噺の話

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落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。

NHK プロフエッショナル 仕事の流儀 柳家小三治

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NHK総合テレビの「プロフェッショナル 仕事の流儀」の今日(日が変わったので昨夜だが)は、100人目という特別版で柳家小三治師匠だった。
小三治師匠の本の中で読んだ内容もあったが、本人の生の言葉で語られるさまざまなエピソードが非常に刺激的だった。師匠小さんが「お前の噺は面白くねぇな」の一言からの苦悩。志ん生の言葉「落語を面白くするなら、面白くしようとしないことだ」という珠玉の名言。これまで、この名言は師匠小さんのアドバイスだとばかり思っていたので、意外な発見である。小さんの有名なアドバイスは「その料簡になることだ」であり、よく言われるのが「狸の噺なら、狸の料簡にならなきゃいけねえ」である。だが、今日の放映には一切この小さんの口癖のことは話題は出てこなかった。「おもしろくねえなぁ」と言ったきり床屋へ行った師匠はひどい、という発言は面白かったが。

今年8月に主任をつとめた池袋演芸場上席昼の部での姿が取材されており、プログラムの中心として使われていたが、初めて見る六畳という狭い楽屋を含め、貴重な映像だった。中休み前の三日目、その日のネタが決められず、よもやま話のマクラで探りながら始めたのが十八番の一つ『あくび指南』というのが驚きだった。こういう噺は、ある程度決めていないと出来ない噺ではないのか、という疑問である。さすが名人と思わせる一瞬だった。楽日前日の逸話も興味深い。前座が漢方薬の入った湯呑みを出し忘れていた。しかし、この萎えかけた自らにつぶやいた言葉が「小さく、小さく」だったと言う。ついつい受けようとする気持ちを戒める言葉とのこと。そして始めたその日のネタが『死神』。その時のくじけかけた気持ちをそのまま主人公の惨めさに投影したのであろう。このへんが名人芸なのかと得心した。そして、楽日は『宿屋の富』。

もちろん、落語ファン、小三治ファンには、8月の池袋でのネタの説明は不要かもしれないが、それぞれの「楽屋話」があって、師匠の心の動きがうかがえるようで、゛えっ、この時にこのネタ゛という意味で書き記しておきたかった。

上野鈴本で恒例だった余一会での独演会は今年で終了らしいが、池袋の真夏の主任興行は、どうも小三治師匠自身が”まだ頑張れるだろうか”ということを測るバロメーターと考えているようであり、また「江戸っ子」としての寄席へのこだわりでもあるようなので、しばらく続けてもらえそうな気がした。もちろん、「無理をするこたぁねぁ」と思ってやめても不思議はないのだが。
真夏の池袋、平日の昼席、夏休み前でいろいろ忙しい時期、しかし来年もご出演いただけるのであれば休みをとってでも行って、立ち見でもいいから行ってみようかと思った次第である。あの狭い特殊な空間で演者の呼吸音が聞こえる寄席というものは、なかなかホールでは味わえないものだ。

ちょっとだけ、師匠小さんとのやりとりについて補足したい。小三治師匠の著書『落語家論』の中で、次のようにある。第一章の「面白くねぇな」の部分から抜粋する。
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「お前の噺は面白くねぇな」
このひとことは効いた。グサっと心の臓を突き抜けた。しかも、どうしたら面白くなる
のでしょうかとは聞けない威厳があった。そんなことは自分で考えるのだ、人に聞く
もんじゃないうという、裏を含んだ口調であった。
(中略)
ボクは、師匠小さんはほったらかしで何も教えてくれない、と愚痴を言っている訳
ではない。その逆で、よくほったらかしにしてくださいました、という気持ちでいっ
ぱいだ。ここはこうやるんだよと親切に教えてくれれば、なんとかそのようにできる
かもしれないが、それ以上のものはできなくなってしまわないだろうか。
(中略)
あるとき、師匠が「気の長短」を演じるのを人形町末広の高座のソデで見ていて、
ハッとした。気の短い方がじれてくるところがあの噺では一番むずかしいのだが
(これもずっとあとになってわかってきたことだが)、その短七つぁんにハッとした。
ダラダラした長さんの話を聞いているうちに短七つぁんがイライラしてくるわけだが、
イライラしてくると、座ってる師匠の足の指がピクピク動いたのである。お客さん
からは、どんなことがあったって見えない場所だ。ボクはそれを発見したうれしさ
とあきれ返ったのとで、ボーッとしてしまった。
「その料簡になれ」
なァるほどなァ。イライラするときは足の指を動かせ、と、もし教わったとしたら、
フーンそんなもんかで終わっちまっただろう。
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月報『民族芸能』に連載された「紅顔の噺家諸君」というタイトルのエッセーを中心に本書は2001年に小沢昭一さんが発行者である”新しい芸能研究室”から単行本で発行され、昨年末、ちくま文庫でも発行された。上記の内容は昭和61年に書かれたもので、小三治師匠がまだ40歳代である。さすがに筆に勢いがある。68歳の今日の番組を見たことで、この本を読み返す楽しみも増した。私にとっては、著作と映像、昔と今、師匠と弟子、寄席とホール落語、といった複数の対比を楽しむことにつながる好企画だった。そこには、司会者とゲストという対比もあって、さすが小三治師匠、冒頭では司会者の茂木健一郎さんを鋭い質問でやり込める一瞬があり、このあたりも「名人」、なのである。

柳家小三治_落語家論
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Commented by Miyake at 2008-10-22 17:27 x
噂では聞いていたのですが、この番組見逃してしまいました。
mixiの小三治コミュニティでも話題になってたので気になってたのですが、面白かったみたいですね。

当方、志ん朝師匠のDVD上下巻(amazonで購入がお薦めです)を聞いて、寄席気分に浸ってる日々です。

Commented by 小言幸兵衛 at 2008-10-26 22:40 x
コメントありがとうございます。
そのうち再放送は確実だと思います。小三治師匠の生き様が良いのです。志ん朝師匠のDVD、非常に悩んでまだ買っていません。どうも落語の映像はがっかりすることが多くて、CDなど音声でいろいろと映像をイメージしながら聴くほうが性に合っているようです。遅かれ早かれ購入することは間違いないとは思うのですが。

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by kogotokoubei | 2008-10-15 00:27 | テレビの落語 | Comments(2)

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by 小言幸兵衛