 at 2011-04-19 22:02 x
お立寄りありがとうございます。
平治の文治襲名は賛成です。ふさわしいですね。
歴史的には、とても大きな名前です。あまり長い間途切れないようにして欲しいと思います。
市馬は、この名跡そのものを大きくして欲しい、そんな思いです。

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by kogotokoubei | 2011-04-18 23:16 | 落語会 | Trackback | Comments(4)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛