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立川談春独演会 川崎市高津市民館 9月2日

溝の口駅前の商業ビル最上階、12階にある、初めて行く会場。
開演午後7時5分、談春師が登場で拍手。
「なぜ前座がいないかというと会場の関係で8時40分には終わってくれ、ということなので・・・・・・開演を6時半にしたらいいでしょう、と言われたけど、近所のお客さんばかりではないから、来れないですよね」“その通り”と思うと同時に、いや~な予感。
会場、あるいは会場の制約が主役になってはいけないのだ。前座なしのネタは次の2席。

『お化け長屋』 (マクラ約15分、本編約30分:19:05-19:50)
『五貫裁き』   (マクラ約15分、本編約30分:20:00-20:45)

一席目のマクラ。馴染みのある場所で、20数年前に武蔵新城にあった料理屋さんでの地域寄席で前座に呼んでもらった、という話は良かった。また、昨日の今日でもあり福田首相の辞任会見ネタをまじえ、噺のうまい落語家というのは「怪談」か「猥談」がうまい、という話で引っ張り、「お化け」の噺であることを示唆。自らの開口一番でもあり、やや乗り切れない。これも、時間制約を考えることによる悪影響であろう。マクラから、「へっつい幽霊」ならうれしいのにと思ったが、『お化け長屋』。先週のNHK「日本の話芸」で小三治師匠のこの噺がちょうど放送されていたことを思い出す。談春流は気の強い職人のはじけ具合など、さすがという部分は十分に魅せるのだが、どうも時間に追われている印象がぬぐえない。古狸の杢兵衛の手つきに「熊がしゃけを取るような格好」という表現は秀逸だった。

仲入り後、「話していて思い出した」ということで、談春師と実家の家族が一緒に味わった「怪談」ばなしについて。たしかに、この話のほうが一席目のマクラにはふさわしかっただろう。そして、博多での談志家元との親子会のネタ。内容はお約束で明かせないが、会場は大爆笑。ようやくエンジンが温まってきた感じ。少し長引いたかと思わせるマクラの後で、「珍しくておもしろくない、立川流の噺」ということで『五貫裁き』。家元が講談モノが好きなので、たしかに立川流ならではのネタだが、最近この噺は三三師のイメージが強い。大家のキャラクター設定など随所に談春流の味わいはたしかにあるものの、最後の10分は少々飛ばしすぎにならざるをえなかった。ほぼ1年前の9月3日、横浜にぎわい座での「市馬・談春ふたり会」でこの噺を聞いたことを思い出した。にぎわい座では噺がこの一席だけだった(前座こはるちゃんの『たらちね』とお二人のトーク、市馬師は『佃祭』の一席)ので単純比較はできないが、時間の制約が最大の原因だろう、やはり今一歩舌足らずの感はぬぐえない。本来なら大岡裁きの場面はもっと長いはずだ。

結果としての時間配分は絶妙だしプロの技は十分に感じた。ドッカンドッカンさせる勘どころもはずさないし、実際に受けていた。しかし、夜7時からの落語会、客は9時までは当然、長講なら9時半も覚悟なのだ。たまの、そしてハレの落語会を十分楽しみたいというのに、会場の都合で2時間未満での、それも談春師クラスの落語会ということ自体に無理がある。

さて、会場への不満の付録である。終演後、数百名がいっせいに3台のエレベーターに向かうのだが、会場スタッフによる誘導もなく、効率が悪い。加えてエレベーターのソフトが、どれか一台が最上階12階に止まるなら、他のエレベーターは勝手に下の階から降りてしまうという設定のようで、「さぁ、来るぞ」と思っているトタンに、「降りる」の点滅が消え、すぐ下の11階やレストランのある10階から降り始める。まるでミステリーなのだ。結局いくら早く終演したところで、エレベーター待ちが15分~20分。加えて階段への扉も閉じており、待ちきれないお父さんから、たまらず、「なぜ、階段を使わせないんだ」との一声。市役所なのか主催者なのか居合わせた気の弱そうなスタッフが「危険防止のため使用できません」と答えたものだから、「火事になったらどうするんだ。川崎市の方針で焼死させるのか」・・・・・・。エレベーターを待つストレスのたまった一同、お父さんに同感なのだった。スタッフが『お化け長屋』で最初に逃げ帰る借り手で、お父さんが威勢のいい職人に思え、一人、笑いを噛み殺した。
あえて、今日のネタで苦しい洒落を言うのなら、「お化けエレベーター」と「動かん騒ぎ」が最後には主役になってしまった。公演中も、観客は最初に時間制約のことを聞いているものだから、談春師の汗をかきながらの熱演を時計を見ながら聞いていたのではなかろうか。少なくとも私はそうだった。

時間、寒暖、照明具合、音声などなど、芸を披露する環境は、なるべくその存在を感じさせないほうがよい。胃痛のときに胃の存在を感じる、ごとくである。もし、この会場で今後も落語会を行うのであれば、ぜひ学習効果があることを期待したい。多摩川超えでの落語会は、そう多くはないのだ。特に田園都市線沿線ではなおさらである。聞きたい落語家が、「あそこではやりやくない」と思ったとたんに、落語ファンのチャンスも減る、ということを肝に銘じて欲しい。志の輔師の『歓喜の歌』着想のエピソードとして、一部公共の会場における対応のまずさが語られていたが、なるほどと共感できた夜だった。
もちろん、すべてのお客様が私のような思いになったとは限らない。十分に楽しんで帰った方も多かっただろう。早めにエレベーターに乗れた人は、「動かん騒ぎ」には見舞われなかったはずだし。田園都市線沿線で、会社からも近い会場。今後も落語会の開催を期待しているからこその小言である。
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by kogotokoubei | 2008-09-02 23:10 | 落語会 | Trackback | Comments(0)

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by 小言幸兵衛