噺の話

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「志の輔らくご in PARCO 2010」を見て思ったこと

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*パルコ劇場のホームページより
パルコ劇場ホームページ

 昨日3月22日、WOWOWで見た。今年1月30日の収録だから楽日前日。たっぷりの三席。もちろんその高座そのものは悪くないし、テレビという映像で楽しむ落語としては、演出・カメラワークなど総合的に今日ベストと言っても良いエンターテインメントだと、思う。三席の中ではネタおろしの新作『身代りポン太』が良かった。ある一日の落語会として評価するなら、非常にクォリティが高いことは間違いない。しかし、一日だけの“断面”だけを見て判断することに抵抗がある。この一ヶ月近い興行を考える時、はたして手放しで褒めていいのか迷うのだ。どうしても、このイベントには“ガッテン”できないところがある・・・・・・。そして、この放送にも数名出演していたが、いわゆるご通家な有名人の志の輔ファンが多いので、志の輔のことを批判するのがためらわれるムードがあるし異論もたくさんあるだろうが、あえて嫌われるのを承知で書く。

 私は後からWOWOWで見ることができることもあるが、もし放送がなくてもこの会のチケット争奪戦には参加しようとは思わない。どうもその気になれないのが、パルコなのだ。
 パルコ劇場のホームページに残るスケジュール表を確認すると通算24回の口演、そのうち昼夜が三日間ある。総て同じネタ三席・・・・・・。この日程をこなすこと自体は敬服に値するが、果たして同じネタばかりを演じるこのパルコの一ヶ月興行って何なのだろう。加えて三席のうちの唯一の古典『中村仲蔵』は、演出を変えているとはいえ三年前にも演っている。

 元々円朝が自作の怪談噺を毎日少しづつ口演したことに端を発する長期連続落語会だが、昭和の落語家でまず思い出すのが米朝や枝雀がサンケイホールという米朝一門の由緒ある(?)会場で、毎日三席づつ六日間演じた「十八番」という快挙。ちなみに枝雀は昭和56(1981)年と昭和60(1985)年の二度口演している。そして、忘れもしない昭和56年の「志ん朝 七夜」がある。

“七夜”では、結果として十七席のネタが披露され、その中の『首提灯』以外の十六席の音源を今でも楽しむことができる。

志ん朝 七夜
・昭和56(1981)年4月11日~17日、本駒込 三百人劇場
第一夜 「大山詣り」「首提灯」
第二夜 「百川」「高田馬場」
第三夜 「代脈」「蔵前駕籠」「お化け長屋」
第四夜 「大工調べ」「甲府い」
第五夜 「堀の内」「化物使い」「明烏」
第六夜 「火事息子」「雛鍔」
第七夜 「真田小僧」「駒長」「干物箱」


ちなみに立川談春が志ん朝にあやかった七夜のネタは次の通り。
志ん朝と同じ十七席。

談春 七夜
・平成18(2006)年10月3日~9日、池袋東京芸術劇場小ホール
第一夜「粗忽の使者」「芝浜」
第二夜「錦の袈裟」「除夜の雪」「夢金」
第三夜「首提灯」「妾馬」
第四夜「おしっくら」「たちきり」
第五夜「桑名舟」「居残り佐平次」
昼祭 「紙入れ」「木乃伊とり」
第六夜「乳房榎~重信殺し」「棒鱈」
第七夜「小猿七之助」「包丁」


 何を言いたいか・・・・・・。
同じネタ三席をほぼ一カ月演じることには、「どんなネタを演ってくれるのか?!」というお客の“ワクワク感”や“緊張感”は、ない。初日でもない限り誰かがブログに書いたりマスコミで取り上げられて“ネタバレ”は必至。
 もちろん、6,000円の木戸銭に見合うかどうかは別として、志の輔の芸を楽しむというご利益はある。加えて、志ん朝七夜、談春七夜、そして平成2(1990)年の小朝の博品館の一ヶ月口演にしたって一度限り、志の輔はここ数年恒例である。一ヶ月口演としては今年で5年目になる。興行としての成功も含め、志の輔の「継続する力」は際立っている。
 しかし、今日の現役落語家のなかで、もっとも“名人”という名に近づいている志の輔である。せっかくなら、ネタへの興味だって抱かせて欲しいではないか。

 昨年、NHKで放送された「あの人に会いたい 桂枝雀」に関連して少し書いた。
2009年4月11日のブログ

 その内容と重複するがご勘弁を。桂枝雀が自殺した際に遺書はなかったが、枝雀が一枚残した紙きれに、復帰後予定していた20日間連続で毎日3席づつ披露する独演会「枝雀六十番」のネタ順が書かれていたという。
“幻”の「枝雀六十番」のネタの抜粋。
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初 日  延陽伯・一人酒盛・どうらんの幸助
  ・
三日目  代書・植木屋娘・愛宕山
四日目  壷算・くやみ・高津の富
  ・
七日目  七度狐・くしゃみ講釈・寝床
  ・
十二日目 鷺とり・宿替え・仔猫
  ・
十四日目 時うどん・雨乞い源兵衛・質屋蔵
  ・
十九日目 幽霊の辻・替り目・茶漬けえんま
千秋楽 つる・景清・崇徳院
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 なんとも涎が出そうなネタばかり。私は、枝雀が残念ながら実現できないままだった「三席づつ二十日間」の試みを、「志の輔 六十番」とでも題してトライしてくれるのなら、何が何でもチケットを求めたい。あるいは、一席のみは新作のネタおろしで全日通し、残る二席が日替わりでもいい。三席づつ十日間の「志の輔 三十番」だって、彼ならではのもの凄い興行になると思う。志の輔の持ちネタの数なら、まったく問題がない。
 もちろん同じネタだからこそ可能な演出があることは百も承知、二百もガッテン(!?)である。彼ならではのセンスとパルコのスタッフとのシナジーで生まれたのが今の姿なのだろうとも思う。
 しかし、なのだ。木戸銭の金額やローソンチケットだけでの販売という手法などを考えると、正月の年中行事化したパルコのスタイルには疑問を持つ。ほぼ同年齢の彼の“気力”や“体力”については高く評価するものの、どうしても“金力”とでも言うべきものも意識せざるを得ない。「もうそんなに稼がんでもいいでしょう、オフィスほたるいか」と言いたくなる。もちろん志の輔がカネのためだけにパルコをやっているとは毛頭思っていない。落語初心者をも含む客への気配りやサービス精神も十分に理解する。
 
 そろそろマンネリ化してきたこの興行について志の輔自身が疑問を感じているのではなかろうか。しかし、これだけチケットが売れ続けている以上、将来に保障のない芸人稼業、気力と体力が続く限り今のスタイルで行こうと思っているのだろう。でも志の輔さん、あなたの器の大きさを見込んで、あえてさらなるチャレンジを期待したいのだ。「志の輔らくご 六十番 in PARCO 201x」、ぜひ実現していただきたい。
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by kogotokoubei | 2010-03-23 12:09 | テレビの落語 | Comments(0)

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by 小言幸兵衛