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『小沢昭一がめぐる 寄席の世界』

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『小沢昭一がめぐる寄席の世界』

最近文庫になってはじめて読んだが、落語ファン、演芸好きには非常にうれしい対談集である。

目次に対談相手と、話の主題めいたものをうかがい知ることができる。
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前口上   寄席と私
桂米朝   落語という゛ふるさと゛へ
延広真治  江戸には寄席が百二十軒もあった
柳家り助  背水の陣、四十一歳で前座になる
桂小金治  自分の落語をほめられて初めて泣いちゃったよ
国本武春  夢は、浪曲を「ROU MUSIC」に
小松美枝子 落語家と切っても切れない出囃子
神田伯龍  百二十五歳まで講談を続けたい
あした順子・ひろし 志ん朝師匠を張り扇でひっぱたいちゃった
笑福亭鶴瓶 上方落語の伝統を背負う予感
北村幾夫  新宿末広亭よ、永遠なれ!
立川談志  完璧な落語をやる奴より、俺のほうが狂気がある
矢野誠一  落語も浪曲も講談も、年をとるほど分かってくる
あとがきがわり
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対談相手の選び方が、まさに゛小沢昭一的こころ゛でうれしい。

落語家との対談のトップには人間国宝桂米朝師匠が登場。
米朝師匠が4つ年上だが、正岡容の弟子仲間としてこの二人の付き合いは長い。
話の中で「スケールの大きな落語とは」というテーマが興味深い。
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米朝 スケールの大きい落語というのは、どんなもんがあるかなと思って考えたん
    やけれども、案外ないんでね。「盃の殿様」というのが東京にありますけど、
    あれなんかは江戸の落語には珍しく、えらい大きな噺やな。・・・・・・・
小沢 いい噺ですね。
米朝 ・・・・・・大きい噺ですよ。長い噺ではないんやけどね。こういうもんは大きい
    なと思うんですよ。大坂落語でいろいろ考えたら「冬の遊び」というええ噺が
    あってね。
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「冬の遊び」の内容を説明すると、こうである。
(1)なにかの事情で奉行所ににらまれ、夏の真っ盛りに花魁道中を
  やることになった。
(2)堂島の米相場町の連中が遊郭のある新町にやって来てお目当て
  栴檀太夫を呼んでくれと言ったが、道中のさなかなので、と断られる。
(3)堂島の衆、「えっ、道中、聞いたか」「いや俺は知らん」と、事前に
  挨拶がなかったことが面白くない。
(4)堂島衆が帰ろうとすると、仲居のお富があわてて押しとどめ、急いで
  道中に栴檀太夫を探しに行く。
(5)お富が道中の見物客をかき分け「新町の一大事」と叫び、相談の結果、
  役人をお茶屋に連れて行っている隙に栴檀太夫を急病と偽って連れ出した。
(6)新町に戻ってくると、道中で歌舞伎の服装をしていたため、栴檀太夫も
  「船弁慶」の知盛の格好をしているのを堂島衆が見て、みんなで冬の袷を
  着て、襟巻きをして「冬の遊び」をすることになった。
(7)そこへ幇間が「暑いこったんなー」と入ってきた。店の主人に着ぶくれ姿に
  された幇間が暑さに辛抱できなくなって着ているものを脱いで庭に飛び降り、
  井戸の水を浴び出す。
(8)「冬の遊びなのになにしてんねん」「寒行のまねをしています」・・・がサゲ。

 米朝師匠は、この噺に当時米相場を舞台に勢力のあった堂島衆の影響の強さや、夏真っ盛りに「冬の遊び」に興じる洒落っ気を含め「スケール」が大きいと評しているのだろう。まだ生で聞いたことがない噺なので、米朝一門の誰かが挑戦するのを、ぜひ期待したい。(もう誰かやっているのかな・・・)
有名な「地獄八景亡者の戯れ」の発掘に代表されるように、こういう埋もれかけた良い噺の探索をいまだに続ける米朝師匠の姿勢が好きだ。どうか長生きを願います。

 談志家元からは、昔の良き時代の寄席の思い出がふんだんに語られている。ここ数年のご自分の著作や古い音源の発表などでも分かるが、家元ご自身が一人の観客として、講談や色物を含めた寄席の世界が大好きでしょうがない、という思いが十分にうかがえる。

 それぞれの対談相手に応じて聞き上手な小沢昭一さんが、もっとも語らせたい部分をなんとも言えない間合いで引き出してくれている。 名人の幇間は話し上手ではなく聞き上手だというが、聞き手の小沢さんにそんな名人芸を見る思いだ。

 あした順子・ひろしの両師匠の話には、お二人の芸歴に 関する多くの発見がある。漫才の本場である大阪でみっちり鍛えた時代など、その芸の根本に強固な基本が出来ているから、同じネタであっても何度も楽しめる芸なのだなぁ、と 納得。これからも活躍していただきたいし、一席でも多くお二人の芸に接したい。
 出囃子の小松美枝子さんの話には、寄席の裏舞台を少し覗かせてもらう楽しさがあった。
 末広亭席亭北村幾夫さんには祖父銀太郎大御所からの伝統をぜひ守って 欲しい。

 トリを俳句仲間の矢野誠一できっちり締めるというのも、よく出来たある 日の寄席のようでなかなか考えられた構成だ。

 とにかく寄席の灯を消さないで欲しいし、そのためにもまた寄席に行かなくては、 と思わせてくれる。
 小沢昭一さんの若々しいポジティブな姿勢にも大いに刺激を受けた。

 寄席ファン、落語や演芸ファン必読の好著だ。
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by kogotokoubei | 2008-10-04 09:35 | 落語の本 | Trackback | Comments(0)

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