人気ブログランキング | 話題のタグを見る

末広亭 10月上席 真打昇進披露興行 三遊亭鬼丸 10月7日(2)

落語協会秋の真打昇進披露興行にどうしても来たかったのは、春の披露興行には結果として行けず、残念な思いをしたことが最大の理由。本音のところは小せんの日に行きたかったのだが、都合が合わず、仕事との兼ね合いで7日の鬼丸の日になった次第。決して小三治出演日を狙ったわけではない。どちらかと言うと、やたら混むので敬遠したかったくらいなのだが、めぐり合わせで選択することになった。

 新真打昇進披露興行の席は口上があることに加えて出演者も多く、日頃の寄席よりも短い時間での高座が続くのだが、この日は、その数分という時間と空間にかける芸の巧みさや凄みのようなものを感じた。そして、昇進者への噺家らしい賛辞も、それぞれに味のあるものだった。
 高座の順番に思い出しながら書いてみる。

雲助『夏泥』
お決まりのリフレインなのだが、笑えた。なんとも親切な泥棒に入ってもらえた(?)文無しの大工の決まり文句がこの噺の重要な横串。「その親切は涙が出るほどうれしいんだけどよぉ~」で、客席がドッと沸く。私は、この人のこういった滑稽噺のほうが好きだ。円朝の怪談ものを含め人情噺の評価が高いが、雲助本来の持ち味は落とし噺にあると思っている。師匠馬生の代表作の滑稽噺をもっと聞いてみたい。

円歌『漫談』*『中沢家の人々』のマクラ抜粋
年金をテーマにした話など定番のネタで何度も聞いているのに笑えるのは、やはり“芸”としての水準が高いからである。子供時分にはたっぷりテレビでの「山のあなあなぁ~」を聞いた。そして昨今は中沢家。後で登場する木久扇の彦六ものにも言えるが、「何度聞いても笑える」ということは、とんでもないことである。マンネリという言葉はネガティブな響きがあるが、安心して聞いて笑えるという落語も、寄席には欠かせない。

小三治『二人旅』
「青と緑で景色が綺麗だろ!」「それじゃぁ、病人が青い顔して黄色いふんどし締めていたら、綺麗か?」といった、何とも馬鹿らしい二人の会話が、なぜこれほど可笑しいのだろう。お決まりの都都逸も結構挟んだが、たった10分。実はもっと長く感じていたので、時計を見て驚いた。よく言われることだし、ご本人も師匠小さんの言葉として本などにも書いているが、「無理に笑わせようとしない」高座で、これだけ沸かせるということに、ある種の感動をおぼえる。円歌のスピード感と好対照の“ゆるゆる感”が、なんとも言えない味を醸し出す。私は特に熱烈な小三治ファンというわけではないのだが、古希を過ぎた名人上手の“枯れ方”の見本を提示するような至芸には、やはり感心する。

馬風『漫談』
この日のハプニングは、この人の漫談での正蔵(こぶ平)ネタが、結果として伏線になった。親である初代三平の真似を久しぶりに聞いたが、似ているし笑える。漫談から口上、そして正蔵の高座への殴りこみ(?)まで、大活躍の前会長だった。本当は小せん(わか馬)に対する口上を聞きたかったわけだが、それは今後の池袋、国立演芸場でトライしたい。

三遊亭鬼丸真打昇進披露口上
顔ぶれはすでに紹介した通り。特筆すべきなのは小三治の言葉。かつて池袋で行った「二ツ目勉強会」で、志ん朝と権太楼が揃って鬼丸(当時きん歌)の芸をコテンパンに批評した時、小三治だけが、「将来見所があるかもしれない」とポジティブに評価したらしい。しかし、そのことは鬼丸本人が覚えていて小三治に伝えたのだが、当の小三治はまったく記憶がない、というオチがつく。まぁ、そんなものだろうが、鬼丸にとっては、その日の池袋で、素晴らしいアメとムチをもらったということだろう。
師匠の円歌は、「入門のため楽屋に来たのも末広亭、奥さんも末広亭にお勤めだった方・・・・・・」と会場との縁を披露。なかなか、いい話だった。
馬風の紹介忘れで司会の正蔵が冷や汗を書いた時、金馬が、「いちばん(正蔵が)嫌いな人だから!」と合いの手を入れた際の会場の笑いもほどよいアクセントとなり、自然な笑いと励ましに包まれた口上を楽しんだ。
*六代目○楽とやらの襲名披露口上を、たまたまテレビで見てしまったのだが、あんな作為的で下衆なイベントとは比べ物にならない。

正蔵『ハンカチ』
正蔵の高座とハプニングは、(1)ですでに紹介した通り。寄席で前座がネタ帳を持って止めに入ったのを初めて見た。高座の正蔵も客席も、珍しい経験を共有したわけだ。

木久扇『彦六物語』
定番の彦六ものを数分で演じたが、私の周囲の女性客がころげ回って笑っていた。これも、間違いなく芸である。餞の言葉も堂に入っており、実は昭和12年生まれで、小三治や馬風よりも年上の73歳だということを最後に思い出させた。この人は、本当は相当に頭がいいと思うが、さて息子はどうなることやら。

金馬『四人ぐせ』
本日の出演者で最高齢、昭和4(1929)年3月生まれの81歳であることを考えると、膝を悪くして正座ができないので釈台で隠したのは、やむを得ない。しかし、高座はしっかりだったし、あの「お笑い三人組」を思い出させる陽気で元気な芸に感心。ぜひ90歳まで高座に上がっていただきたい。

円窓『半分垢』
会場で渡された出演者の予定に木久扇がなかったので、てっきり円窓の代演と思っていたらご登場。想像したよりは元気そうな高座。“五百席”の人である、どんなネタでもできるだろうから、その中からこのネタにしたのは、この人なりの鬼丸への戒めを含めた餞の言葉なのかと勘ぐったが、真偽のほどは分からない。

鬼丸『悋気の独楽』
本人が、口上の豪華な顔ぶれに一番感激していたのは間違いがない。「これも運です!」と言っていたが、その通り。「来年なら一人二人いなくなっていたかも・・・・・・」も、噺家らしくて結構な毒を保ち、なかなか落ち着いた導入部だった。「師匠もおっしゃってましたが、入門も末広亭、奥さんもここでお茶子だった。もう、他の寄席はどうでもいいんです!」とやってから、「あっ、今日はインターネット落語を収録してました。鈴本の席亭はパソコンが得意で見るなぁ・・・・・・」と慌ててみせた。そうなんです、ずっと会場の最後方でカメラが回っていたんです。(写ってないだろうなぁ)
本編は、まぁ無難な出来、と言える。眼鏡をはずしたのはコンタクトにしたということだろう・・・・・・。私自身が眼鏡をして、たまに酔った勢いで仲間うちで落語をするので、本当はかけ続けて欲しかった。でも、去年の「NHK新人演芸大賞」のことを書いた時に、眼鏡がマイナスに影響したかもしれない、と私自身が書いている。そういう意味では、賢明な対応なのかもしれない。
2009年11月23日のブログ

新作と古典の両方を守備範囲にしているこの人の将来を期待している。師匠や歌之介という先輩のような、“定番”となる新作を作って演じる力量が、この人にはあると思っている。


真打昇進披露という大きなイベントでの、たまたまの巡り合わせなのかもしれないが、歴代の落語協会会長三名が集結した口上。そして、その口上での“しくじり”に伏線があった正蔵のネタかぶりのハプニング。とにかく印象深い披露興行で、鬼丸にとっても会場のお客さんにとっても歴史的な一夜だったように思う。さて、他の人の披露興行には行けるのかどうかは今後の都合との巡り合わせ次第である。平日昼席が多いこともあり結構きびしい現実があるが、そういったことを含めて、“縁”なのだろうなぁ。
Commented by 佐平次 at 2010-10-09 12:29 x
凄い席でしたね、無念!
小三治はこういうときによく「二人旅」をやります。
確かにマンネリも芸の内、だって落語自体が同じ噺を繰り返し繰り返し、、。

Commented by 小言幸兵衛 at 2010-10-09 13:19 x
お立寄りありがとうございます。
なかなか巡り会えないと思う席でした。まさに僥倖です。
たしか、春の昇進披露で弟子三之助の時も『二人旅』をかけてましたよね。
この後の浅草、池袋、そして半蔵門の演芸場で目当ての小せんの日の都合がきびしそうなので、落語の神様が恵んでくれたのかもしれません。それでもあと一日でも今回の披露興行期間に行きたいものです。

Commented by 創塁パパ at 2010-10-10 07:15 x
おはようございます。いいですね。
うらやましい(笑)雲助はやはり滑稽噺ですよね。小三治の「二人旅」聴きたいなあ。馬風の「三平」のマネ聴いたことあります。正蔵は何かにつけお騒がせ。市馬が司会をやったらうまいですよ。まあこれもハプニングですよね。鬼丸はあまり生で聴いたことありません。今度聴いてみたいですね。私も今月は落語会は月末まで
いけそうになく・・・・・

Commented by 小言幸兵衛 at 2010-10-10 07:53 x
お立寄りありがとうございます。
結果として記憶に残る席を経験できました。
口上では、あの末広亭の舞台に七名、右側三名は三代の会長が並びましたからねぇ。
私も月末まで落語会に行けそうになく、落語の神様からのちょっとしたご褒美かと思います(笑)

名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by kogotokoubei | 2010-10-08 18:46 | 寄席・落語会 | Trackback | Comments(4)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛