噺の話

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旬のネタ 『人形買い』

端午の節句の季節のネタといえば、この噺だろう。元は上方ネタだが江戸時代末期には東京に伝えられていたらしい。この噺の代表的な噺家は、三代目桂三木助といわれる。師匠である二代目三木助宅に居候していた大阪時代に習い、東京で演じるときは舞台設定も東京に替えていた。三木助はこの噺についてこう語っている。(ちくま文庫『古典落語 正蔵・三木助集』より)
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あたしが先代から教わったのは、昭和の二、三年ごろの春風亭柳昇時代
ですね。当時、板(高座)に掛けてはいたんですが、どうも最初(ハナ)の
半分はよかったけれども、後半が難しいんで、一時おくら(高座でやらない
こと)にして・・・・・・それで、いつとはなくきれいに忘れましてね・・・・・・その
後、昭和十九年に、先代の五代目笑福亭松鶴から後半を教わって、また
高座に掛けはじめ、あとは季節ごとに、まあ、得意のうちに入れて演って
いますよ・・・・・・とにかく前半は比較的やさしいんですが、後半が難しくて
骨が折れる割には、もうからない噺で・・・・・・。二ァ人で人形を買いに行く
ところなんか、演ってて愉快ですけどねェ、占者・講釈師、それに神道者の
登場するあとの半分は、演るのに苦労するんです・・・・・・」
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ちくま文庫_正蔵・三木助集*残念ながら現在増刷されていない模様。筑摩さんに版を重ねてもらうよう皆で要望しましょう。

この噺を聞いたことのある方ならば、三木助が「骨が折れる」「苦労する」と言っていた後半は、現在の噺家さんはほとんど演じないことをご存知だろう。通しでやると次のような構成になるが、三木助が「骨が折れる」と評しているのは(5)以降である。

(1)神道者の子どもが初節句なので長屋中に粽(ちまき)が配られる
(2)長屋二十軒でお返しにお祝いの人形を買うことになり、月番の甚兵衛さんが
  二十五銭づつ計五円を集めたが、カミさんに「あんたはぼんやりしているから」と、
  一緒に買い物に付き合ってもらいに「こすっからい」松っつぁんを訪ねる
(3)松っあんはなんとか人形代を値切って二人の飲み代をこしらえると言って甚兵衛
  さんと人形屋へ行って、「太閤さま」か「神功皇后さま」なら四円で売ってやるといわれ、
  どちらがいいかは長屋の連中に相談するので、二つとも持って帰り残ったほうは返す
  ということで、人形屋の小僧を荷物持ちとして連れて長屋へ戻る
(4)小僧から、実は四円の人形は「豆食い」とか「二荷目」といって一昨年の売れ残りで、
  二円でも売るつもりで置いていた人形だと明かされ二人はがっくりする。加えてこの
  小僧が、人形屋の内輪ばなしをおもしろ可笑しく話すのにあっけにとられる。
(5)長屋では、易者が神功皇后さまがいいと易を立ててくれたが見料に五十銭取られる。
(6)次に講釈師のところに行くと、「太閤記」を一席読まれた上、神功皇后をすすめられ、
  また五十銭取られてしまう。二人は苦労してひねり出した飲み代を失ってしまった。
(7)ようやく人形を持って神道者のところへ行くと、神道者は喜んで「神功皇后一代記」を
  語り始める。またか、と思った二人
  「待った、待った、先生、あんたんところも随分長いね、その様子じゃ、いくらか銭を取ら
   れるんでしょうけど、二人とも一文なし、あんたんところへ払う分は、長屋へのお返しの
   中から差し引いといてください」でサゲ。

得意ネタの一つにしている柳家権太楼の場合を例にするならば、(4)の部分、甚兵衛さんと松っつぁんが、ませた人形屋の小僧の可笑しくエロティックな内輪話を聞く場面を盛り上げてサゲにしている。
三木助版から、この小僧がどんな話をしているか、この噺をご存知ない方のために上述書からト書きを含め引用する。
*この部分を知らないでおいて生で最初に出会いたい方は読まないようご注意申し上げます。
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「先月あたしがおなかが痛くて部屋で寝てェたんで、隣の部屋がおもよ
さんの部屋なんで、ちょうど、薮入り(やどり)に行く日なんで、すっかり
着物を着かえちゃって(右手で顔をなで)鏡台の前でこうやってお化粧を
してえたン・・・・・・そこィトントントンッて若旦那が上がってきて『おもよ・・・
やどりに行くのにそんなに気取って行っちゃァあたしが心配じゃァないか』
・・・そ言ってくるんで・・・・・・そしたらおもよさんが、『女の部屋へ男なん
ぞ上がってくるもんじゃありません、だれか来るとおかしゅうござんすから
下へおりてらっしゃい』『大変に髪(あたま)が乱れているから、俺がちょい
となでつけてやる』『女の髪が男になでつけられますか』『つけられるか、
つけられないか、櫛をこっちィ貸してごらん(荷を持った手をそのままに、
肩ごと右へ揺する)』『だれか来ると変だからおよしなさい(今度は左に
揺する)』『櫛をこっちィ貸してごらん(また右へ)』『そんなとこをさわっちゃ
くすぐったい(ぐらぐら揺する)』」
「(両手で押える形で)おいおいおい・・・・・・大変な小僧が付いてきや
がった・・・・・・(後略)」
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このあたりで、演者が上手ければ場内は爆笑、となる。

権太郎はマクラで次の「五節句」の説明をする。
■人日(じんじつ):正月七日(七草粥の日)
■上巳(じょうみ/じょうし):三月三日(ひな祭り)
■端午(たんご):五月五日
■七夕(しちせき/たなばた):七月七日
■重陽(ちょうよう):九月九日

江戸時代は、五節句には、参勤中の全大名が登城して、将軍に拝謁を賜り、大名は家臣に酒食を供し、店子は大家に節句銭を届けたらしい。
この噺は、神道者(本来は「しんとうしゃ」だが、江戸っ子は「じんどうしゃ」と濁る)の家の男の子が初節句なので、長屋中に粽(ちまき)が配られたことから、長屋中でお金を集めてお祝いに人形を買おう、というのが発端だ。
*昔の噺を採り上げると、ルビがやたら増えるなァ・・・・・・。

たしかに、オリジナルのように通して演じなくても、甚兵衛さんと松っつぁんとの冒頭の問答、人形屋でのやりとり、そして長屋に向かう道中での三人の会話などで、十分に楽しめるのも事実だ。ネタの題にも矛盾はない。また、神道者、占者、講釈師といった後半の登場人物そのものが、現代では分かりにくい存在でもある。通しの場合のようなサゲがなくても江戸時代の庶民生活を彷彿させる噺であり、笑わせどころも多い。中でもご紹介した小僧の一人芝居が一つのヤマになっており、噺家にとって聞かせどころである。しかし、前半だけにしても、最近はこの噺をする噺家さんが少なくなったように思うのだが、気のせいだろうか。
今が旬な噺である。多くの落語会で、この噺を聞いてみたいし、それぞれの噺家さんの弾けた小僧さんを見てみたい、と思う。

残念ながら三木助のこの噺はCDで発売されていない(と思う)。CDで楽しむなら圓生版と、三木助が稽古をつけてもらった五代目の子息、六代目笑福亭松鶴版がお奨めだろう。
三遊亭圓生_人形買い
笑福亭松鶴_人形買い
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by kogotokoubei | 2009-05-02 14:08 | 落語のネタ | Comments(0)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛