噺の話

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桂枝雀の世界 NHK BShi 9月23日

放送当日は外出していたこともあり、5時間の録画を今日じっくり見た。ともかくうれしい企画には違いない。貴重な落語九席を登場順(=枝雀の年齢の若い順)に放送日と番組名をリストにすると次のようになる。EMIから発売されているCDの収録日と会場もついでに加えてみた。上段の「TV」というのが9月23日の放送である。
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『軒づけ』
TV:1977年9月9日放送『金曜指定席』
CD:1994年6月2日『和歌山市民会館小ホール』
『天神山』
TV:1979年8月5日放送『納涼落語特選』
CD:1981年10月2日『大阪サンケイホール』
『かぜうどん』
TV:1981年4月2日放送『夜の指定席』
CD:1997年9月22日『姫路市民会館』
『上燗屋』 *CDは『首提灯』
TV:1981年5月4日放送『新緑寄席』*末広亭
CD:1987年5月27日『滋賀県立八日市文化芸術会館』
『鉄砲勇助』
TV:1982年5月3日放送『新緑寄席』*末広亭
CD:1986年10月2日『大阪サンケイホール』
『宿替え』
TV:1984年8月28日放送『東西落語フェスティバル』
CD:1984年3月5日『徳島郷土文化会館』
『こぶ弁慶』
TV:1984年10月28日放送『日曜招待席』*大阪厚生年金ホール
CD:1985年10月3日『大阪サンケイホール』
『貧乏神』
TV:1987年6月27日放送『演芸指定席』*大阪厚生年金ホール
CD:1985年10月3日『大阪サンケイホール』
『時うどん』
TV:1992年12月28日放送『落語特選』
CD:1988年12月26日『鈴本演芸場』
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 あくまで記録として並べてみただけで、それぞれの噺について何かコメントするつもりはない。もっと言うと、枝雀の噺はTVでもCDでもすべて好きだから。ただ、TVは音だけと違って想像力をかきたてないということと、どうしても生より映像が平面的になるのはやむを得ない。しかし、この手のことを言い出すと、また堀井さんの『落語論』などを引き合いに出すハメになり今回のテーマから脱線する危険があるので、ここまで。

*「落語はライブだ」という堀井さんの論について興味のある方は過去のブログをご参照ください。7月30日のブログ_堀井憲一郎『落語論』

 TVの「放送日」は収録日と同じではないが、少なくともそんなには時期的に離れていないと思う。TV放送日とCD音源の収録日とでもっとも期間が離れているのが、『軒づけ』で約17年の差がある。逆に時期が近いのが『宿替え』で、数カ月の間隔しか空いていない。

 私がiPodでもっとも聴いていると思う噺が『軒づけ』である。*『宿替え』といい勝負だと思うが・・・・・・。
 放送の昭和52年は枝雀が38歳。若い。枝雀を襲名して四年目、前年からはサンケイホールで独演会が始まったという昇り調子の落語は勢いがある。髪の毛も、まだある。しかし、意外にCD音源との17年の時間差をそれほどは感じなかった。もちろん、勢いや若さはTVでうかがえたが、この噺の本質的な部分は、実は三十台ですでに出来上がっていたのか、という思いで見ていた。

 最後の『時うどん』が53歳だから九席は15年間の推移を見ることになる。以前に「あの人に会いたい」についても書いたことだが、正直なところ元気な枝雀を「見る」ことのつらさは、まだある。
4月11日のブログ_あの人に会いたい 桂枝雀

 しかし、この番組は枝雀の高座だけではなく、南光、雀三郎、雀松、雀々、九雀、文我、紅雀といった弟子達の思い出話や彼らへの「枝雀らしい噺はどれか」という質問へのそれぞれの答えが楽しい。なかでは、雀々が語る『代書』の稽古の話が印象深い。弟子は総勢九人だったので、残る二人について少し補足。南光とほぼ同時期の入門で一番弟子の位置づけだった音也はすでに亡くなっていて登場のしようがない。破門になっていたが葬儀は元師匠である枝雀が中心になって執り行われた。む雀は脳出血から復帰後は落語ではなく寄席の鳴り物やハーモニカで活躍しているが、映像にはなかったものの、歌舞伎座での『地獄八景~』の後の伝説のカーテンコールの音声を収録していたということで、貴重な記録をこの番組に提供してくれた。

 小朝や昇太という一門以外の人たちの回想話も貴重な歴史の記録である。そして小佐田定雄さん、俳優の國村隼さん、松尾貴史さん、そして九代目正蔵のトークも楽しいアクセントとなって、映像を見ることによる淋しい思いをやわらげてくれる。小佐田さんがお元気なのが印象的。

 高座の映像以外でもっとも印象に残ったのは小朝だ。師匠柳朝のお供で大阪のトップホットシアターでの落語会で出会った枝雀落語の衝撃は、相当大きかったようだ。昼席で枝雀の『宿替え』で小朝が腹を抱えて笑い転げていたのを見て、本来はシャイでそんなことをしないはずの師匠柳朝が、対抗して夜席に『粗忽の釘』をかけ会場をひっくり返した、というエピソードも微笑ましい。また、柳朝が仲介して小朝が枝雀から『鷺とり』の稽古をつけてもらったという話も初めて知った。小朝の『鷺とり』、ぜひ聞きたいものだ。

 なかなか嬉しい番組だったが、最後に残った疑問が一つ。ナレーターは談春である必要があったのだろうか。あるいは、談春が希望したのだろうか。しかし、彼自身の枝雀への思いを語るシーンは登場しない。この点だけが妙に腑に落ちなかったが、それもNHKだから出来る贅沢なのだろう。

 何度か書いてきたことだが、NHKには東京落語会をはじめとする膨大な落語の映像ストックがある。今後もぜひ数多くの懐かしい噺家さん達の名演を放送して欲しい。志ん朝師匠の映像など、まだまだ出し惜しみだと思うのだ。今回の企画は、今後に大いに期待させてくれる。
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by kogotokoubei | 2009-09-26 14:30 | テレビの落語 | Comments(0)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛